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空のずっとずっと高いところにある雲の上で、女の子が二人座って時の来るのを待っていました。
どこからか、静かに澄んだ鐘の音が響いてきました。
その、小川のせせらぎのような、軽やかな歌を思わせる音色を耳にすると、女の子の片方が言いました。
「鳴った。今から夜だよ。」
もう片方の女の子は大きくうなずくと、腰に銀色のひもでぶら下げた小さな瓶から、きらきら光る銀色の粒を取り出しました。
「はい。落とすよ。」
女の子が雲の切れ目からぱっと粒を落とすと、それは光りながら下界へと落ちて行きました。
銀の粒はだんだん溶けて消えていきます。
間もなく、辺りは少しずつ赤く染まって夕焼けに変わっていきました。
仕事の終わった女の子はにこにこしながら瓶のふたを閉めて言いました。
「さあ、これで今日はおしまい。」
「そうだね。ゆうちゃん、あとどのくらい残っている?」
もう一人の女の子が聞きました。
ゆうちゃん、と呼ばれた女の子は銀色の粒の入った瓶を傾けて見てみました。
「うん、まだ半分の半分と少しぐらい残っているよ。あさちゃんは?」
「わたしのも。下ではこのくらい残っているときを秋って言うんだって。」
もう一人の女の子あさちゃんも、自分の腰に金色のひもでぶら下げた金色の粒が入った瓶をゆすってみながら言いました。
「そうなんだ。」
ゆうちゃんは雲の切れ目から下の方をのぞきながら言いました。
「ゆうちゃん、危ないよ。落っこちる。」
あわててあさちゃんがゆうちゃんの白い服を引っ張ります。
雲の下は夜の始まりで、暗くなってきています。
あさちゃんが心配するのもむりもありません。
「おや、二人ともいつも元気だね。」
細く高い澄んだ声がして、まわりがちょっと明るくなりました。
ゆうちゃんとあさちゃんがそっちを見ると、淡い黄色のお月さまが笑っていました。
二人はお月さまに夜の挨拶をしました。
「こんばんは。お月さま。」
「今晩は。時間ぴったりだね。いつもお仕事ごくろうさま。」
お月さまはほほえんだまま、ゆっくり空高く昇っていきます。
それからちょうどいい高さにつくと、静かにやわらかな光を下界に投げかけました。
今夜は満月のようです。
お月さまがお仕事に行ってしまうのを見ていた女の子たちでしたが、しばらくしてゆうちゃんがまた下の方をそうっとのぞいて言いました。
「ねえ。私たち、今から朝まで何して遊ぶ?」
「うん、何して遊ぼうか。」
あさちゃんは腕を組むとうーん、と考えました。
「天界のみんなと鬼ごっこもかくれんぼもいいんだけれど、たまには下に行ってみない?あさちゃんのお仕事の時間までに戻れば大丈夫だよね。」
「えっ」
ゆうちゃんの言葉にあさちゃんは驚きました。
いつも空の上にいるみんなは下界におりたりしません。大昔にだれかがおりたときの、色々なめんどくさいできごとのお話をきいているからです。それに、長いあいだ下界にいたかったら、主神さまにおゆるしをもらわなくてはなりません。
でも、すぐにそれはなんだか面白そうだなあと思いました。
あさちゃんだって、下界のことは気になっていたのです。
「そうか。朝までに戻ってくればいいんだよね。」
「うん。」
二人はにっこりと顔を見合わせて、手をつなぎました。
「じゃあ、いってみよう!」
ふたりは一緒に雲の上からぴょんと飛び降りました。