いらないものは
案の定
ブブッ…
とある昼休み。学食の隅で1人、カツカレーにがっついているとスマホが振動する。
久方ぶりに勝手に動いた物体を見て驚愕。
こいつゲーム機ではなかったのか。それ以外で使ったことないから忘れてたよ。
画面を見る。そこには、
『本日、19時より401教室でサークル員の顔合わせを行います!原則、全員参加で特に新入生は必ずくること!!』
と聞き覚えのない団体名から連絡が来ていた。
首を傾げると、かじりかけたカツをおとしそうになった。
あぶないあぶない。
そこでハッと、
よくわからんボランティアサークルに入ったことを思い出す。最近物忘れがひどい。これは一度病院に行かねば。
さて….
よし、サークルやめよう。めんどいし、
このSNS使い方はよくわからんがこの退会というやつを押せばいいのだろう。
ついでにこれもやめるか。必要ないしな。
なんなら今はじめて起動したまである。
いや、インストールした時も入れれば、2回目だな。
新入生勧誘時にやってないと伝えた時の先輩方の『ヤベェ奴入れてしまった』顔は忘れられない。
退会のボタンをタップしようとしたその時、
「あーーーっっ!!」
とまさに鶴の一声?覇王○の○気だったかよくわからんが、周囲が一瞬静まり返り、声を出した当人に視線が集まる。
無論、俺も周囲の人である。
が皆すぐに興味を失ったように各自行動を始める。俺も残り少ないカツカレーを掻き込むと
「よくもこのあいだはおいてかえってくれたわね!危うくお昼食べ損なうところだったじゃない!」
当人のご登場である。
「個人的には2限目も丸々ねてたことに驚きですよ」
目線と人差し指がこちらに向いていた時は、まさかと思ったがそのまさかとは、きっと俺の後ろの○タンドとかだと思ってたのに…
そして俺だったのなら1つ言いたいことがある。
人を指でさすな。
「そんな軽口でごまかそうたってそうはいかないんだから。お詫びにご飯おごってよ。」
「同じ学部の、ましてや同じサークルの後輩からたかって、心が痛まないんですか。」
10秒前にやめようとしていたサークルを盾にする。サークル超便利。
「スマホ、退会画面になってるんだけど。それ押したら、たかっていいのよね」
「何言ってるんですか。よくわからんアプリをあなたが勝手に入れたから使い方がよくわからなかっただけですよ。」
そういえばこのアプリを入れてないと聞いて率先して馬鹿みたい笑って、バカにしてきたのはこいつだったな。
月のない夜には帰り道に気をつけろ。
「そういえばそうだったねー」
と自分の鞄からパンを取り出す。
「めしあんじゃねぇか」ぼそっ
「なにかいった?」にこっ
「いいえマム。なにも」きりっ
てか俺の前に座るな。頭おかしいやつの知り合いだと思われるだろ。
「それスタンプ返しといて」
「?スタンプですか。わかりました。」
「いった!なんで足踏むの!!」
「スタンプしました」
スタンプはスタンプでもスタンピングだけどな。もちろん、これではないことはわかっている。
「そのメッセに返信してってことよ!私がするから貸しなさい。」
とものすごい形相で睨んでくるから思わず渡してしまった。くっ…これが縦社会ってやつか。
と世の中の真実を憂いて放心していると「はいっ」とスマホを返された。
「あんた初期スタンプしか持ってないんだね」
「まぁ必要ないですし」
「私以外友達いないしねー」
「は?」
「追加しといてあげたから♡」
ブブッと生野君からスタンプが送られてきた。これがスタンプかと思うと同時に、
いくのくん?なんだこいつ自分のことくん呼びなのか痛いやつだな。と思っていると
「それいくのきみってよむの。そういえば、まだ学部と学年しか行ってなかったっけ?勧誘の時、あんまり名前まで言わないようにしてるんだ。私。経済学部3年生野君。よろしくね。」
「はぁ、どうも。それはまたなんでですか」
「名前を言わない理由?だって入るかどうかわからない人に自分の名前教えるのって少し怖いじゃない。こういうご時世だし」
そうだね。勝手に人のスマホいじって操作しちゃう時代だしね。
「で?」
「はい?」
「私が名乗ったんだから次は君の番でしょ?」
こいつ侍かよ。
「俺知らない人に名前教えないようにしつけられてるんで。」
そう、俺は答えない。ここで名前を教えるとサークルから逃げられないかもしれないから!!
「名前教えたじゃない」
「嘘ついてるかもしれないじゃないですか」
「ついてないし。まぁ今日の集まりに来れば嫌でも自己紹介してもらうしね」
「いや、ほら、俺バイトが…」
「してないでしょ」
なぜ知っている…(ガクブル)
「そんな顔をするな。勧誘の時に授業の取り方教えたというか、君に組まされた時に聞いたじゃない。」
あぁ、過去の俺いっときの楽の為になんて失態を…
だが!まだあきらめない!!
「さすがにバイトしなきゃなって思って、コンビニのアルバイト採用めん」
「嘘ね」
即答。なぜバレた
「君が接客するわけないし、できるわけない。」
ほう、喧嘩か?買ってやろう。前半はともかく後半は許せない。おれだって…やれば…っ
あっ、釘バットは武器に入りますか?
「そんなに緊張しなくても顔合わせだから。今日ぱって挨拶するだけだよ!」
と何かを察したのか本筋に話を戻してきた。
勘のいい奴め。
「はぁならまぁ」
と気のない返事をする。
「逃げようたって無駄だからね。電話番号も登録したし。来なかったら鬼電するから。」
こいつ勝手に電話番号まで調べてやがった。
「犯罪では?」
「個人情報の塊をホイホイ人に渡すのが悪いのよ。いい教訓でしょ。そして私でよかったわね。」
ぐぬぬ。このジャ○子さんめ!このゲーム機を暇つぶしに便利だなと思ってたのに、ここ数十分で俺に害しか与えてこねぇ。
「じゃあ、私ここに友達ときてるから」
と席を立つ。
「おひとりに見えましたけど…」
「さっき大声出しちゃった時にどっか行っちゃったのよ!」
わかる。
普通に話してる今ですら、赤の他人であると声を大にして言いたいもんな。あの視線が一気に浴びせられた状況では尚更だろう。
「失礼なことを考えてる?」
「ではまた後で」
会話を打ち切ると若干、納得のいかなそうな顔をしながらどこかに行ってしまった。
無駄に時間を使ってしまった。昼休みもあと10分しかない。これでは普通の休み時間と変わんないじゃないか。
急いでトイレを済ませて、教室に移動、着席をし、瞑想。
別に授業に向けてではない。俺がなににも縛られることなく大学生活を送るために考えを巡らせているのだ。
ゲーム機、カツカレー、サークル、生野君。
いらないものは、
差しあたってはあいつの連絡先だな。
頑張りたい