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元覡、お嫁を探しに都会へゆく  作者: 取扱説明書
2/14

かわいそうなのはだれ

2日目



偶然だった



「おっともだちなしおくんじゃないか!」


彼女は颯爽と現れた。


「どうも、お久しぶりです。あと、変な名前で呼ばないでください」


月曜日朝の1限目の教室、入学してちょうど2週間目の出来事である。


「いや〜、月曜のしかも1限目に遅刻することなく来るとは、関心関心」


とわずかに女性らしさを感じる膨らみを押し上げるように腕を組む。つい目線がいってしまったのは仕方ない生理現象だ。


「……べ、別に授業だし、必修科目だから当たり前じゃないですか」


遅れ気味に返答すると、悪戯に成功したこどものような顔をした彼女はこう告げる。


「いま、私の胸見てたでしょ。ふ〜ん、やっぱり男の子なんだね。」


「よせてあげれるほど胸があることに驚いただけですよ」


「失礼な!これでも脱いだら結構すごいんだからな!!」


「へぇ、着痩せするタイプなんですね。お腹もそうじゃなきゃいいと思いますよ。」


くっ…と悔しそうに顔を歪める彼女を見て、正気に戻る。


出会いが出会いだっただけに喧嘩腰になってしまったが、こんな人でも女性で、年上だし言いすぎたか?と思ったのも束の間、


「童貞」


よし埋めよう。


「ひどい!」


心の声が漏れてたようだ。


「そういうことは本当に好きになった人としかしないんですよ!これまで俺がそう思える人がいなかっただけで…」


と思わず捲し立てるように喋ってしまった。くそこれじゃほんとに童貞だと思われてしまう。信じるか信じないかはあなたしだ…


「今時の若者には珍しく硬派なんだねぇ〜。おねぇさん、いいと思うよ〜」


一方こちらは勝ち誇ったようにじわじわと攻撃を仕掛けてくる。


「そりゃ。経験豊富なこってよごさんすね。」 


キーンコーンと鐘が鳴り始める。捨て台詞を残して席に座ると


「なに隣に座ってるんですか。あっちいってくださいよ。」


「どうせ、友達もできずにひとりかわいそうな後輩のために、可愛い先輩が隣に座ってあげるんだからありがたく思いなさい。」


「可愛い先輩には友達がいるでしょう。そちらに行かれたらどうですか?」


「さっきから、そんなに邪険にしなくてもいいんじゃない?それに、この授業友達いないの」


とスマホをいじり始める。授業を受けろ授業を。


あれ?


「この授業って必修ですよね?なんで1人も友達いないんですか?」


そうこの授業は必修科目だ。そんなものを月曜日の1限に入れるという大学側の悪意には心底腹が立ったのは別の話。


しかし、いくら人付き合いの苦手な俺でもいや、俺だからこそわかる。


出会って2回目の俺とまともな会話ではないにしろこれだけコミュニケーションが取れるのだ。


ましてや大学も3年目の彼女がこの授業に1人も友達がいないはずがない。


つまり何かがおかしいのだ。


でも、もしかしたら、ひょっとしてと、かわいそうな仲間を見るような目で


「まさか俺と一緒で友達がい」


「そんなわけないじゃない」


「っ…」


即答でした。食い気味にされた。


き、傷ついてなんかないからね!3年生にさえなれば友達が出来ると思ってちょっと安心しただけだから!(迫真)


「でもこれ、必修科目ですよね」


「そうね」


と気のない返事。ていうか全然スマホから目をはなさねぇなこいつ。


「じゃあ、友達1人くらいいるんじゃないですか」


と問いかけると顔を上げて


「ひょっとしてこいつおれにきがあるじゃないかとかおもった??思っちゃった???」


とバッと顔を上げてこちらの様子を伺ってくる。


話しかけた俺が間違ってた。今後この先輩を見かけても無視しよう。


「聞いてますかー。おーーーい」


「もう先生来るので黙って、あっちにいってください。」


ノートを広げ、シャープペンシルの用意をする。あっ折れた。


「ジョーダンじゃん!そんなおこんないでよー。」


「別に怒ってないですよ。ただちょっと授業と大学と俺の邪魔なので」


そこまでいうとブーーと言って黙った。おい。席も移動しろ。





キーンコーンと鐘がなる。


机の上を片付け次の教室に行く準備をする。


彼女は授業が始まると10分とたたずにいびきとまでは言わないが寝息をたて始めたので、ひとつ開けていた席をふたつ開けて、知り合いじゃないですよ。感を演出した。


ソーシャルディスタンスまじ大事。やっぱり人って適度な距離感大事だよね!


「おこ、、さないでいいな別に」


とそのまま教室を後にする。だって休み時間10分しかないし、教室遠いしマジ鬼畜。とか適当なことを考えながら移動中、ふと、


「そういうことか」


とさっきの出来事の結論に行き着く。


いまの授業は必修科目だ。


もちろん俺にとっても同じ学部である彼女にとってもそれは変わらない。


では、なぜ俺には友達がいないのか?は考えるまでもねぇな。




ンンッ…!!なぜ彼女に授業を受ける友達が1人もいなかったのか?


それは彼女が3年生だからだ。


授業は年に1回のみであり、同じ授業が年に2度開講されることはない。


つまり、今の授業は俺にとっては1回目の必修であり、1年生である俺たちは全員出席しなければならない。


では彼女はどうか。3年生である彼女にとっては3回目の必修であったのだろう。


当然、1度取得した単位。授業を2度、3度と受ける必要はない。


つまり、何かの間違いで1年生で落としてしまい、2回目である2年生がいるならまだしも、3回目の3年生の受講生などえりすぐりしかいない。


ましてや、1年生の初めの簡単であるはずの授業単位を落とし続ける普通の大学生がいるはずがないのである。


次の教室に着き、窓際の席に座る。まだ少し香る春の匂いに眠気を覚えつつ、
































かわいそうなあの人に禍あれ。


あと1日

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