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その企みが恋慕を誘う

『ウィル。私、決めたわ』


『何がだい?』


『結婚よ』


『へぇ』


『私、するわ』


『誰と?』


『アシュリーよ』


『ほぉ』


『申し込まれたの』


『誰が?』


『私よ』


『そうか』


『だから』


『おめでとう。良かったじゃないか』


『え、いいの?』


『アシュリーは良い男だよ』


『貴方に負けず劣らずね』


『兄弟だから』


『結婚したら貴方とは義兄妹になるのね』


『愛する妹をよろしくと言っておかないといけないな』


『やめてよ』


『俺によく似て女の好みがいい』


『あら、貴方がグレース様を妃に選んだのはさすがだとは思うわ。でもアシュリーは違うでしょう』


『そうでもないさ。君を選んだのだから』


『ただの気まぐれよ』


『王家の妃選びは遊びとは違うよ』



 ☆ ☆ ☆



 これが私とウィリアムとの最後の閨の睦言で、毎夜交わされていた関係はその日を境に……。


 ――なるはずだったのに。いやいや、可笑しいわ。どうして?


 シャロットはアシュリーと結婚すると言ったはずだ。なのにその後も部屋を訪れに来るなんて。

 愛人から妃に変わる途中段階、その時はまだ新居の準備が完了していなかった。だから部屋を移るまではそのまま愛人として使っていた寝室に滞在していたのだ。

 それでも立場は変化した。だからもう愛人ではなくなったはずだった。

 なのに毎夜ではないにしても、回数は減ったものの、やはり頻繁に。


 ――ねぇ、どうして? 言ったわよね、ウィルと義兄妹になると。


 ウィリアムは答えた。


『愛する妹を大切にするように言っておく』


 ――私も馬鹿だからウィルに囁かれると断れないの。別に愛しているとか、君だけだとか、結婚しないでくれ、なんて一言も言われてはいない。逆に祝福されたくらい。ウィルの奴、祝福したのよ。何度でも言うわ。私とアシュリーの結婚を祝福したのよ! なのにどうして相変わらず睦みに来るの? そして私も応じてしまうのだわ。だから悪女だと陰口を叩かれるのね。いいのよ、確かに悪女だもの。


 ウィリアムは誰に聞いたのか、言った。


『シャロンは本当に女達から妬まれる才能を持っているよね』


 そして、こうも言った。


『アシュリーも可哀想に』


 ――あら、アシュリーは別にいいのよ。まだ閨を共にした事はないのだもの。どうせ向こうも毎夜、女の元を訪れるのでしょうから。


 そもそも愛人との閨なんて遊びだ。

 だからウィリアムとのこんな気楽で失礼な睦言でも怒られたりしないのだ。


 ところが式が近づくにつれて、ウィリアムが部屋を訪れる事も無くなった。

 シャロットは婚姻の儀を間近に控えて、第三王子の所有する邸に居を移したのだ。さすがに弟の邸にまで足を運ぶわけにはいかなかったのだろう。


 二人の結婚は王家のものとしてはかなりの超スピード婚。決めてから式を上げるまで半年もなかった。


 ――まぁ、形なんてどうでも良かったから気にしないわ。


 もちろん偽装なのは内緒。それよりも大事なのは王家の面目だ。

 シャロットはウィリアムの愛人だった。

 王妃のグレースや同じ愛人のジェシカより寵愛を受けていたのは王宮内の人間なら誰もが知る事実。そんな女が弟と結婚するのだから王家の面目丸潰れといったところ。

 だからさっさと済ませてしまいたかったのが本音。


 キャサリンの事もそう。

 彼女は公爵令嬢でアシュリー達の従妹。昔からずっとアシュリーだけを一途に想い慕っているのは本人すら知っている。

 本来なら結婚するのは彼女のはずだった。


 ――あぁ、もう完全に悪役令嬢なのは間違いないわね。自伝小説でも書いたら売れるのではないかしら。



 ☆ ☆ ☆



 王太子夫妻のウィリアムとグレースは誰が見てもお似合い。

 それはパーティーに二人揃って登場した瞬間の、会場がシンと静まり返る雰囲気に象徴される。

 もちろん愛人を伴うわけにはいかず、ジェシカは人前に出る事が許されない。当然ではあるが。

 その点ではアシュリーと夫婦になったのだから、今後もこういう場面で出くわすのだろう。しかもシャロットに発する言葉が同じなのは、元愛人としては笑える。


 ――あら……? 待って待って。私、とんでもない失敗をしでかしたような気がするわ。普段なら、こんな事ありえない。だから二人ともあんな事を言ったのね。ウィルもグレース様も、私達が偽装だと気づいている。だって私、言ってないもの。愛人をやめるとも別れるとも解消したいとも。ただ結婚するとだけ。今まで一度もアシュリーへの気持ちを口にした事すらないわ。これってウィルと別れてない、の……? え、まだ愛人のまま?

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