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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
第2章・退勤編 中学校Part
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狂人の存在

 玄関へと伸びる、直線の廊下。

 木製のフローリングの床に、ドカリと座り込んで、壁に背を預け、スマートフォンを触っていた。


『もうそろそろ、彼女達が起きてくる頃合いか。』


 玄関の靴を脱いで上がったすぐの所には、同じ顔をした2人の男が床で気絶している。

 胴の部分を縄で縛っており、1階のエントランスホールに居る感染者と同じく、胡坐をかいて、背中合わせで座っている。


『……これが、彼らの本性って思いたくは無いよな。』


 明らかに常軌を逸していたが、相坂(あいさか)さんとその兄が、普段よりそうだとは感じられなかった。

 それに、兄の方が漏らしていた言葉が耳に残っている。


『……やはり、人間は信じられない。 俺達家族から、勝手に奪っていくんだ。 善意だけでは、生きていけないんだ。』


 大型トラックの事故から数日が経っている。

 その間、彼らに何があったのかは分からない。

 けれど、それ相応の出来事があったのは窺える。


『だからと言って、俺達が襲われる訳にはならないが。』


 泊まらせてもらっている立場とはいえ、そこは抵抗せざるを得ない。

 俺は死にたくないし、彼女らを無事に避難所まで送り届けないといけないのだから。


「……おはよう。」


 ビクッ、考え事をしていたせいか、リビングの扉が開いたのに驚いてしまった。

 顔を出して、朝の挨拶をしたのは愛莉(あいり)ちゃん。

 まだ寝ぼけ眼で、首を傾ける。


「おはよう、愛莉ちゃん。 顔を洗っておいで。」


「ん。」


 愛莉ちゃんはトテトテと廊下を歩いていく。

 その背を見送っていると。


「おはようございます、大西(おおにし)さん。 あと、これはどういう事でしょうか?」


 次に、静香(しずか)さんが現れた。

 寝巻きから昨日の服装に着替えており、髪も整えられている。

 そして、彼女にとっての奥側。

 俺の横で眠る2人を見ながら、彼女はそう呟いた。


 ***


「そんな事が……」


 朝の支度を終えて、朝食を頂きながら、管理人について静香さんに話した。


「昨夜の彼らは正直、普通ではありませんでした。 どこか夢見心地というか、理性が失われていました。」


 トーストされた食パンを半分に畳んで、乗せた目玉焼きと共に齧り付く。

 数回咀嚼し、ホットコーヒーに口を付ける。


「今、倉橋(くらはし)市で起きている事件に耐えられなくなっておかしくなった……という事でしょうか。」


「分からない……ただ、彼らや倉橋商業大学の大学生の様に、異常な精神状態に陥っている者が居るのは確かだと思う。」


 食べ終えて、手を合わせて、皿とコップを流しへ置きに行く。


「ここに寝かせていても不安ですし、2人を下の管理人室まで運んできますね。 愛莉ちゃんと静香さんも準備が出来たら、他の方と共に下へ降りてきてください。」


 それから、相坂さんとその兄の後ろ手を掴み、腕力で持ち上げて、部屋の玄関を出た。

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