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君は愛していないから

「シャロン」


 離れから私邸へ戻ろうとしたところで呼び止められた。


 ――あぁ、もう……元凶且つ厄介な問題児。


「ジェシカはどうなった?」


「泣いて喚いて大騒ぎ」


「出て行ったかい?」


 ウィリアムはシャロットについて来る。


「とりあえず産むまではあのまま置いておいた方がいいと思うわ」


「それは駄目だ。王太子の僕を欺こうとしたのだから罰は受けてもらう」


「ジェシカの相手は誰だったの?」


「隣国から交易に来た王子がいただろ」


「あの国とは今まで交易がなかったのよね?」


「あまり好きになれない感じの男だよ。言葉は乱暴だし、我が王宮の近衛兵を顎で使う。民に対してもどこか蔑む態度だ。それでも頭が切れて仕事のできる優秀なところが魅力であり、アンバランスさが人を惹きつけるのだろうな」


「そうなのね、私は会っていないからわからないわ。そんな王子とジェシカが関係を持ったの?」


「あんな男と君を会わせるわけにはいかない。そもそもジェシカがあんなにも尻軽だとは思わなかった。あの王子にくれてやってもいい」


「王子はお腹の父親が自分だとは知らないの?」


「側妻がもう何人もいるらしくてね」


「どうしてジェシカの事がわかったの?」


「その男に文を出していたらしく、届く事なく戻って来たのだよ」


「どんな内容?」


「読んだこちらが恥ずかしくなるものだった。結局は二人の関係を証明する形になったのは幸いだ。詳しく知りたいかい?」


「遠慮するわ」


「堂々たる愛人を持ったものだと痛感したよ」


 ジェシカがグレースに嫌われる理由はそういうところなのだろう。

 彼女はウィリアムと天秤に掛けたのだ。どちらが有益かどうかを。

 そしてそれはウィリアムの知るところとなり、ジェシカの身の破滅を招いている。


 今後は報いを受けるべく、罰が下されるだろう。

 あの離れからは出て行く事にはなるが、もしかしたらその王子からも捨てられる可能性がある。その男が知らぬ存ぜぬで通せば厄介事を引き受ける必要はなくなるのだから。

 そうなると、彼女が行き場所を失うのは間違いない。


 ただ、身重の身体だ。そう簡単に放り出すわけにはいかない。


「私だって貴方から放り出されても可笑しくなかったわ」


「君にそんな真似をこの僕がすると思うかい?」


「アシュリーとの婚姻を決めた時にそうされなかったのが不思議よ」


「君を愛しているからね」


 もしもシャロットがウィリアムではない誰かの子を宿していたら、ジェシカと同じ目に遭っただろう。

 怒らないはずがないし、そうでなければ愛されていないのだと傷ついたはずだ。


 結局、ウィリアムの愛を勝ち得るのはジェシカでもシャロットでもないという事だ。


「ジェシカは君に失礼な発言をしなかったかい?」


 彼はこれでもシャロットを大切にしてくれている。愛人をやめた今も。


「大丈夫よ、気にしていないから」


「僕は今も変わらず、君を愛している。弟のものになっても、それでも僕のシャロンはここにいる」


「ウィル、もうやめましょう。こんな話、終わりが見えないわ」


「アシュリーはこのところ、女の家に出向いてばかりいるようだね」


「仕方ないわ」


「いいのか、シャロン」


「私はグレース様のようにはなれないわね」


「君がアシュリーを愛していないのは知っている」



 ☆ ☆ ☆



 私邸の居間に戻ると、そこにはアシュリーがいた。

 執務が忙しいからと言っていたのに、いつ戻って来ていたのだろうか。


「仕事はもうよろしいの?」


「あぁ」


 女中が入れたお茶を一口だけ喉に流し込むと、アシュリーの瞳がシャロットを捕らえているのに気づいた。


「あの女はどうなった?」


「気になるなら一緒に来れば良かったのに」


「会いたくない、気分が悪くなる」


「私だってそうだわ」


「そうか? ウィリアムに会えたのだから良かっただろ」


 第三王子という立場に劣等感でも抱いているのだろうか。或いは気に入らないだけなのか。


「そうね。私はウィルに会いたいし、貴方が会いたいのはあの方」


「シャロット」


 それ以上を口にするなという意思表示の時、彼はシャロットの名を短く呼んで表情を消す。


 ――どうしてこんなにも腹を立てているの?


 アシュリーの静かに怒る顔が目の前にある。


「それ以上を口にしたら、君でも許さないと言ったはずだ」

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