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別れが幸せを呼ぶ

「ねぇ、父親はウィリアムなの! 愛人の私が他の男と不貞を働くはずないじゃない!」


「ジェシカ嬢、貴方は既に愛人ではありません。もちろん妻でもない。よって不貞という言葉は正しくありません」


「何よ、レオンなんてただの使い走りじゃない!」


「ジェシカ、失礼よ。レオン様は第二王子、その方がわざわざ貴方のお見送りに同行して下さっているのよ」


「そんなの知らないわ!」


「王家に対する無礼は許されないわ。それ以上は身を下げるというのがわからない?」


「どうして私ばかりがこんな目に遭うの?」


「それは貴方自身がよくおわかりのはずよ」


「だって仕方ないじゃない。ウィリアムは全く私の所に来てくれないし、いつもいつも貴方ばかり見て。私だって退屈で寂しくて死にそうだった。だから優しく囁いてくれる人が欲しかったのよ」


 ――あぁ、泣き出したわ。


「それはつまり、ウィリアム王太子殿下の子ではないと認めるという事ですね」


「あちらの国に行ったら本当に私は……」


「ジェシカ嬢をお迎えする旨の文書が届いています」


「あの、ウィリアムは……?」


「兄上は執務の忙しい方なので」


「お別れにも来てくれないのね」


「ジェシカ、あちらの国では失礼のない様にね。貴方は男爵令嬢、お父上の男爵の名を穢してはならないわ」


「はい……」


「身体にはじゅうぶん気をつけて。可愛がってもらいなさいね」


「私ね、貴方のようになりたかったの。もちろん無理な憧れだとわかっていた。だからせめて子供ができればウィリアムが私を見てくれるかもしれない。そう思ったの」


「貴方はまるで無邪気な子供、手の掛かる妹のようだわ。ジェシカ、可愛い息子と幸せにね」



 ☆ ☆ ☆



 ジェシカが男子を産んだのは出て行け出て行かないの、あの大騒ぎが起きた一ヶ月後。おそらくかなり気が立っていたらしく、予定より早い出産となった。


 その間もあの離れにいられたのはシャロットのおかげと言えるはず。ウィリアムはすぐにでも身重の身体を承知で放り出そうとしていたのだから。

 いくら悪いのはジェシカだとしても、彼にも責任はある。

 そこで彼女の身の振り方が確定するまでは母子共にここに置くように言ったのだ。


 助言だとか進言だとか、そんなものではない。他人事だと思えず、放っておけなかっただけだ。


 側に置く事を決心した、ろくでなしの王子からの文が届いたのはそれからさらに一ヶ月後。

 あの国では側妻が男子を産めば立場は保証されるし、権力も生じる。つまり扱いが正妃と何ら変わりなくなるのだ。

 というのも、サルスタジア王国と違って一夫多妻制。子供は既に何人もいるらしいのだが、どういうわけか継承権を手にできる男子がなかなか誕生しない。

 正妃との間には娘が三人だ。他の側妻ですら。

 そこで隣国サルスタジア王国で手をつけた王太子の愛人ジェシカが子を宿したという文。

 最初は誰も信用しなかっただろう。国を乗っ取る為に画策したでっち上げか何かくらいの。

 ところが王子本人がジェシカとの関係を認め、月日が合致する事もわかった。

 おそらくは論議が続いたのだろう。事態が急転したのはジェシカの産んだ子が男子だったから。

 彼女と濃密な時を過ごしたのは事実で、しかも待望の継承権を得ているのならそれ以上の話し合いは無意味。すっかり大歓迎ムードに変わったという。


 ただ一つの問題はジェシカがウィリアム王太子殿下の愛人だった事。

 出産後でさえ、無実を訴えていたのだ。もしかしたら本当にウィリアムの子の可能性もあったわけで。

 そんな疑惑の最中、彼は断固否定し続けた。


『絶対に僕の子ではない。シャロン以外と考えるわけがない、あり得ない』


 ――何よ、それ。私、どういう立ち位置?


 時間は掛かったが、ようやくジェシカの行き先が決定して出発する運びとなったのだ。


 ――長かったわ。あれから三ヶ月も経ったのよ。


 旅立ちに際し、サルスタジア王国とあちらの国との国境付近まで同行する事になったのは、シャロットとレオン。そして警護する近衛騎士団の面々。

 国境から先は、あちらの国が用意する迎えの馬車にジェシカ親子を乗せて行くだろう。


 ウィリアムは当然ながら見送りに来るはずないのはわかっていたし、アシュリーは嫌だと言って拒否した。結局はレオンが引き受けるしかなかったのだ。


 ――レオン様は本当にお優しい方だわ。彼の妃になられる方は幸せでしょうね。



 ☆ ☆ ☆



 ジェシカを見送った後、シャロットとレオンは馬車で王宮への道を戻る。


 道中の景色は森ばかりで目の保養には最適だ。

 あまり良くない道程のせいで、馬車の乗り心地だけは快適でないのが残念と言えば残念。


 ふと、ジェシカが必死に赤ん坊を抱いていたのが思い出される。

 侍女もあちらの国に一緒に行く事になり、その覚束無い姿に手を出そうとしたが。


『私が抱いていたいの』


 ――ジェシカは母親になったのね。まだまだ子供なのに。

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