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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
第2章・退勤編 中学校Part
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後味の悪い旅立ち

 停止したエレベーターから出てきたのは、静香(しずか)さんと上に残っていた女性達。

 2つあるエレベーターの両方が稼働して、皆がエントランスホールに集まっていく。


大西(おおにし)さん、おはようございます。」


 その様にして、既に朝の挨拶を終えている静香さんと愛莉(あいり)ちゃん以外から、声を掛けられる。

 それらに対応しながら、俺は端でスマートフォンを触って待つ。


「ちょっとー、どーして先に降りたのよっ。」


「えへへ、変に目が覚めたし、外の空気でも吸いたくなってねー。」


 よく思えば、名前を聞いていない薄着の彼女は、他の女性に連れていかれ、返事は出来ないままとなる。

 俺としては、そのまま話が有耶無耶になるのは助かった。


「大西さん、お待たせ致しました。 皆さんに聞いた所、これで全員が集まった様です。」


「ん、分かりました。 それでは、避難所に向かいたいと思うのですが……何かあるのですか?」


 言い淀む様に、後ろを見る静香さん。

 その背後には、真剣な面持ちでこちらを見る3人の女性。


「あの……こちらの方々からお話があるそうです。」


 どうぞ、と静香さんは促して後ろに下がる。

 変わって前に出てきた女性の1人が口を開く。


「ここに来るまでの間、大西さんに助けてもらい、恐縮なのですが、私達はここに残らせていただきたいと思うんです。 私達は……」


 彼女は、滔々と話を続ける。

 要約すると、独り身で、上京してきたので、両親も遠い場所に居る。

 避難所に行っても、安全が確保されているか分からない。

 ここまで来るのにも限界で、ここから更に移動するのを考えると、気持ち的に耐えられない。

 昨夜、部屋で過ごせたのが思ったよりも心を癒してくれて、ここで救助が来るまで待ちたい。

 という内容だった。


「……話は、分かりました。 事態が事態ですし、他の方の決断にどうこう言うつもりは自分にはございません。 なので、貴女がそう決めたのなら、頑張ってくださいと応援するしかないですね。」


「本当に……ここまで助けて頂き、ありがとうございました。」


 改めて、頭を下げる3人に、続く様にして、数名の女性が頭を下げていた。

 どうやら、彼女らは代表で、他にも残る意志のある女性が居る様だ。


『管理人の件だけは話した方がいいよな。』


 下層の惨殺死体は、残る決意をした彼女らがいずれ気付くだろうが、俺から話す勇気は無かった。


「1つだけ、皆さんにお話ししたい事があります。 今朝の夜が明ける前の事なのですが……」


 管理人に襲われて、胸に包丁を刺されかけた事を話す。

 そして、その事は解決しており、その2人は縄で縛り、今管理人室の奥で気絶している事も。


「そんな事が……」


 唖然とする女性ら。


「情報の後出しになってしまいましたが、それでも残られる方は、それも1つの道だと思います。 問題も解決しましたし。 では、ここで時間を消費していても仕方ないので、そろそろ自分達は行きますね。」


「あの! やっぱり、私は行きます。」


「わ、わたしも……」


 心変わりした数名の女性。

 俺は一言、「ええ、構いませんよ。」と返し、エントランスホールから外へと出る。


 朝の気温が落ちた外気、肌寒い風が顔に当たる。

 上着の前を閉めて、後から降りてきた静香さんに持ってきてもらった、革鞄を片手に握る。


『彼女らが、管理人の事、そして、下層に残った死体を見てどうするかは、俺の考える事じゃない……か。』


 エントランスで縛られた感染者の対処もあるし、問題は山程放置されているが、この非常事態の中では取捨選択するしかない。

 俺は、静香さんと愛莉ちゃんを避難所へ届ける。

 そして、この倉橋(くらはし)市から出て、家に帰るんだ。


 マンションの敷地内から、道路沿いに続く歩道へと出る。

 スマートフォンで小野町(おのまち)中学校の場所を改めて確認し、その方角へと俺達は歩き始めた。

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