2つ目の生存者グループ
現在地、小野町中学校にある、L字型の別棟、その4階。
1階から順に階を上りながら、人探しをしている最中で、4階の最後の教室を残して見終わった。
「#&*¥!」
「G#@〒々&L!」
ネームプレートには、視聴覚室の文字。
教室の内側には、黒色のカーテンが垂れ下がり、中の様子は窺えない。
言い争う様な声が激化した所で、俺は扉に手をかけた。
ガタンッ。
開けた瞬間、何かが外れる音。
そして、目前に迫るのは大槌。
木製の大槌は、グリップが上向きに引っ掛けられており、平の部分をこちらの顔目掛け、振り子の形で半円を描く。
「ッ。」
上半身を後ろにそらして、イナバウアーの姿勢で避ける。
顔の前を戻っていく大槌を見送り、扉の正面から横にずれる。
その元居た場所に、竹槍があった。
『ッ!』
黒色のカーテンに穴を開け、スッと音も無く、竹槍が目の前まで伸びてきた。
視界の外より飛び出てきた竹槍は、幾ら体感速度がゆっくりに見える今の身体とはいえ、気付く事が出来なかった。
偶然避けれた事に安堵して息を吐くと、先を荒削りした竹槍が戻り、数回突きを繰り返される。
獲物を捉えた感触が無いからなのか、その連続は終わる。
先程までの言い争う声も消えており、静かな時間。
『これは生存者……だよな。』
改めて、この教室前の廊下に目をやる。
感染者の死体はないけれど、床に出血の跡が線を引き、隣の教室へと向かう。
そして、見て回っていた記憶より、確かにその教室には赤い瞳の死体が転がっていた。
『感染者をここで撃退しているって事か。』
教室棟で生き残っていた蔵屋敷さん達は、バリケードによって廊下を塞ぎ、感染者より身を守っていた。
それに対して、こちらは罠を仕掛けて、積極的に対抗して生存している感じに見える。
『それで、俺みたいな生き残りも殺されちゃあ、おしまいだと思うが。』
ただまぁ、近くに普通の死体は無かった事より、そこは上手くやっているのだろう。
「ま、待ってくれ、私は逃げてきただけだ。 噛まれてないし、争うつもりもない!」
とりあえず、声を震わせる感じで、教室に向けて叫ぶ。
返答はすぐに返ってこないが、コソコソと小声で相談しているのが聞こえる。
「今、廊下には奴らが居ねぇ! で、でもいつ来るか分かんねぇんだ。 だから、早く中へ入れてくれないか!」
罠や竹槍の攻撃からして、慎重なのが分かる。
外の状況が知りたいと考え、伝えておく。
正直に言うと、俺としては他も見て回りたいので、中の状況を確かめるだけでいいのだが、避難している彼らからするとそうはいかないだろう。
まだ犬に噛まれる前だった俺も、会社では常に神経を使って動いていた。
噛まれたら一発で終わりの中、安全な場所となったそこで、なるべくイレギュラーな存在は取り込みたくないと考える筈だ。
「あ、安心してくれ! 私はここに長居するつもりはねぇ! 人を探していて、アンタらに今の状況について話を聞ければ、それをヒントに他を探しに行くッ。」
大声になりすぎない声のトーンで、開いた扉から呼びかける。
男性、女性、大人や子どもの声が耳に入り、人数的には、結構な人がここで籠城している様子。
生存者は二の次で、健人くんが第一の俺としては、無理なら無理で、次へ行こうかと考え始める。
『別に食料が欲しいとか、寝る場所を確保したいって訳でもないしな。』
面倒になって、よし、そうしようかと足の向きを変えた所だった。
「まだ居るか?」
渋い男性の声。
声の質から、かなりの年上に思える。
「あ、あぁ。」
「よし。 今からこちらがカーテンを上げる。 その前に、扉から見える範囲で窓側に寄って立て。 変な真似をすれば、中には入れんからな。」
「も、勿論だ、すぐに動く。」
言われた通りに、扉の正面に立ち、後ろに下がって窓枠に背中をぶつける。
「た、立ったぞッ。」
怯えた演技はもう要らない気がするが、感染者が徘徊する校舎において、平静を保っているのは疑われる要素。
一応、それを続けておく。
「よし、動くなよ。」
ゆっくりと、カーテンが上へと巻かれる。
徐々に、竹槍を構えて立つ男性が下半身より見えてくる。
カーテンを退ける手は左の方より伸びており、別の者が開けているらしい。
「まだ動くなッ。 首、肩までの腕部分、膝までの足、服を捲ってそれを見せろ。」
「あぁ、分かった。 すぐに見せる。 動くぞ。」
箒を包んでいた風呂敷をゆっくりと下に置き、顎を上げて、胸元を開き、首を見せる。
「次!」
腕と足も、袖や裾を捲って見せていく。
「もういい、そのまま動くなよ。 まず、その風呂敷をこちらに放り投げろ。 床に落とすだけでいい。」
「わ、分かった。」
変な事をすると拗れそうなので、言われたままにする。
風呂敷を担ぎ、ホイッと男性の前に滑らす。
「まだ動くなよ。」
男性はチラリと上に目をやった。
それに誘われ、上に見ると小窓から覗く子どもの顔。
少し驚いたが、頭の大きさ的に小学生ぐらいだろうか。
「ん、よしいいぞ。 ゆっくりと入ってこい。 こちらも色々あったのでな、警戒については許してくれ。 変な動きはするなよ。」
「も、勿論だ。 私も面倒事はごめんだからな。」
前進し、扉と黒色のカーテンを潜る。
中に入ると、まず大きなプロジェクターが目に入り、それから、バラけて椅子に座っている人達を見つける。
数人がこちらへ振り返り、まじまじと視線が刺さる。
「すぐに休みたいだろうが、済まない。 こちらの小部屋に来てくれ。 危害を加える事はしないと約束する。 感染しているかの確認は最も大事なのでな。」
風呂敷はまだ預かられた状態で、奥の扉へと案内される。
初老の男性に続いて、その小部屋に入る。
後ろから眼鏡の男性が入り、扉を閉じられる。
部屋の中は薄暗く、電子機器やファイルの棚が見受けられる。
指示を受けて、服を脱ぐ。
スーツの上着を台に置き、ネクタイ、ワイシャツ、肌着のシャツもその上に。
革靴を脱いで足元に、靴下はその中へ。
ベルトを外しズボンも脱いで、パンツ一丁の状態。
周囲を歩き、肌を確認しているのは若い眼鏡の男性で、少しその視線が怪しく感じるのは気のせいだと思いたい。
「源五郎さん、問題ありませんよ。 良い体をしてます。」
「よし、もういいぞ。 服を着てくれ。」
着直して、最後にネクタイを締め直す。
改めて今気付いたが、街を歩いていた時や津波避難ビルで泊まった時、普通の服に着替えたら良かった。
ただまぁ、その時は愛用のスーツを置いていく事になるから、考えものか。
「これで終わりだ。 中で話そうか。」
2つ目の、中学校で生き残っていた生存者のグループ。
見たところ、健人くんは残念ながら部屋に居なかったが、少しでもここの情報を得られたら助かる。
特に、須川さんの双子の娘について、分かると有難い。
俺は、源五郎さんと呼ばれた男性、眼鏡の男性に続いて、小部屋から出た。




