~大慌ての『次元渡り』~
平和な世界に見えた。少なくとも私の目には。
だけど、今この目の前で起きている現実を実際に目の当たりにすると、本当に危ういところにあるんだなと理解しなければいけない。頭のどこかでは理解してたつもりだったけど、自分の楽観的で思慮の浅さは時々嫌になる。
取り敢えず気持ちを入れ替えよう。前金も貰ってるし、仕事とプライベートは別けて考えないと。
結末? 私の知ったことじゃないわね。だって……。
「……一応成功って感じかしらね?」
「これで成功っていうならこの世界には失敗って言葉は無いだろうな」
「それはアンタがいた『次元』の話でしょ? ここでは通じないわ」
一組の男女が互いに皮肉を言いあう。確かに男が文句を言いたくなるのも分からなくはない。非常時とはいえ素人がいきなり次元を渡るのに付いていく羽目になったうえ、こんな場所に言葉の通り『叩きつけられた』のだから。
「分かったよ。全く……。それで、ここは一体どこなんだ? 辺り一面砂だらけ、街も人も動物も見当たらないが」
「さぁ?」
「さぁって……」
服の砂を払う手が止まる。それもそうだ。今の二人の現状、少なくとも男の方はこの砂漠を歩くにはどう見てたって不向き――を通り越して場違いなのだから。
「あんまりやいのやいの言ってると無駄な体力を使うわよ。別にここがどこだって良いじゃない。私達はここに来るのが目的じゃないの。もう一回同じことをして、次は人のいる場所に行けばいいじゃない」
「……ああ、それもそうか。なら早速そうしよう。次は頭から落とさないでくれよ?」
「それはアンタの身体能力の話だから私の管轄外よ」
そういって女の方が首に下げた物体を手に取る。先程の会話から察するにその物体で何かをしようとしているらしい。両手に乗せ念じる様に目を閉じる。するとその物体が眩く輝き二人の空間を――
――そんな事は起きずにぽつんと砂漠に佇む二人がいた。
「おい」
「……」
「おい」
両手に乗った物体をまじまじと見ている女に詰め寄る男。想定していた事態とは大きくかけ離れた現状に閉口しか出来ない。
「……レイラ。どういう事かは説明してもらえるのか? 何で『次元渡り』が出来ないんだ?」
「おかしいわね……。さっきと同じ要領でやったのに……」
絶対に効果が無いと分かっている筈だが、その物体を振ったり軽く指で弾く。どうやらレイラと呼ばれたこの女性の首にぶら下がっている道具が『次元渡り』と呼ばれる行動に必要らしい。道具の故障か、それともエネルギーの問題なのか、本人達の思うような挙動を起こさなかった物体をただ茫然と見つめている。
「ユーリ」
男の方が名前を呼ばれた。二人の視線が交わる。声のトーンから察するに男は――ユーリは一抹の不安が胸中に湧き上がる。彼の思い描く――いや、彼でなくともこの現状に同行すれば誰もが容易に想像できるでレイラの次の台詞。それは――
「使い方。よく分かんないわ」
ぱっと思いついてぱっと書きました。