蜘蛛の巣からの脱出
『俺らは美味しくないぞッ。 こっちへ来るな!』
改めて、感染者にする様に思念を蜘蛛へと飛ばしてみたが、やはり何の反応もなく、俺達2人を囲う円が縮まるだけだった。
「オレはこんなとこでーー」
体育館の2階にある、左の壁沿いに伸びた細い通路。
背中合わせで後ろに立つ、健人くんが独り言を漏らしているのが聞こえる。
『これだけはしたくなかったが、仕方ないよな……』
左手の指を全て真っ直ぐに伸ばし、腕を斜めに構えつつ、体を翻す。
健人くんがこちらに向ける無防備な首筋へと、その左手を下ろし、手刀の要領でその肌へと衝撃を加えた。
テレビやマンガの見様見真似。
受け売りでしかなく、力加減なんて分からなかったが、健人くんは「ッァ!」と言葉にならない叫びを上げて、体を前に倒す。
痛みに悶絶する彼の胴部分へ左腕を回して担ぎ、左の壁を蹴って高く跳びながら、右側にある手摺りの上に足を乗せ、1階の床へと飛び降りる。
「やっぱ、多少は痺れるか。」
落下の衝撃が足にきて、少し動きを止める。
腕の中の健人くんを見ると、急な落下に驚いたのか、白目をむいていた。
蜘蛛はこちらを向き、白い何かを飛ばしてくる。
慌てて、俺はその場から駆け出す。
それからは、後ろを見る余裕が無くて、何が起きているか分からなかったが、蜘蛛は向きを変え迫ってきて、背後では蜘蛛の糸が飛び交っていただろう。
***
「ここまで来れば大丈夫だろう……」
別棟を入ったすぐに、扉が開いた教室を見つけたので、そこにお邪魔した。
畳が敷かれた和室の様で、廊下に感染者や蜘蛛が居ないのを確認するついでに、ネームプレートを見た。
「茶道部……の部室か。」
室内には、簡易の冷蔵庫やポットもあり、棚にはお菓子が何種類か置かれたままだった。
失神したままの健人くんは畳の上に寝かしており、一応首の裏が少し赤くなっているだけで済んだのも確認済み。
蜘蛛は何故か、体育館を出ると襲ってくる気配が消えた。
奴らにとって、あの中だけがテリトリーか、もしくはあそこに居ないといけない理由があるのか。
とりあえず、ほっと安心する。
『健人くんの行動からして、あの繭に包まれた人間が理由か。』
目が覚めると、再び健人くんは体育館へ戻るだろう。
しかし、あれ程の敵のど真ん中では、食事の皿に進んで乗る餌にしか見えない。
『彼が起きる前に、どうにか策を練らないとな。』
正直な話、俺も足の痺れが残っていたり、背後から飛んできた蜘蛛の糸が肩に当たっていたりして、少しだが体を休めたい。
部屋の鍵を閉めて、扉を背もたれにして、少しだけ瞼を閉じた。




