ジョウ
君の心に小学生が居るのなら、きっと笑ってくれるだろう・・・多分!!
保証はしない!!
俺は、今まで生きてきた中で、こんなピンチに出会った事はない。
足にまとわりつく泥。
着ていたはずの服は無く、全裸の身体は傷付き・・・大切な者達は灰になった。
そんな俺を支えてくれるのは、白く輝く相棒だけ・・・・彼だか彼女だか分からないが、この白く輝く相棒だけが、今の俺を支えてくれている。
精神的にも、物理的にも・・・・
全ての始まりは20分ほど前の事だった。
「成功だ!!成功したぞ!!!」
「この世界は救われるうううううぅぅぅぅぅ。」
「うおおおぉぉぉぉぉぉ勇者だああああぁぁぁ勇者様だあああぁぁぁぁ!!!」
え??
成功??救われる???
叫んでるのは俺じゃない。俺を取り囲んでいる人々の声。
・・・・ココドコ??
さっきまで自分の家に居たはず・・・・
いや待て俺!色々気になるが、待て!!
いや、待っていたらダメだ!!!今は待ったなしだ!!
目の前に立っている人々がども見ても、日本人とかけ離れた彫りの深い顔立ちをしているとか。全然知らない西洋風の冷たい石床の上に立っているとか。何故か熱い視線を向けられているとか、今はどうでもいい。
どうでもいいが、一言言いたい。
「何で今呼んだああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「え??」
分かってるよ。コレは世に言う異世界転移なんだろ。
勇者召喚なんだろ。
俺は生粋なオタクだ!
『ここは何処?』『何でこんな所に?』『コイツらは何者だ?』なんて野暮な事は聞かねぇし、いわねぇよ。
誰だか知らないけど『勇者様だあああぁぁぁぁ』とか言っていたからな。俺は勇者として呼ばれたんだろ?
別に良いよ。むしろ大歓迎だよ!!!
今じゃなきゃな!!!!
「トイレエエエエェェェェェェェ」
「「「は?」」」
何ポカンとした顔してるんだよぉ。
こっちは緊急事態なんだよ。せっかくあと一歩だったのに。目の前の取っ手を握りさえすれば、全てが解決するはずはずだったのに。
何で今呼ぶんだよぉ。我慢だ!我慢しなければ俺の人としての尊厳が・・・
勇者としての未来が・・・・呼ばれて数秒で粉砕してしまう・・・フンだけに・・・・ック
「厠、便所、お手洗い、雪隠、手水、排泄する場所!!最悪、壺おおおぉぉぉ!!何でも良いから早く案内しろおおおおぉぉぉ してくださいぃぃぃぃ」
「大変だ!!勇者様が転移酔いをしてらっしゃる。」
「急ぎ案内しろ!!」
転移酔い?
違うけど、そういう事にしておいて良いから、早く!!案内!!
強くそう思った瞬間。俺は部屋の真ん中に立っていた。
真っ白な石の床に、繊細な模様が美しく刻まれた壁。
その部屋の真ん中・・・俺の目の前に、今一番会いたかったお方が鎮座してらっしゃった。
白くツルリとした表面に、ドッシリとした形状。
その姿は異世界に来ても変わらないのだなと感動した。
感動したが、今はその感動に浸る時ではない。
俺は、素早く履いていたズボンに手をかけると、俺の柔肌を白く輝くツルリとしたお方に押し付けた。
これから俺はとても辛く、長い戦いをする事になるだろう。けれど、このお方ならきっと何の文句も言わず、最後まで俺を支えてくれるはずだ。
・・・詳しくは言うまい。言うと色々と色々だから・・・
ただ、俺の姿が “オーギュスト・ロダン作 考える人” と酷似した体勢で固まり、額からは、滝の様な汗を流しているとだけ言っておこう。
しかし、俺は人としての尊厳を、勇者としての未来を守れたのだ!!
本当に、危なかった!!!マジで本当に危なかった!!!
にしても人間不思議なもので、一つの危機が去ると、考える余裕が出来るらしい。
俺のお腹の中は未だに激戦中で、額からは滝の様な汗が出ていても、頭だけは動いている。身体は動けないけどな!
とにかく、まずは自分の置かれている状況について考えるべきだろう。
転移させられた事は、間違いないはず。
転移なんて事が出来る時点で、ここは異世界だと思って間違いないだろう。
そして、俺はこの世界の勇者。
ゆうしゃぁぁぁよっしゃぁぁぁ!!!
しかし落ち着け俺。一つ問題があるぞ。
俺の知る勇者といえば、無駄な脂肪のない、均衡のとれた美しい肉体に、美女も頬を染めるほどの整った顔だちをしているはず・・・・なんだけど。
俺の動かない視界から見える俺の腕と太股は、雪の様に白く滑らかな肌をしている。
・・・・まあ、外出苦手だからな。
更に、細く華奢。
・・・運動は苦手だし、食事は、あれば食べるけれど用意するのが面倒だから、無いならまあ良いかと思ってしまうほどの面倒くさがりだからな。
そして、視界を遮る長く伸びた黒髪。
・・・散髪、面倒なんだよ。
と言う事は、俺は俺のまま転移・・・顔があああぁぁぁ顔がああぁぁぁ
ソノママ・・・残念。
まあ、いいや。
顔面がどうであれ、俺勇者だし!!
『勇者様』って言われたし!!
・・・ん??待てよ。
物語の中では勇者は強者で、魔王と戦って世界を救ったり、救わなかったりしていたけど・・・そもそも勇者って言葉は、勇気がある者て意味だから、言葉の意味だけで言えば強者とは限らないんだよなぁ。
まあ、まさか何の力もない無謀なだけの男を呼び出しで、あんなに歓喜したりしないとは思うけれど・・・
ここは、試してみねば!!
俺の真なる力を試してみねば!!
とは言っても、剣術や体術といった身体を動かす事は出来ない。
なんたって、脳は動いても、身体は動かない・・・動けないからな。
となると・・・アレだな!
魔法だな!!
俺がこの世界に呼ばれた事と、さっき『トイレエエエエェェェェェェェ』って叫んだら、ココ飛ばされてた事を考えれば、この世界に魔法があるのは、間違いないだろう。
クックック
魔法・・まほう・・・マオウ・・・
おっと、コレは違う。俺は勇者だ、勇者。
もしも、俺にスッゴイ魔法の才能があったなら、ちょっとだけ魔王になって世界征服。なんてのも憧れてしまうけれど、今のところ勇者になる予定だ。
何故って?この世界の事が分からないからな。この世界の人々に色々教えてもらうなら、勇者の方が簡単だろう。その後で、勇者になるか魔王になるかは、俺の気分次第だな。
クックック・・・俺を召喚したのが運の尽き、世界の運命は俺の手の中だ!!
ぐははははははハハハハハハ・・・・・
と、叫びたい・・・・腹が痛くで出来ないけどな・・・はぁ・・・まったく締まらない・・・
とにかく、この体勢のままでも出来そうな魔法を使ってみよう。
えっと、俺の知る魔法の発動条件は、具体的な効果のイメージとカッコイイ呪文とか、よく分からん演算とか、地面に丸描いてその中によく分からない文字を書くとか色々あったな。
でも、今の俺が出来る事はただ一つ!
魔法を発動させた時の具体的な効果をイメージする事と、カッコイイ呪文を言う事だけだ!!
演算とか無理。何をどうすれば良いのか分からない。
地面に丸描いてってのも無理。ここから動けないからな!!
という事で、やってみよう。
イメージィ
って、まず何しょっかなぁ。初級魔法と言えばファイアーボールなんてのが王道だけど。この狭い部屋でそれは無理だな。そもそもファイアーボールが成功して、壁にでも穴が空いたら・・・俺の柔肌が・・・
うん、やめよう。
アニメとかで、主人公が普通の魔法を唱えようとして、うっかり大爆発を起こし『へ?』なんて、シーンを見た事があるからな、危険だ。
となると、どう考えても害の出ない魔法・・・結界魔法だな!
結界魔法・・・結界魔法・・・ふむ。
どうせ作るなら、どんなモンスターが来ても大丈夫。どんな暗殺者が来ても大丈夫。そして、どんなウフフな事に出会っても誰にも邪魔されない、そんな最強な結界魔法を作るべきだ。
チャンスを逃さ・・・・攻撃を受けると痛いからな。痛いの嫌だからな。痛いのが嫌だからだからな・・・・
フムゥ・・
となると、魔法防御に物理攻撃防御は勿論、音遮断や視覚遮断とかも必要だな。
そして、そんな結界で俺を包む。丸だと安定しないから、やっぱり四角い箱型だよな。
イメージ イメージ ・・・・クックック。
本当にイメージと呪文で魔法が発動するとすれば、俺はこの世界で最強になれる自信がある。何故なら、俺の脳は、想像と空想と妄想で出来ているからだ!!
激痛など俺にとって何の妨げにもならんぞ。
さあ、俺のイメージを形にする時が来た!!!
「超最強結界・・・・オカンンンンンン・・・・・」
違うぅぅぅぅぅ
『超最強結界オカンンンンンン』ってなんだ!!
いや、オカンってある意味最強だと思うけど、違うんだよ。
今まで一度も母さんをオカンなんて呼んだ事無いし、結界魔法を使う状況で母さんを呼ぶ気も無い!!
特にウフフな状況になった時にはな!!
違うんだよ。呪文の途中で波が来たんだよぉぉぉ
激痛ビックウェーブ
しかも、右手を前に出してカッコよく叫ぼうと思ったのに、体勢が一欠片も変えられなかった。
ただ単に、“考える人” の体勢のまま『オカンンンンンン』って叫んだだけだったよ。
まあ、イメージしたのは結界魔法だし、本当に言おうとしていた呪文の『オカゴリゼネベクト』も、カコイイと思って言っただけで、意味は無いから大丈夫だろう。
ところで・・・この魔法は成功したのか?
・・・分からん。
色も模様もイメージしてなかったから、透明で見えないんだよなぁ。
これで成功してなかったら、ただの恥ずかしい人だな。誰も見てないけど。
でも、成功した気はする。よく分からないけど成功した気がする。
となると、他の魔法も試してみねば!!
結界魔法が成功しているという確証を得る為に、他の魔法も試してみねば!!
フフフさてさて、何にするか・・・攻撃魔法は危険だからなぁ・・・
よし、土魔法にしよう。なんたって、土魔法はイメージしやすい。
俺は小さな頃、泥団子名人と呼ばれた男だからな!
泥団子の形を作る砂から、磨く時のサラ砂までとことんこだわり、公園や学校裏、近所の砂場から遠くの砂場まで、あらゆる砂を見て厳選し輝く泥団子をいくつも作り上げてた。
それは、母に『何で泥団子ばかり作るのぉぉぉ。』と叫ばれても、『勉強しろとは言わないから、せめて宿題だけでもやってぇぇぇ』と怒られても、『もう分かったから、好きなのは分かったからぁ』と呆れられても、作り続けたほどだ。
もし本当に魔法が使えるのなら、俺が探し求めた究極のサラ砂出し放題だあああぁぁぁ
「究極土魔法・・・スナァ・・・」
今度は、上手く言えた。『砂』って言おうとして『スナァ』って、かなり弱々しい感じになっちゃったけど、ちゃんと言えた。
最初は難しい呪文を言おうとして、失敗したからな。呪文を短く分かりやすくしてみたんだ。
そして、その結果は・・・・
足元に広がるふわふわの砂達。
それは軽く、動かしただけで埃の様に舞い上がり・・・俺の鼻腔をくすぐる。
魔法は、成功したああああぁぁぁ
俺は、魔法がつかえるぞぉ!!!!
「ブワックション!!」
ウグゥ・・・・腹に響くぜ。
とはいえ腹の激痛も、最初よりは随分と落ち着いてきている。
そうなると、そろそろこの長く辛い戦いも終わるだろう。
そうなれば、俺の魔法がこの世界に炸裂するのだあああぁぁぁガハハハハハ!!!
・・・
しかーし、ここに来て、大きな壁が立ちはだかっている。
それは、この戦いを終わらせる為になくてはならない物。
白く滑らかで、光を淡く通すほど薄く、水に触れればふわりと溶けるアレに・・・
トイレという場所において、無いだけで絶望感を感じるアレに
・・・・届かない。
足元に広がる砂達が教えてくれた。
俺は、このままでは終わりを迎える事が出来ないのだと、勝利を掴む・・・いや、アレを掴む事が出来ないのだと・・・・
あと数センチ、あと数センチ結界が広ければ端くらいは手に入るのに・・・何でギリギリ届かないんだよ。何でかなぁ、何でこんな微妙な広さかなぁ。
いや、悪いのは俺だって分かってるよ。俺が作った結界だもの。
俺を取り囲む様にイメージしたんだもの。
でもまぁ・・・大丈夫でしょう。だって、この結界を作ったのは俺!
最強勇者の俺様なんだからあああぁぁぁぁ
ッフこれくらいの結界など、一瞬で解いてアレを掴んでみせるぞぉ!!
「超最強結界解除・・・ドロドロ。」
・・・あれ?
ドッロっと溶ける様に、上の方からドロドロって溶ける様にイメージしたんだけど・・・・
足元に広がる砂達は、変わらず四角く広がっている。
ちなみに、砂埃として舞い上がっている砂達にも変化はみえない。
なーぜー?
結界魔法と、土魔法は成功したのに?
ふむ。これは、使える属性と使えない属性があるって事なのかな??
となると、俺の知る限り全ての魔法を試す必要があるだろう。
何にしよっかなぁ。
後の魔法と言えば、光・闇・風・水・火とか??
後は・・・植物!!!
そうだ植物を何かこう、地面からにょきにょき生やせば、この戦いの終わりを迎える為に必要なアレ・・・この言い方面倒だな・・・ハッキリ言おう。
トイレットペーパーの代わりになるんじゃないか?
よし、トイレットペーパー代わりになる植物を生やそう。大きくて柔らかな葉を持つ植物!!
俺の柔肌を優しく包んでくれる優しい植物!!
「植物召喚・・ヤサスィー」
コレはお腹が痛いせいではないからね。
優しい植物をイメージして、優しい感じで優しいを言ってみただけだからね。
・・・
で、その結果・・・・