第一話「出会い」
雲ひとつ無い綺麗な夜空、月の光が大地を照らしている。
ここは桜坂市の町外れの公園に向かう道。
「今日も綺麗だな」
そう呟くのは歩いている1人の男性。
背丈は170cm程だろう、一般男性の平均的な身長だろう。
学校の制服を着ていて胸には校章が描かれている。
あの校章は桜坂市の北の方にある空明高等学校の校章だ。
そして今歩いているのは空明高等学校の高校2年生、天音夏彦だ。
姉と2人で暮らしている。
母さんは数年前に他界し、父さんは俺たちのために海外に転勤して働いている。
母さんが他界してから俺はろくに喋らなくなってしまった。
そんな俺を姉さんが心配して俺を連れてこの街に引っ越してきたのだ。
そんな家庭でもグレなかったのは姉さんが俺の事をしっかり見ていてくれているからだ。
そんな俺のことを大事にしてくれている姉と昔日課にしていた散歩だが、最近は恥ずかしくて俺一人で行くようになった。
だが最近は夏の暑さもなかなかになってきているので昼間は流石に出かける気にならない、だから夜に出掛けるようにしている。
夜に出掛けるので雲がない日は綺麗に星が見える。
いつもは何も気にせずに歩いているのだが今日は一段と星々が輝いているように見えた。
そんな夜空を見上げながら歩いていると目的地にしている現の池に到着した。
近くにある自動販売機で飲み物を買ってベンチに座り飲み終えるまで月と星の明かりに照らされた池を眺める。
いつもはさっさと飲み終えて帰路に着くのだか今日の景色は美しすぎてその場からなかなか動けずにいた。
気づけば30分ほど時間が経っただろうか。
「そろそろ帰らないと姉さんが心配するな」
俺は空き缶をゴミ箱に捨て池沿いを歩き出した
歩いていると向こうから人影が近づいてくる
数メートルまで近づいた所で俺は心を奪われた。
月や星の光を吸収して光っているようにも見える綺麗な白い髪、琥珀色の瞳、透き通るような柔肌、そんな等身大の人形にしか見えない140cmくらいの背丈、俺の目はその綺麗な美少女に釘付けになっていた…
少女「ねえ」
そんな事を考えていたら急に声をかけられドキッとした。
夏彦「はっ、はい」
俺は素っ頓狂な声を上げてしまって羞恥で顔が赤くなる。
少女「空明高校までの道を教えて」
どうやら道を間違えてこの池まで来てしまったようだ。
俺は池の近くにある地図で学校への道を説明した
少女は「ありがとう」と言って踵を返し歩いて行こうとする。
俺は何故か慌てて声を掛けていた。
夏彦「待って」
少女「何?」
声を掛けられた少女は少しムスッとしたようにこちらを向いた。
夏彦「名前を教えてくれないかな?」
少女は首を傾げる、何故教えなければならないのだろうと思っているようだ。
目を凝らすと?マークが見えそうだなと思いながら自己紹介する。
夏彦「ここで会ったのも何かの縁出し名前を聴きたいって思ったんだ、俺は夏彦、天音夏彦だ」
少女「月詠彩星」
夏彦「彩星か、いい名前だな」
彩星「ありがとう、それじゃ」
俺は綺麗に輝く彩星の髪に見とれてこれ以上声をかけられずその背を見送った。
少しして電話の着信音がなり我に帰った俺は携帯を確認すると、姉さんからの電話だった。
夏彦「もしもし」
春香「夏彦くん!いつまで散歩に行ってるの!早く帰ってきなさい!」
夏彦「ごめんなさい姉さん、今帰るよ」
電話を切り時間を確認すると家を出てからもうすぐ2時間くらい経とうをしている。
夏彦「明日も学校だし帰るか」
携帯をポケットに入れる
コンビニにより姉さんの好物のアイスクリームを買い、帰路についたのだった…
「ピピピ…ピピピ…」
目覚まし時計の音で目が覚める
いつもはすぐに起き上がり準備するのだか昨日は遅くまで散歩していたので瞼が重い
目を閉じ2度寝しかけているとコンコンとノックする音が聞こえガチャッとドアが開く
春香「おはよう夏くん、起きてる?」
そう声を掛けて入ってきたのは天音春香、身長160cmでおっとりした優しい性格の俺の自慢の姉だ。ちなみに美人。
夏彦「おはよう、姉さん」
いつも起きてる時間になっても起きて来ないので起こしに来てくれたのだろう。
夏彦「ウトウトしてベットから出れなかった」
春香「昨日遅くまで散歩していたからだよ、早く準備して、ご飯できてるから」
俺は返事をしてすぐにベットから起き上がり学校の制服に着替える。
机に出しっぱなしにしていた教科書を鞄に入れて部屋を出る。
洗面所で顔を洗い、トイレを済ませた後、食卓に座り朝食をいただく。
今日の朝食はパンとスクランブルエッグとベーコンとサラダと、ごく一般的な朝食だ。
春香「バターとジャムいる?」
夏彦「バターだけでいいよ」
春香「はい、どうぞ」
渡されたバターをパンに塗り口に頬張る。
ピンポーン…
呼び鈴がなる音が聞こえる。
春香「あら、紗理奈ちゃんが来たみたいよ、待っててもらう?」
夏彦「うん」
急いで朝食を済ませ歯を磨き玄関を出る。
紗理奈「おはよ」
夏彦「おう」
こいつは高橋紗理奈、隣の家に住むいわゆる幼馴染だ。
小さいころこの街に引っ越してきた俺は誰も知っている人もいなくて公園で一人遊んでいた。
その時に声をかけてくれたのが紗理奈だ。
俺より少し低いくらいの背丈で片方だけ髪を結んでいる。
よく似合っているのに俺が褒めると顔を真っ赤にして怒り出すのであまり褒めないようにしている。
紗理奈「今日は遅かったのね」
夏彦「昨日遅くまで散歩してたから眠たくてベットから出れなかった」
紗理奈「そうなんだ、明日からは直接部屋に起こしに行ってあげよっか?」
夏彦「いやいいよ、朝からうるさいのはゴメンだ」
紗理奈「うるさいってどういうことよ!」
夏彦「はははッ!」
他愛のない話をしながら登校する。
家から学校までそんなに離れていないのですぐに到着する。
下駄箱で上履きに履き替え教室に向かう。
2年A組、俺と紗理奈のクラスだ。
俺の席である窓際の1番後ろの席に座り教科書を出す。
ちなみに紗理奈は俺の前の席だ。
他の学校なら出席番号順に席が決まるのだろうが、この空明高等学校は、入学式の時に早いもの順で席をとるという変わった風習がある。
まあそのおかげで一緒に早く登校した俺と紗理奈はこの窓際の席の1番後ろとその前の席を確保することが出来た。
ある程度準備か整うと…
「オッス」と声をかけられ顔を上げるとパッと見チャラ男にしか見えない男が立っていた。
俺と同じくらいの身長。細マッチョみたいな体型。
こいつは1年の時にできた友達、斎藤結翔だ。
結翔「今日も相変わらずだな」
夏彦「お前もな」
紗理奈「いつも元気ね、あんたは」
結翔「よう紗理奈、お前はいつも可愛いな」
紗理奈「あんたに言われても全然嬉しくないわ」
結翔「まあそう言うなよ、本心なんだぜ」
紗理奈「ふん」
紗理奈は興味が無くなったように前を向いた
すぐにチャイムが鳴る。
結翔「じゃあ席に戻るぜ」
担任の坂上先生が教室に入ってきてホームルームが始まる。
連絡事項をさっと済ませ1限目の授業が始まった。
適当にノートを取りつつ窓の外を見る 。
ボーッとしているとグラウンドの隅に彩星が座っていた。
俺はびっくりして椅子から立ち上がった。
坂上先生「天音、どうした?」
夏彦「すいません、外に知り合いがいた気がしたので」
坂上先生「そうか、でも今は授業中だぞ、今日はいつもより多く宿題を出す」
夏彦「はい」
大人しく椅子にすわる。
もう一度グラウンドに目をやると彩星の姿は消えていた。
キーンコーンカーンコーン…
やっと4限目の授業が終わり昼休みになった
紗理奈「夏彦、今日はどこで食べる?」
夏彦「今日は中庭かな」
紗理奈「うん、行こ」
教室を出て中庭に向かう。
外に出た時に一応彩星の姿を探すが、それらしい姿は見えない。
諦めて大人しく中庭に向かう。
何故、彩星は授業中にグラウンドの隅に座っていたのだろうか?
そもそも彩星はこの学校の生徒なのだろうか?
色々と考えを巡らせるが本人に確認しなければ答えは出ない。
なら今日の夜も初めて出会ったあの池に行ってみようかな。
約束した訳でもないのにその場所に行けば出会えるような気がした。
紗理奈「…ひこ…夏彦!」
夏彦「なんだ?」
紗理奈「何回も呼んだ!」
夏彦「ああ、悪い」
紗理奈「中庭、着いたよ」
夏彦「あのベンチで食うか」
ベンチに座り昼食の準備をする
俺は姉さんが作ってくれた弁当開け食べ始める
因みに紗理奈も弁当だ。
昔から料理ができる紗理奈は自分で弁当を作っている。
2人で話しながら食べていると声が掛けられた。
「中庭に行くなら声掛けてよ!」
顔を上げるとそこにいたのは隣のクラスの如月凛、紗理奈の友達だ。
パッと見子供にしか見えないがそれが逆に元気一杯の凛という女の子を輝かせている。
ちなみに紗理奈は友達と思っていないって言っている。
紗理奈「なんで貴方に声を掛けなきゃいけないの?」
凛「友達でしょ、一緒にお昼食べたいの!」
紗理奈「好きにすれば」
凛「じゃあ好きにする!イェーイV」
凛はそう言いながらVサインをしてポーズを決める。
本人に曰く嬉しい時にするポーズだという。
因みになにかのアニメのオープニングのパクリらしい。
俺もやってみてと言われた事があるが恥ずかしくてそんな事は出来ない。
そんな事を考えながら見ていると凛は紗理奈に密着するように腰を下ろした。
紗理奈「暑苦しい」
凛「好きにしろって言われたもん」
紗理奈「はあ〜」
溜息を吐きつつも嫌がらない姿を見ていると紗理奈も凛のことを嫌っていないと思う。
そんなやり取りを見ていると急に話題が変わった。
紗理奈「そういえば何で授業中に立ち上がったの?」
夏彦「いや、グラウンドの隅に人が座ってたから驚いたんだ」
紗理奈「私もグラウンド見てたけどそんな人いなかったよ?」
夏彦「俺も座ったあと確認したらいなくなってたんだ」
紗理奈「そうなんだ」
夏彦「実は昨日、現の池を散歩してる時に道を聴かれたんだかその人が座ってた」
凛「どんな人ー?」
夏彦「綺麗な髪で琥珀色の瞳をした人形みたいな女の子だった」
凛「そうなの?ねぇねぇ、可愛かった?」
凛が猫みたいに擦り寄ってくる。
夏彦「うん、可愛かったよ」
紗理奈「ふ〜ん、そうなんだ」
何故か紗理奈の機嫌が悪くなったような気がする。
夏彦「どうした、機嫌悪そうだな?」
紗理奈「別に悪くないわよ」
紗理奈と凛とそんな話をしていると予鈴が鳴る。
凛「早く行かなきゃ、次体育なんだー」
そう言いながらパタパタと片付ける凛。
凛「じゃあね!」
そう言いながらパタパタと走り去って行く背中を見ながら困り事なんかないんだろうなと思った。
夏彦「俺達も行こうか」
座っている紗理奈に手を差し出す。
紗理奈「…」
いつもは手を取ってくれるのだが今日は無視されてしまった。
やはり機嫌が悪いのだろう。下駄箱で靴を履き替えていると5限目を知らせる鐘が鳴る。
急いで教室に入り席に座る。ギリギリ間に合ったようだ。
5限目の授業が始まった。窓の外を眺めながら願った。
またあの少女に会える様に…
授業が終わり帰り支度を進める。
紗理奈も準備ができたようで声を掛けてきた。
紗里奈「夏彦、帰ろ」
夏彦「おう」
鞄を持ち教室を出る。校舎は3階まであり上から1年生、2年生、3年生の順番だ。
俺たちの教室は2階にあるので階段をおり下駄箱へ向かう。
紗理奈「ねえ、夏彦」
夏彦「なんだ?」
紗理奈「メビティーの新刊借りにいっていい?」
夏彦「いいぞ、帰りに寄るか?」
紗理奈「うん」
メビティとは最近流行りの漫画でロボットが宇宙を開拓していく物語でメビウス・∞(インフィニティ)の略称だ。
あまり女子には人気がないが何故か紗理奈は俺の部屋にあったものを読みどハマりしている。
最近新刊が出て購入していたので読み終わるのを待っていたのだろう。
恐らく授業中も読みたくて仕方なかったのだろう。いつもより早足に歩いていく。
やはり学校が近くて帰宅部というのはいいものだ。ものの数分で帰宅できる。
特に学びたい科目もなかった俺は近いと言う理由だけで空明高等学校を受講した。
電車通学も憧れてはいたがやはりギリギリまで寝れて直ぐに帰宅出来るのに越したことはない。
恐らく紗理奈も同じような理由であの学校を受講したのだろう。
夏彦「着いたな、取ってくるよ」
紗理奈「待ってる」
部屋に戻り鞄を置いて漫画の最新刊を持ち再び玄関に行く。
夏彦「ほらよ」
紗理奈「ありがとう、楽しみにしてたんだ」
夏彦「そうかよかった、機嫌なおったみたいだな」
紗理奈「別に悪くないわよ」
夏彦「明らかに悪かっただろ?話しかけても全然返事してくれなかったじゃないか」
紗理奈「別に、夏彦がニヤニヤしてたのが気に食わなかっただけ」
夏彦「俺、ニヤニヤしてたか?」
紗理奈「女の子のこと可愛いって答えた時にね」
夏彦「そんな事ないと思うけど」
紗理奈「そんな事あるの…もうこの話は終わり、じゃあね」
紗理奈は不機嫌そうに自分の家に入っていった
やはり乙女心というのは分からないな、と思いながら俺も家の中に入り、リビングでテレビを見ながら姉さんの帰りを待つ。
それから暫くして姉さんが帰宅し晩御飯を食べた。いつものように服を着替え散歩に出かける準備をする。
夏彦「行ってくるよ、姉さん」
春香「あんまり遅くなっちゃダメだよ」
夏彦「分かってる」
春香「気をつけてね」
夏彦「了解」
靴を履き玄関を出る。
紗里奈「夏彦」
隣の家の上を見上げると紗理奈がいた。家から俺が出るのが見えたので声をかけてきたのだろうか?
夏彦「どうした?」
紗理奈「漫画読んだよ、面白かった」
夏彦「それならよかった」
紗理奈「返しに行こうか?」
夏彦「明日でいいよ、今から散歩行くし」
紗理奈「もしかして女の子目当て?」
夏彦「違うよ、いつもの日課だよ」
紗理奈「本当は会えるかもしれないと思ってるんじゃない?」
紗理奈「帰りもちょっとソワソワしてたしね」
夏彦「そんな事ない、じゃあ遅くなると怒られるから行ってくるよ」
紗理奈「ふ〜ん、行ってらっしゃい」
居心地が悪くなりさっさと話を打ち切って歩き出す。今日も昨日と同じ空だ。
同じ空模様だからか分からないが会える気がする。
だが道を間違えて池に来た彩星に会えるのだろうか?分からない。とりあえず行ってみよう。
現の池に到着した。相変わらず人気がない。
今日も飲み物を買ってベンチに座り星を眺める。
星に詳しくはないが二つだけ分かる星がある。ベガとアルタイル。いわゆる織姫と彦星だ。
夏の大三角を形作る3つのうちの2つだ。あと1つの星の名前は覚えていない。この2つの星を覚えているのには理由がある。
昔、俺の母さん、天音由紀子と縁側で夜空を見上げている時に教えてもらったからだ。
由紀子「夏彦、あの星がわかる?」
夏彦「うん見えるよ」
由紀子「あの星はベガ、そしてあっちはアルタイル」
夏彦「ベガとアルタイル?」
由紀子「七夕の織姫と彦星の話は知ってるわよね」
夏彦「うん、知ってるよ」
由紀子「その織姫がベガで彦星がアルタイルなの」
夏彦「そうなんだー、知らなかった」
由紀子「大人になって女の子を守る力が付いたら…ちゃんの彦星様になってあげなさい」
夏彦「分かった、僕が…ちゃんの彦星様になる!」
由紀子「うふふっ、応援してるわ」
ふとそんな事を思い出して懐かしくなり頬が緩む。
…ちゃん、名前なんだったっけ?
そんな事を考えていると声を掛けられた。
「なんで笑ってるの?」
聞き覚えのある声にドキッとしてそっちを向いた。
自分の思いが通じたのか分からないがその姿を確認してさらに頬が緩む。
何を話そうか?と考えながらその少女に話しかけた…