表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢はしゃべりません  作者: 由畝 啓
第一部 悪役令嬢はしゃべりません
222/563

33. 悪因悪果の実 4

※グロテスクな表現を含みます。


スペンサーは、隣に座っている八番隊副隊長カーティス・パーシングを一瞥した。

先ほどまで聴取していたバリー魔導士は、丁重に独房へお帰り願った。どうやら最後にスペンサーが見せた陣が一体何か気が付いて、気分が悪くなったらしい。更に、スペンサーは最後に念を押した。自白を――否、“冤罪の証言”で上を納得させなければならないと言いくるめると、僅かに機嫌を直して「早くしろ」と偉そうに命じて独房へと戻って行った。


「口の軽い男だったな」


バリー魔導士は自分が無罪放免になると信じて疑っていなかった様子だが、生憎とそのような未来が訪れることはない。死刑にこそならないだろうが、彼は横領から始まり、種々の不正に手を染めていた。

極めつけがこの転移陣だ。今回の聴取で、王太子暗殺の意識はないにせよ、転移陣を個人の依頼で作ると認識した上で術式を開発していたことが判明した。

第九位階の魔導士であればまだしも、バリーは第二位階魔導士だ。下位の魔導士たちを指導し模範となるべき立場に居る。そのような立場の魔導士が、転移陣の開発に携わっておきながら、その後登録されているかどうかの確認を怠ったこと自体が大問題である。

そして最後に見せた陣も問題だった。


「まさか、その転移陣の存在を忘れていたとは思いませんでしたが」


呆れ顔でカーティスは呟く。スペンサーも同意を示すように頷いた。

二つ目の陣は、ベン・ドラコが謹慎処分を受けることになった切っ掛けの転移陣に仕掛けられていたものだった。当時は魔物襲撃(スタンピード)後の収拾に手を取られたため、混乱が著しかった。その機に乗じてバーグソンはベン・ドラコを嵌めるための手筈を全て整えていたのだ。

だが、後から秘密裏に調査を続けたところ、今スペンサーが持っている転移陣が発見された。どうやらこの陣を転移陣に癒合させ、あたかもベン・ドラコが転移陣に細工をしたように見せかけたらしいことまでは調べが付いた。

その計画に深く関わっていた魔導士は複数居ることが分かっている。そして、バリーが首謀者の一人であることはほぼ確実視されていた。だが自白は期待できないし、証拠も不十分だった――のだが。


「あっさりと口を割ってくれて助かった。これでバリー魔導士については始末をつけられるだろう。大して罪悪感も何もなく不正や罪を犯していたようだな」


転移陣に細工をすることは当然だが、その効果を詐称し他人に罪をかぶせることも重罪だ。

少なくとも、生涯魔術を封じられ魔導士という肩書きを剥奪され、財産も没収された上で放逐されるだろう。


「そうですね。事前調査でもその傾向はありましたが、自分のしていることが全て正しいと思い込んでいる分、冤罪の証明という切り口が効果的だったのではないかと思います」

「確かにその通りだった」


カーティスの言葉に同意を示しながら、スペンサーはカーティスが記載した調書の内容を確認する。バリー魔導士は、冤罪を晴らすためだという大義名分の元に、随分と色々なことを話してくれた。


手元の資料に描かれている魔術陣は、効果が出ないよう対策が施された模倣品だった。元々は王立騎士団二番隊隊長ダンヒル・カルヴァートが発見したものである。

どうやらこの魔術陣はバーグソンが主導し、魔導省で作られたもので間違いないようだった。しかし不思議なことに、この魔術陣は魔導省には()()()()()()()()。そして二番隊が捕縛した商人たちは、貴族に連なる者ではなかった。もしバリー魔導士が証言した通り、体の不自由な者が王都に馳せ参じたいと願って転移陣の製作を依頼したのであれば、その魔術陣を運び込むのは一介の商人ではなく、身元保証がされた使者であるはずだ。

カーティスは僅かに首を傾げた。


「ダンヒル隊長は、例の魔術陣発見のために姉君の協力を得たと仰っていました。となりますと、ハインドマン伯爵の周辺で転移陣が使われていた――ということでしょうか」


ハインドマン伯爵はダンヒル・カルヴァートの姉ヴァージニアの夫であり、北部地域の僅かな領地を切り盛りしている。スペンサーはすぐには答えず、考え込むように呟いた。


「八番隊では情報は掴めていない、ということだったな」

「――力不足で面目ない限りです」


スペンサーの言葉に、カーティスは渋面になる。しかしスペンサーはカーティスを責めたわけではなかった。


「隊長がスコーン侯爵の息子だから動きにくいだろう、仕方のないことだ。それに北部の領主たちは閉鎖的だからな、調査もし辛いのは分かっている」

「しかし、もう少し他に方法があったのではないかと――」


更に懺悔に似た言葉を続けようとするカーティスを、スペンサーは片手を振って黙らせた。気にするな、というように口角を上げる。


「いずれにせよ、北部領主たちの誰が国賊かを調べて行けば良い。少なくとも、逆心がある者がいるかどうかが鍵となる。領主はその気がなくとも、周辺の人間も含めて調査しろ。幸か不幸か、今回の転移陣(これ)が一つの切っ掛けとなるに違いない」


これ、と言いながらスペンサーは手元の資料を軽く叩く。カーティスは深く頷いた。

二番隊が捕えた商人たちの証言から、北部領主が絡んでいることは間違いがない。商人たちの証言は曖昧だったが、転移陣を隠し持って“立太子の儀”を執り行う王都に入り込むこと自体、良からぬことを企んでいるからだとしか思えなかった。

時期を考えれば、王太子ライリーに害意があると考えて捜査するべきだ。何よりも、大公派の貴族はライリーを幾度となく暗殺しようとしている。


「北部領主たちとバーグソンの関係も含めて探ります」

「ああ、頼んだ」


バーグソンが魔導省を私物化し、魔導士たちを良いように使って私腹を肥やしていたことは調べがついている。今回の件を見ても、計画の全体像は明かさずに魔導士たちを協力させていたことは明らかだ。メラーズ伯爵とも懇意にしていた時点で、王太子暗殺の片棒を担ぐことになると知っていた可能性は高い。国王暗殺を企み長年に渡る呪殺の術を掛けていたことからも、バーグソンは王太子暗殺にも罪悪感なく協力しただろう。

八番隊の名に懸けて必ず繋がりを見つけ出すと意気込むカーティスに、スペンサーは笑みを浮かべた。



*****



玉座の間から連れ出された魔導省長官ニコラス・バーグソンは、薄暗く陰気な牢の中、小さな寝台に腰かけ、身を小さく縮めていた。狭い地下牢は石造りで、耳を澄ませば遠くに水滴が落ちる音が聞こえる。時折吹き荒ぶ風が恐ろしさを増長させるようでもあった。

その上、牢の中には簡素な寝台と用を足す穴しかない。


「まるで罪人ではないか!」


バーグソンは額に青筋を浮かべて怒鳴った。しかし、バーグソンを連れて来た騎士たちはさっさと鍵をかけて立ち去った後である。文句を言っても聞いてくれる人はいない。


彼が押し込められているのは王立騎士団の兵舎近くにある地下牢だ。高位貴族であれば、たとえ罪人であってもそれなりに整えられた部屋に監禁される。しかし元々平民出身のバーグソンは、一般的な罪人と同じ場所に連れて来られた。文句を言ったものの、彼を取り調べた騎士は全くバーグソンを相手にしなかった。


「許さん――許さんぞ、この私を蔑ろにしよって」


呪詛を唱えるものの、本物の魔術や呪術は魔術封じの枷のせいで全く使えない。元々魔術や呪術の実力は一般的な魔導士より多少上回る程度だ。どれほど抗ったところで、彼は魔術封じの枷を恨めし気に睨むことしかできない。


玉座の間から連れ出された後、バーグソンは王立騎士団の兵舎で尋問を受けた。合計三人の騎士が二人ずつ、交代で尋問を繰り返す。訊かれる内容は単調で、国王に呪術を掛けたのがバーグソンの独断なのか、それとも誰かに頼まれたのか、という内容ばかりだった。言葉尻は変わっても、結局意図するところは変わらない。そして、バーグソンは決してその問いに口を割ろうとはしなかった。


「誰が、貴様らのような下賤の民に言うものか」


バーグソンが国王に呪術を掛けたのは、勿論独断ではない。だが彼に話を持ち掛けた人物は既に亡くなっている。

仮にバーグソンがその人の名を口にしたところで、バーグソンの死罪はほぼ確実だ。もし黒幕が居たとして、その人物の名を告げれば罪はなくなるのかと問えば、尋問に当たっていた騎士は事もあろうにバーグソンを嘲弄した。そんなことはあり得ないと言うのである。

それならばいっそ思わせぶりな態度で黒幕を告白しない方が良い。騎士たちは必ず黒幕の名を聞き取らねばならないと厳命されているはずである。それならば、バーグソンに国王殺害を依頼した人物の名を隠すことが、己の命を長らえさせる唯一の方策に違いない。

命が長らえれば、この牢から抜け出すことも、騎士団の目を掻い潜って隣国へ逃れ再び一財を為すことも出来るはずだ。


ぐう、と腹の虫が鳴る。バーグソンは忌々し気に顔を顰めた。


「全くもって腹立たしい。魔導省長官として国に長らく貢献して来たというのに、そんな私に対して尊敬の念が足りんわ」


尋問のお陰でバーグソンは昼食も摂れなかった。黒幕の名を言えば食事に出来ると言われたものの、食に釣られて口を開くと思われているなど、バーグソンの矜持が許さない。それでは腹をすかせた貧民街の悪ガキと同程度だと自ら告げているようなものである。

しかし、今日の尋問が終わったからといって牢に入れられた後、出された食事は酷く粗末なものだった。

固いパンにほぼ味のない薬草スープだけでは、腹は膨れない。普段は香辛料が良く利いた肉料理をたらふく食べているバーグソンにとって、もはや出された夕食は食事とも呼べないものだった。


苛々とした溜息を吐き出し、バーグソンは無意識に腹をさする。脂肪で膨らんだ腹はたぷたぷと揺れた。寒さを感じて、バーグソンは擦り切れて薄汚れた毛布を手繰り寄せた。体に巻き付けるが、石造りの地下牢で感じる寒さを凌げるほどのものではない。

寒さと空腹で、バーグソンは眠ることもできなかった。そもそも造り付けられた寝台も硬く冷たい。平民であれば多少寝心地が悪いと思うだけで済むものだったが、贅沢に慣れたバーグソンには苦痛でしかなかった。


「私に、こんなところで寝ろというのか!」


苛立ちに任せて彼は寝台を叩きつける。しかし叩きつけた手が痛むだけで、余計に腹立たしさは増した。


「仕方あるまい。一夜だけと言われようが、このような場に押し込められること自体が気に食わん」


低く唸ったバーグソンは腰かけていた寝台から立ち上がり、鉄格子の近くに立った。両手で鉄格子を掴み、牢の外にある廊下を睨み据える。しかし地下牢は酷く暗い。魔術で灯された蝋燭は点在しているが、それだけで廊下を全て見通せるはずもなかった。


「おい! 誰か、誰かおらんか!」


バーグソンは叫ぶ。看守が居るはずだと踏んでいたのだが、しばらく待っても反応はない。

そこではじめて、バーグソンは違和感を覚えた。王立騎士団の兵舎にある地下牢なのだから、看守か衛兵が居ないのは妙だった。


「――何故だ?」


一体何が起こったのかと、バーグソンは首をひねる。しかし、彼の頭に合理的な思考はなかった。


「もしや、メラーズ伯爵の手引きか――?」


バーグソンはにやりと笑んだ。彼の推測が正しければ、メラーズ伯爵がバーグソンを助けようと手筈を整えてくれたに違いない。

玉座の間で王太子に断罪されて居た時、メラーズ伯爵は一切バーグソンと視線を合わせようとはしなかった。あの時は腹が立ちもしたが、今考えれば当然だった。


「あの時に私が有罪となるのはほぼ確実――それならば、あの時は反論せず殿下方を油断させておき、その後に私を助けに来る方が危険も少なかろう」


だが、それならば牢の鍵を開けに来る何者かが居ても良いはずである。バーグソンはそわそわとしながら、寝台に座り直した。もし本当にメラーズ伯爵の使者が来るのであれば、今か今かと待っていたと分かるより、悠然と構えていた方が良い。

そう考えてのことだったが、その後はほんの僅かな時間も数刻に感じるほど、時の流れが遅かった。


そしてどれほどの時間が経ったか――――うつらうつらとしていたバーグソンは、石畳を歩く靴音に目を覚ました。地下牢の中で高く響く音は一定の速度で近づいて来る。


「来たか」


バーグソンは安堵の息を漏らした。しかし、ほっとしたことを知られたくはない。精々厳めしい顔つきを取り繕い、彼は牢の前に立つ人影を睨み据えた。


「何者だ」


念のため、人影に誰何する。暗い地下牢では新たな人物の顔は分からない。着ている服は王宮に勤める侍従のものだが、分かるのは体つきくらいのものだった。しかしそれだけ分かれば十分だ。

看守でも衛兵でもなく、そして騎士でもない。王宮に勤めている侍従が地下牢に来ることがあるわけもない。つまり、その人物はバーグソンの推測を裏付ける存在だった。


「全く、口もきけんのか」


苛立たし気にバーグソンは吐き捨てる。自分よりも下位の存在だと信じたからこそ、彼は尊大な態度を取ることに決めた。

寝台から乱暴に立ち上がると、自分よりわずかに背の高い男を睨み上げるように近づいた。


「メラーズ伯爵からの使いであろう。私は魔導省長官だぞ。貴様など普段であれば声を掛けることすら許され――――」


許されない存在だ、と言おうとしたバーグソンの口が、丸く開いたまま固まる。

王宮に勤める侍従の服装を纏ったその人物は、顔を半分ほど黒い仮面で隠していた。しかし、間近で見つめたその顔にバーグソンは見覚えがあった。


「声を掛けることすら、なんでしょう?」


悠然と問い返す男の声に恐れはない。寧ろ他者を威圧することになれた声だった。


「いや――それは、その――」


バーグソンはしどろもどろに言い訳を考えるが、受けた衝撃の大きさ故に何も言葉にはできなかった。

玉座の間で感じていたのとはまた別種の恐怖を覚え、バーグソンは小さく喘ぐ。


「あの方のお名前を出さずにいらしたことは、褒めて差し上げましょう。尤も、尋問に耐えられず口にしようとしたところで、叶うことはなかったでしょうが」

「ま、まさか!」


バーグソンは必死に首を振る。自分は無実なのだと、そう主張したかった。

打算でも何でもなく、純粋に彼の人のためを思えばこそ名を口にはしなかったのだと――そう主張したいが、仮面の男は嘘を一切許さない。

そしてようやく、バーグソンは気が付いた。男の言葉を理解するにつけ、血の気が引いていく。立っていられるのが不思議なほど、バーグソンの体は小刻みに震えていた。


「ま――待ってください、まさかその――口にしたくても出来なかっただろう、というのは」

「おや、お気付きではなかった?」


仮面の男は心底驚いたというよう声を上げる。しかし、すぐに唇に微笑を浮かべた。


「確かに貴方程度の術者では、その術が消えたのか存続しているのかすら判断はできないでしょうね。いえ、その様子から推察するに、もしやあの方の訃報を耳にされた時点で術が消滅したとでもお考えになりましたか」


バーグソンは口を無意味に開閉させる。何か言いたいのに、全く声にならない。恐怖を覚えれば人は四肢を動かすことさえままならないのだと、バーグソンはその時初めて知った。


「消滅などしていませんよ。彼の方が、そして私が、そのような失敗(ミス)をするはずがないでしょう」


貴方とは違うのですから、と、仮面の男はねっとりと嗤う。


「貴方の失敗(ミス)は、欲を出しすぎたことでしょう。身の程を知り慎ましやかに暮らしていれば、あるいは最低限度の幸福は約束されていたかもしれないというのに」


囁くような声音に、バーグソンは己の失態を悟った。そして己の思い違いも理解する。

鉄格子越しにバーグソンを眺める仮面の男は、決してバーグソンを助けるためにこの場に来たのではない。寧ろその逆だ。彼は――口を封じるため、この地下牢を訪れた。


頬を引き攣らせたバーグソンは、声を裏返らせながら叫んだ。


「誰か! 誰か、曲者がおるぞ! ここへ来い! 誰か来んか!!」


必死のバーグソンの叫びも、虚しく地下牢に反響するだけだ。その様を悠然と眺めていた仮面の男は失笑してやれやれと首を振り、わざとらしく溜息を吐いた。


「声を上げても助けが来るはずはないでしょう。看守や衛兵が居れば私もここには来られない。その程度のことにも思い至りませんか?」


ああ、その程度のことも分からないから、現状を招いているのかもしれませんね――と、仮面の男は呆れ声で呟く。そして、彼は一歩鉄格子から遠ざかった。


「過去を仮定したところで、現在(いま)を変えることはできませんが――もし貴方が早い段階で己の首筋を確認して居れば、軽率な行動を取ろうとは思わなかったでしょう」


言いながら、仮面の男は自分の後ろ首を軽く叩いて見せた。そして、にっこりと優雅に口角を上げる。

呆然とその様を見つめていたバーグソンは、ゆっくりと魔術封じの枷が付いた右手を持ち上げる。震える手で触れた首筋は、酷く熱を持っていた。


「【裏切り者に、粛清を】」


途端に、バーグソンは首筋に突き刺すような痛みを感じた。


「あ――ぁっ!?」


脊髄を走り抜ける激痛に耐え切れず、彼は膝を石畳に付く。玉座の間で無理矢理膝を折らされた時よりも衝撃は激しかったが、首から全身へと広がる痛みの方が強く、血のにじんだ膝など気にもならなかった。


「ぐぅ――ぁ、い!」


体ごと石畳の上に転がり、首筋を必死に抑える。しかし痛みは治まるどころか酷くなる一方だ。最初は後ろ首だけが痛かったのに、いつの間にか激痛は喉の方へも広がる。両手で搔きむしれば、首からは血が流れ出る。

痛みにのたうち回るバーグソンの太った体を見下ろし、仮面の男は小さく鼻を鳴らした。


「そのまま苦しみ悶え、冥府へと向かわれるが宜しいでしょう。それが貴方には似合いです」


そう言い捨て、仮面の男は踵を返す。


「待、――――――っ!!」


引き留めようとしたその瞬間、体を貫く激痛に全身を痙攣させる。痛みのあまりあらゆる穴から体液を漏らし、バーグソンは苦しみ悶える。

永遠にも続く責め苦から彼が解放されたのは、一夜が過ぎ太陽が姿を現した頃――朝食を持って訪れた看守は、地下牢で苦悶の表情を浮かべ絶命しているニコラス・バーグソンを発見した。



23-8

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


第1巻~第5巻(オーバーラップ文庫)好評発売中!

書影 書影 書影 書影 書影
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ