車内のひと時
夜、静けさとは異なる沈黙の中、ユーリは自身の境遇を話した。勿論全てではない。自分の出自や話せ無い諸事情は端折って。時折質問はされるが答えられない時は静かに首を振ると、それ以上は言及してこない。向こうも踏み越えてはいけないラインを分かっているんだろう。一通り話終え、再び沈黙に包まれる。聞かされた話が殊の外重大だったらしく、お喋りなサクラですら口を閉口したままだ。
重々しい雰囲気のキャビンで久しぶりに口を開いたのはレイラだ。こんな状態の中彼女はたった一言、「眠い」と口にする。唐突に発せられた一言に全員の反応が遅れた。一番最初に反応できたカムイが二人をゲストルームに案内した。
部屋に入るなり、ベッドに倒れ込みそのまま睡眠に入ったレイラ。某テストで0点を連打する小学生にも勝るとも劣らない速度で寝息を立てる。次元渡りにさっきの戦闘、彼女の疲労もピークに達したんだろう。乱雑に脱ぎ捨てられたジャケットやズボンをユーリが拾い上げ、綺麗に畳む。ベッドに腰掛けレイラの寝顔を眺める。不意に喉の渇きを覚えたユーリはキャビンに足を運んだ。
「どうしました?」
「ああ、ちょっと飲み物が欲しくて。……サクラさんは寝なくていいのか?」
「私は夜番なので。あ、後サクラで良いですよ?」
飲料水を渡したサクラが隣に座る。しばらく会話が無く静寂が続くがサクラが口を開いた。
「私の師匠……祖父も事故で亡くなったんですよ。祖父はこのキャラバンを立ち上げて、街間の巡航ルートを作って交易の頻度を上げて人々が豊かに暮らせる様にって……。でも流行病にかかっちゃって」
言葉を詰まらせたサクラ。その胸中をユーリは充分に理解出来ている。最初に出会った時の明るさは今は影も形も無い。
「ごめんなさいっ。暗い話しちゃって……ユーリさんももう休んだ方が良いですよ。おやすみなさい、寝心地はあんまり良くないですけどね」
言われた通りの寝心地の悪いベッドだったが、意外にも寝起きは悪くなかった。先に起きていたレイラの姿が見えなかったが、そっちはキャビンでカムイ達と話をしている。
「おはよ。今日中には街に付くみたいよ」
「そうか、カムイさんありがとうございます」
「いいよいいよ。ここでは困った時はお互い様だからね。……ただ」
「ただ?」
――ゴトンッ
激しく車体が揺れた。何か大きなものに乗り上げたような揺れ方だ。レイラは思わず胸の拳銃に手が伸びたが、
『あ~、わるいわるい。ちょっとやったいまったよ』
スピーカーから流れるスズナの声。はぁと溜息をついたカムイが申し訳なさそうに口を開く。
「今日の運転係、スズナ君なんだけどさっ……運転の粗さでっ……乗り心っ地物凄く……」
まるでカムイの言葉を遮る様に揺れる車内。流石に慣れているカムイは顔色一つ変えずにこう言った。
――トイレはそこにあるよ。と
新年あけましておめでとうございます。関東で久しぶりに雪が降りましたね。たまたま仕事が休みで命拾い