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悪役令嬢はしゃべりません  作者: 由畝 啓
第一部 悪役令嬢はしゃべりません
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4. 襲撃者 2

リリアナを乗せた馬車が襲撃を受けている時――――、

少年は離れた場所で一人、木の上から様子を窺っていた。


「へえ、結構良い護衛使ってンじゃねェの。まァ、でもアレなら大して問題はねェなァ。馬車の術だけが厄介だな」


紺の髪をなびかせた気楽な口調は軽薄で、言葉とは裏腹に楽しんでいるようにすら感じられる。

漆黒の瞳は不可思議な気配をまとい、星が煌めく夜空のような色合いに染まっていた。少年の双眸は、一見茫然と虚空を眺めている。だが、遠見の術を使っている彼ははっきりと、襲撃劇を様々な角度から眺めていた。

少年の()()では、埒が明かないと思ったらしい残りの九人が馬車へ襲撃を仕掛けるところだった。姿の見えない一人は、恐らく姿を消しているのだろう。少年たちのような稼業にとって、姿を消せる能力は十分に価値がある。


「――――あ?」


少しして、少年は目を丸くした。

姿を消していた一人が、あっという間に姿を現したのである。


「おいおい、解術かよ」


姿を現した男の慌てぶりを見ていると、術を解いたのは本人ではないらしい。消去法で考えて、馬車の中にいる人物が解術したとしか考えられない。


「同乗してる奴か? 中は見えねェが――もしそうなら、ちょいとばかし面倒だな」


少年たちの標的はまだ幼い。魔力が高かろうが、それほど高度な魔術を使える年齢ではない。となると、同乗している人間が術を使っているに違いない。魔導士は雇われていなかったはずだが――と少年は一人ごちる。


「――げっ」


紺色の頭をした少年は顔を顰めた。解術された男が、四肢から力を失いその場に倒れ伏したのだ。明らかに物理攻撃ではない。

四肢の力を奪い無力化する魔術――確かに効果的だが、そもそもそんな術は全く一般的ではない。一度だけ少年は似たような術を聞いたことがあるが、その術を行ったのは()()()()()()()()


「マジかよ。一体どんな化けモンが乗ってやがンだ」


毒づくが、徐々に少年の顔には笑みが浮かび上がって来る。楽しそうに声を漏らし、少年は「いいねェ」と呟いた。


「それでこそ、仕事のし甲斐があるってもンだ」


最近は腕の振るい甲斐がある獲物に出会わなかったからな、と呟く少年は上機嫌だ。

四肢の力を失った男だけは生きて連れて帰られるようだが、他の十一人は絶命している。

今は自分の出番はない。少年は遠見の術を解除した。途端に、瞳の色が漆黒に戻る。


「余計なことは吐くンじゃねェぞ、()()


標的に捕らえられた男には聞こえないと承知でにやりと笑った少年は、身軽な動作で木の上から飛び降りる。身長の三倍はあろうかという巨木から難なく地面に着地した少年は、落下途中にもぎ取った林檎を服で拭くと、そのまま齧り付いた。


美味(うめ)ェ」


バサバサと羽ばたく音がして、黒い(カラス)が少年の肩に止まる。


「お疲れさん。食うか?」


少年は林檎を烏に差し出すが、烏はついと無視した。少年は苦笑して林檎を齧る。果汁がたっぷりで美味しい林檎だった。


「近くにハゲタカは居たかよ?」


少年は肩に止まった烏に尋ねる。烏は鳴かなかったが、少年は気にせず「人間に見つかる前に食っちまえって、言っといてくれ。十一人も居りゃあ、しばらく腹は膨れンだろ」と告げ、最後の一口を放り込む。烏が一鳴きすると、遠くから黒い鳥影の群れが近づいて来た。

これで、死体を処理せずとも証拠は隠滅できるだろう。仮にハゲタカに食い荒らされた死体を発見したところで、気味が悪いと思う人間はいてもその素性を調べようと言う物好きは居ない。


あっという間に林檎を平らげた少年は、北へと向かう。それは、リリアナを乗せた馬車がやって来た先――王都の方角であった。



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