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悪夢なら醒めないで

かなり不定期更新になると思います

「俺の事が好きだろ?」


「えぇ、そうね」


 夜会のダンスを女達が見守る。

 着飾る大勢の令嬢達の、突き刺さる目が言う。


『あんな女と結婚なんて』


『嘘ではなかったの?』


『容姿が良いからって、あんなに豊満さを強調させるドレスなんか着て』


『王宮に相応しいとは思えないわ』


『あの方は私のものだったはずよ』


『あら、それは私よ』


 ――あぁ、もう本当に嫌。うんざりよ。どうしてこうなったの。


『好きではないわ、嫌いよ』


 ――そう言いたかったはずなのに。


 パートナーのこの男はリードするどころか、振り回して楽しそうだ。

 女と見ればすぐ細い腰に手を添えて耳元で囁き、 メイドだろうが令嬢だろうが来る者は拒まずの男。


『君には全く興味が無いよ』


 笑いながらそう言って、屈辱的な思いをさせる男。


 そんな中、熱く見つめる清楚な瞳が壁で花を添えている。


 届く誰かの声。


『あの御令嬢を妃になさるのだとばかり思っていたわ』


 ――確かにお似合いだわ。きっと待っていらっしゃったでしょうね。私と違って妃という肩書きに相応しい方だから。


 皆もが口を揃えて言う。


『あの女がいなければ、あの御令嬢があそこにいらっしゃったのに』


『私の好きな小説家の本なら主役を奪われた悲劇のヒロインね』


『あら、壁の花なのに?』


 踊っている当人達の耳に届いていないと思っているのだろう。


「何を考えている?」


 なのに男は気にする素振りを見せない。


「貴方の事に決まっているでしょ」


「それは嬉しいね」


 向かい合う二人の身体がわずかに触れる程度だったのに、腰に添えた手ごと引き寄せるからぐっと密着してしまう。男が主催する私的な夜会とはいえ、大勢のお客様が見ているというのに。


 ――あぁ、もう……。どうして了承なんてしたのかしら。


『結婚してくれ』


 その口から零れる言葉に欠片ほどの愛もないのはわかっていたはず。だから言ったのだ。


「貴方なんか嫌いよ」


 なのに笑った。


「君は嘘のつけない嘘つき女だね」


 ――そんな事ない、私は嘘つきだから。


 だって認めたくない、言葉にしてしまったら溢れてしまうかもしれない。

 あの瞳の奥に宿る温もりが孤独を感じさせて泣きたくなるから一人にしないでと今更訴えたくなる。君には俺がいるよと笑い掛けて欲しくなる。


 そんなのは駄目だ。

 あの御令嬢から奪った悪い女なのだから。

 好きな小説家の本で言うなら、悪役令嬢だ。


 だから駄目なのだ。

 例え、この関係が偽装であっても。



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