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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
第2章・退勤編 中学校Part
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視聴覚室に下りた黒のカーテン

 別棟の教室へと向かう前に、茶道部の隣にあった卓球部の部室へと入らせてもらう。

 内装は教室棟の教室と全く変わらず、机と椅子が無い代わりに、卓球台が3つ置かれている。

 前後の扉は取り外されており、広げられた卓球台やカゴに入ったボールが放置されていた。


『用心するに越したことはないからな。』


 扉を入ってすぐの後ろの木製棚に、革鞄を置く。

 風呂敷を使って、茶道部部室へと何か使える道具があれば運びたいので、手荷物は減らしたい。

 ただ、健人くんだけならまだしも、繭に包まれた彼らまでは信じられないので、自分の革鞄は別の所に置かせてもらう。


『さてと、行くか。』


 別棟はどうやら副教科の教室が続いている様で、1階の廊下沿いには、手前から倉庫に使っている様子の教室、技術準備室、技術室と並んでいた。


『ここらへんになると、感染者が減るな。』


 完全に居ない訳ではない様で、開かない倉庫、外側の扉は閉じていた準備室の次、技術室を覗いた瞬間、動く人影には驚いてしまった。

 髪の薄い作業服のおじさんが、教卓の前に居るのがまず目に入る。

 それから、学生服の子どもが数人、机の間を徘徊するのに気付く。


 向こうも足音に反応して、こちらへ顔をバッと動かすが、すぐに興味を無くし歩みを再開する。


『ここに健人くんは居ない……か。』


 扉の前で、技術室の全体を見回す。

 左側の手前には黒板と教卓。

 その前方に、4人程が座れる正方形の机に、背もたれのない椅子が付属して広がる。

 その座学をする場所から右に移動すると、工具を使う作業場らしき機械のスペース。

 名前は知らないが見た記憶はある機械類と共に、昔懐かしい、電動ドリルや薄刃の鋸が置かれていた。


 電動ドリルはコンセントが必要で、持ち運んですぐには使えそうにない。

 鋸は、中学生の頃、のこぎりびきで使用した両刃の鋸で、刃は横に振るとふにゃふにゃになってしまう薄さ。

 感染者や蜘蛛と対抗するには少し心許ないと感じて、どちらも手には取らない。


『木槌やチェーンソーがあればいいんだが。』


 技術室から繋がる扉を開いて、隣の準備室も確認させてもらう。

 狭い部屋の中には、生徒が触らない様に避難させた工具が収められていた。


『片手サイズのハンマーだが、無いよりはマシか。』


 ヘッドの部分が金属製で、グリップがゴム製のハンマー。

 残念ながら、チェーンソーやそれ以上の物は見つからず、とりあえずその場にあった全部のハンマーを箱ごと風呂敷へ包み、準備室を出て技術室からも出る。

 廊下の突き当たりは、別棟にある非常階段の1階部分に繋がり、何も無い様子なので引き返す。


 一旦茶道部部室に戻り、風呂敷を開いて、ハンマーを入れた箱を土間の隅に置く。

 書き置きの追加で、『使える物を探しに行っており、それらは靴を脱ぐ場所に置いていきます。』と残しておく。


『この調子で、上の階も見ていくか。』


 階段を上り、2階へと進む。


 理科室、家庭科教室。

 美術室、音楽室。

 コンピュータ教室、図書室、第2図書室。


 ネームプレートを確認しながら、2階、3階にある副教科の教室を見て回った。

 普段は子どもらの授業が行われている教室は、呻き声だけが場を占領する。

 たまに、大人も見かけるが、その感染者の多くは幼く、大抵が学生服を着ていた。


『あとは、この4階だけだな。』


 一度、風呂敷の物を茶道部部室に置いてから、階段を4階まで上がった。

 感染者相手だと、長物かつ打撃として使える物が良いだろうと、2つの階を回っている際、刃物やガスバーナーは避けて、ロッカーに入っていた箒を集めたり、音に敏感な要素を考慮し楽器や投げやすい文庫本サイズの本を運んだりしていた。


「……なんか感じるな。」


 五感が研ぎ澄まされているからか、4階に漂う空気の冷たさを感じ取る。

 白い息を吐いて、ゆっくりと吸う。

 より慎重な歩みで、右へと伸びた廊下の突き当たりへと進む。

 通り過ぎる教室はしっかりと中を確認し、最後の部屋へと迫る。


『バリケードは無いが、何者かは居る……か?』


 その教室の透明なガラス窓の向こう側は、黒色のカーテンが下ろされ、中の様子が窺えない。

 ネームプレートを見上げるに、視聴覚室という事は分かった。


「#@&A*!」


「¥$%〆〒ッ!」


『ん、なんだ?』


 部屋の中から話し声が聞こえる。

 話している言葉の内容は聞き取れず、その人数も読み取れない。

 互いに言い合っている様子。


「#&*¥!」


「G#@〒々&L!」


 激化する人の声。

 耳に手を当て、集中するが何を言っているのか不明。

 ここで立っていても埒が明かない、俺は教室の扉に手をかけた。

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