影が校舎を食らう
空を見上げれば、陽が落ち始めていた。
夕方を迎え、茜色へと染まっていく町並み。
子ども達の声が聞こえない校舎は大きな影を作り、グラウンドで彷徨う感染者を暗がりに呑み込む。
そんなグラウンドを出たすぐの道、学校前から右に歩いた歩道で、集まっている女性らと対面する。
『……嫌な汗をかいちまう。』
手汗をスーツのズボンに押し付ける。
静香さんが足を止めて、こちらへ振り向く。
「大西さん、前提として先に言いますが、私達は大西さんの事を責める気はありませんよ。」
来るであろう文句に、体が硬くなっていたせいか、呆気に取られてしまう。
静香さんの言葉に同意するかのように、他の女性らが頷く。
「あの地獄から脱出できたのは大西さんのおかげです。 そして、ここまで無事に辿り着けたのも大西さんが居たからです。 なので、大西さんは負い目を感じないでください。」
「こんな状況の中、あの日会ったばかりの私達を助けてくれるだけでも凄いわ。」
「うんうん。 あんな状況の中、人の為に動ける大西さんに文句なんて言えないね。」
他の女性も口々に頷く。
「私達の話し合いで決めた決断として、まず近場で夜を過ごせる場所を探したいです。 それでどこにも無ければ、危険ではありますが、昨晩泊まったマンションに戻りたいと思います。」
「あぁ……分かった。 自分も出来る限りの協力をします。」
俺はそう短く返す。
彼女らを無事に避難所に届ける、それは叶わなかったが、彼女らに非難の言葉を浴びせられなかった事にスゥと心が軽くなる。
俺は実は感染者に襲われないんだ。
同じ存在かもしれないから、人助けをしている。
そんな後ろめたい気持ちを噛み殺し、今は彼女らの無事を確保するのを優先したい。
「静香さん。 少し須川さん、向こうに居る男性と話してきます。 時間も遅いですし、彼1人を残すのは偲びないので。」
「分かりました、何かあったらすぐに言ってくださいね。」
それから、校門の前へ向かう。
須川さんに、近場で夜を迎えられる場所を探すと伝える。
「それならば、わしが見つけたビルはどうかね。」
須川さんは、昨晩泊まった雑居ビルを紹介してくれる。
「成程、良さそうですね。 須川さん、そこまでの案内をお願い出来ませんか?」
「あぁ、構わないよ。」
とりあえず、彼に女性達の元まで来てもらう。
それから、彼が見逃して欲しい理由を話して、俺はそれを受け入れるつもりだと彼女らに打ち明けた。
彼の過去の行いに、怯えが見える女性もいたが薄暗くなり始めたので、今はこの場を離れるのを優先した。
須川さんに案内され、雑居ビルを目指し、歩き始めた。




