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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
第2章・退勤編 中学校Part
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繭に包まれた餌

 目を瞑り、体を休めていた時間はそれほど長くはなかった。

 ガサゴソと人の身動ぐ物音がして、薄目を開ける。


「ここは……」


 体育館より連れてきた、健人(けんと)くんが起きた。

 彼は重ねて小声で何かを呟きながら、部屋の様子を確かめている。


「畳……これって、陽菜(はるな)が入ってる茶道部の部室か?」


 健人くんは畳に手を当て、ゆっくりと表面を撫でる。


「おっさん……オレは助けられたのか。」


 彼と目が合う。

 ただ、向こうは俺が薄く目を開けているのに気付いていないのか、しっかりと目が合っている感じはしない。


「って、それより助けに行かないとッ。」


「オレのせいで、優希(ゆうき)は捕まってしまったんだ……」


「だから、助けにーー」


 健人くんは立ち上がり、1歩、2歩進んで、何も無い畳の上で足を挫く。

 彼自身も、自分がコケた事に疑問を浮かべていた。

 ゆっくりと前に倒れる彼の身を慌てて、俺は前から支える。


「大丈夫か。」


「おっさん、起きて……」


 とりあえず、その場に座らせる。

 近くに来て分かったが、健人くんは目の下に隈が出来ており、疲労が顔に表れていた。


「健人くん、ちゃんと寝ているのかい?」


「い、今はそんな事よりッ。」


 言い切れない感じからして、碌に眠れていないのだろう。

 革鞄を開き、飲みかけのペットボトルと潰れたパンを取り出す。

 パンは自分用に残した最後ので、袋に入っているから、多少は潰れていても問題ないだろう。


「健人くん、助けに行きたい気持ちは分かるが、それで結局助けに行く自分も同じくやられてしまっては、元も子もないよ。 それより、今は体を労った方が良い。」


 健人くんに、飲料水のペットボトルとパンを手渡す。


「少し形が悪いのと、飲みかけで済まないが、これでまず栄養を取った方がいい。 それから、寝るのは無理でも、少し体を休めて万全にしようか。 今の間に作戦を立てて、また体育館へ向かえば、より確実に助けに行けるだろう?」


「……う、うん。」


 健人くんは理解してくれたのか、立ち上がる姿勢をやめて、壁にもたれた。

 パンを両手で掴み、大きくかぶりつく。

 水もゴクゴクと勢いよく飲み、お腹の方も空いていたようだ。


『さてと、改めてどうやって助けに行くかだな。』


 見てきた情報より、蜘蛛はあの体育館から出てこない。

 そして、壁や天井を這ってきて、糸を飛ばしてくる。

 大中小、サイズは異なるが、どれも同じ見た目をしていた。

 体の色は赤色をベースに、黒の斑点がてんとう虫の様に、背中に数個。

 蜘蛛に詳しくないので、その種類は判別できないが、人と同じ大きさであるのが非常に厄介だ。


『健人くんは繭に捕らえられたであろう、誰かを助けたいんだよな。』


 繭は、左右の細い通路に沿って吊られており、その数は20を超えていると思われる。

 そのどれに助けたい人物が入っているかも分からないし、あの繭に捕らえられた人達が今後どうなるかも分からない。


『時間は、もう残されていないと考えるしかないよな……』


 俺が健人くんと会った時点で、既に経過した時間が先にある。

 更に、健人くんの身の安全を考えて、現在休んでもらっているが、こうしている間に、体育館で何が起きているかは不明。


「………」


 茶道部の部室を見渡す限り、小窓が上の方に1つあるだけ。

 背丈的に、健人くんは届かないか。


『後で謝るしかないな。』


 健人くんの気持ちは分かるが、状況的にも、時間的にも、彼を連れて捕らえられた人を助けるのは難し過ぎる。

 それに大人として、そんな危ない場所に子どもを連れて行けない。

 無言で立ち上がり、茶道部の扉へ。


「おっさん?」


「健人くん、すまない。 少しトイレに。」


「あぁ、そういうことか。 気を付けろよ、おっさん。」


「ん。」


 畳を降りて、部室から出る。

 近くの教室を回り、手頃な机を探す。

 2回往復して、4つの机を茶道部部室の扉前に重ねる。

 完全に開けられない訳ではないが、時間は稼げると思う。


『さてと、行くか。』


 早歩きで部室前の廊下、その角を右へ曲がる。

 別棟から職員室がある棟へと繋がる廊下を、真っ直ぐに抜けて、突き当たりの階段手前にある外への扉を出る。


『俺も狙われるし、お願いする力も通用しないか。』


 正直、不安で仕方ないが、悠長に事を構えていられないのが今の状況だ。

 とにかく、用具室をチラリと見た際、使えそうな道具が幾つかあった。

 それを使って考えるしかない。


 体育館の右側にある石段を登り、体育館の中へと急いだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 蜘蛛は大きくなるために脱皮を繰り返すのでそこかしこに脱皮した跡があると面白いかも? [気になる点] 緊張感がなくなるけどアースレッドを大量に窓から投げ入れて弱った頃に侵入して蜘蛛アースを両…
[気になる点] 主人公が口をつけた食べ物、飲み物を他者が食べてもゾンビ化しないのか気になりました。
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