体育館の主
壁に衝突し、気を失う中型の蜘蛛。
モップの柄によって、頭胸部を凹ませる大きな蜘蛛。
革靴で踏み潰した小蜘蛛達。
体育館の2階、細い通路は死屍累々と化す。
「ハァハァ。」
やがて、動ける蜘蛛は減り、残った蜘蛛達はこちらを警戒しながらも、体育館内の暗がりへと姿を消していった。
『……これなら、助けていっても大丈夫そうだな。』
手摺りに足を乗せ、2つ目の吊られた繭、その天井からぶら下がる細い糸を下へと引っ張る。
時間がかかりながらも、1階のマットの上にドスンと落とす。
最初の大群が嘘の様に、それから蜘蛛に邪魔される事はなく、最後の吊られた繭にまでやってきた。
「ヤツが……」
細い通路の入口、端にある繭。
それに近付いた瞬間、小さく嗄れた声が耳に届く。
「ヤツが……くる……そのまえに……にげ……」
声の主を探すと、繭の小さな隙間から、男性の顔が見えた。
微かに意識がある様で、焦点の合わない薄目を開けて、こちらに呟いている。
『あの蜘蛛達……の事では無さそうだな。』
限界である男性が、残り僅かな気力で漏らす言葉からして、その何かの危険性は高く感じる。
蜘蛛らも脅威ではあるが、あれ以上だと俺でも対抗できない可能性がある。
けれど、このまま引く事は出来ない。
何かが来る可能性はあるだろうが、先に彼らを助けるのを優先しなければ。
繭の糸を引き千切り、左側通路の最後の繭を下へと落とす。
ふぅ、と軽く息を吐き、すぐに1階へ降りる為、階段へ向かう。
ズゥン。
階段の半分辺り。
そこで重低音の地響きが館内に広がる。
また蜘蛛が現れたかと、急ぎ階段を下りて、館内の様子を窺うが何も居ない。
『気のせいか?』
ズゥン。
いや、やはり足音の様に、何かが近付いてきている。
焦る気持ちを抑え、1階のマットの上にある繭をずらし、右側へと移動させる。
「嘘だろ……」
マットの移動が終わり、先に助けた繭を手前左端にある扉に集めたタイミングだった。
奴と目が合った。
グオォォォォォーーーーー!
その鳴き声は風圧を生み、思わず後退る。
体育館の舞台上に、巨大な蜘蛛が鎮座していた。




