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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
第2章・退勤編 中学校Part
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二体の悪魔

 薄暗いリビング、コーナーカウチソファの前。

 テーブルを挟んだ向こう側には、2人の男性。


 彼らが横に並ぶと、より一層、その瓜二つな姿が強調される。

 俺はその光景にイマイチ理解が覚束ないながらも、胸の刺し傷へ手を当てる。


『もう閉じてしまった……』


 破けたパジャマの内側。

 鋭い刃の包丁によって抉れた胸の皮膚。

 指の腹でなぞるが、痩せぎみの柔肌を滑るだけで、刺し傷はどこにも確認できない。


「ちゃんと刺したのか?」


「勿論。 奥深くに刺した筈なんだけど……まだ動けるのが奇跡としか言えないね。」


 人の生死に関わる話を、まるで夕食の献立を決める様に、軽く話す2人。

 それは明らかに普通ではない。


相坂(あいさか)さん。 改めて、刺した理由を聞いてもいいですか。」


 落ち着いた声色を装い、彼らに語り掛ける。

 まずは状況を把握する為に、時間を作りたい。

 俺1人ならば、正直どうとでもなるが、静香(しずか)さんや愛莉(あいり)ちゃんがすぐ近くに居る今、迂闊に動けない。


「ふむ……」


 顎に手を当て、言葉を溜める、後から出てきた方の男。

 先程の会話からして、管理人の兄だろう。

 警戒して、体を構える。


「時間稼ぎしても無駄だと思うがな。 弟の話が本当なら、出血でじきに弱るだけだ。 さて、リビングに女と子どもは居ないようだし、そちらを片付けるか。」


 俺はその言葉に体が動いていた。

 ナイフを片手に持つ兄の方に突撃。

 テーブルに片足を乗せて、卓上にあがり、もう一方の足でテーブルの上を蹴って、飛び付く。


 まさか、ナイフを持った自分へ向かって来るのか。

 そんな風に目を見開き、驚く兄の方。

 ナイフを前に構えながら、一歩後ずさる。


「無駄な事をーー」


 その言葉を待たず、左手を振りかぶる。

 ソファからテーブルへ移る前、左手で掴んだ毛布が、ナイフを構えた兄へ覆い被さる。

 兄が毛布を振り解く前に、弟へ方向転換して体をぶつける。


 出来たら意識を奪うか動きを封じたいが、道具も方法も分からない。

 有り余った腕力で、相坂の体を翻し、床に押さえ付ける。


「だから、野蛮な奴は嫌いなんだ。」


 眼光が鋭くなり、語尾が強くなる兄の方。

 毛布を床へ落とし、改めてナイフを前に差し出す。


 感染者なら命令を使い、さっさと解決できるのに……。

 そんな考えが浮かんでしまう。

 そして、ハッとしてしまう。


『完全に甘えているな。』


 いつの間にか、命令頼りになっている自分に気付いてしまう。

 俺は噛まれなくなったせいか、危機感が薄れていた。


『これでは駄目だよな。』


 俺は、彼女達を安全に避難所へ送り出す。

 そして、無事に家へ帰る。

 先輩や課長も探したいし。

 ここでやられる訳にはいかない。


修二(しゅうじ)を解放しろ。 さもないと、これで刺しますよ。」


 果物ナイフに見える小型のナイフ。

 より凶悪な包丁で刺されても無事だったせいか、恐怖は感じない。

 それに、ここで怯えても仕方ない。


「聞いているのか!」


 大声を上げた兄へ、俺は再度突撃した。


 それから、行ったり来たりの乱闘になった。

 兄の果物ナイフを部屋の端へ投げれば、弟の方がソファ下より包丁を取り出す。

 そちらへ対処する為、弟が振り下ろす包丁の腕を受け止めながら、背後に周り、腕を軋ませる。

 その包丁を奪えば、兄が果物ナイフを確保している。


「ハァハァ……」


 流石に呼吸が乱れて、息が荒くなる。

 包丁を兄へ向けながら、後ろの弟も警戒する。

 挟まれた形で膠着状態。


 ガチャ。

 そこで、リビングのドアが開いた。

 玄関に繋がる方とは逆、寝室に繋がる廊下へのドア。


 顔を出したのは、愛莉ちゃんだった。


『まずい!』


 部屋に入ってきた愛莉ちゃんは、イマイチ状況が把握できていないのか、寝ぼけているのか。

 目元を擦りながら、首を傾ける。


「これはこれは、ちょうどいいところに来てくれましたね。」


 その近くの弟は、愛莉ちゃんに近付きながら、笑みを浮かべる。

 人質にする気なのだろう。

 俺は兄へ背を向けて、駆け出した。

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