深夜の侵入者
『く、来るなァァァッ!』
叫び声を上げる男は、拳銃を構える。
その銃口は真っ直ぐ、オレの方を向いていた。
『頭を狙え、早く撃てェ!』
右前を進む、大柄な若者が首を撃たれてよろめく。
しかし、歩く足を止めず、周囲に居るナカマと共に前進を続ける。
『ば、バケモンが……死ねェェェ!』
徐々に後退する、警察の部隊。
向こうは未だ無傷、対してこちらは数十人が地面に倒れて動かない。
『最前線を下げるぞ、引くんだッ!』
ゆっくりと警察に迫っていく。
平和な日本の町。
武装した警官の発砲。
どうして、オレはこちら側に立っているのだろうか。
***
ザクッ、そんな滑稽な音で俺は目が覚めた。
「フフ……恨むなら、僕の城に逃げてきた貴方の運命を恨んでくださいね。」
仰向けに、リビングのソファで眠る俺。
毛布は蹴り飛ばしたのか、横に落ちている。
そして、胸の中央よりやや左の部分だろうか、そこにじんわりと痛みが生まれる。
『誰か、居るのか……?』
声は明らかに男の声で、静香さんや愛莉ちゃんでは無いのが分かる。
じわじわと認識される、胸に刺さった何かを感じながら、薄目を開ける。
リビングは明かりを消した状態のままで、カーテンを開いた窓から朝日は入っておらず、まだ夜中であるのが窺える。
そんな薄暗い部屋の中で、ソファとテーブルの間に立っている男が1人居た。
『管理人の、相坂さんか?』
寝起きで頭が上手く働かないが、このマンションへ来て、出会った男は彼だけだったのを思い出す。
どうして、彼はこんな時間にここに居るんだ。
「さてと。 念の為、もう一度止めを刺してから、女性達に移りましょうか。」
男は、俺の胸から何かを引き抜く。
数滴の雫が暗闇の中、俺の体やソファの上に飛び跳ねる。
そして、男は両手でそれを大きく振り下ろーー。
「ッ。」
間一髪、管理人の腕を受け止め、それの刃先から逃れる。
咄嗟に、手が出ていた。
「!」
管理人は、まさか防がれるとは思ってなかったらしく、驚きの表情を浮かべる。
「ッ……相坂、さん……これは、どういう事ですか。」
俺は命の危機であったのに、いやに頭は冷静で、暗がりの中で未だ包丁を離さない相坂を見ていた。
彼はギリギリと包丁を俺の胸へ押し込もうと、力を込める。
「ちゃんと、胸の奥まで刺した筈なんですが……どうして、生きてるんでしょうかね。」
俺の質問には答えず、相坂はブツブツと独り言を呟く。
とりあえず、包丁が俺の胸に向かっている状態は不味い。
相坂の腕を左右へ振って、体勢を崩させる。
腕力が思ったよりも発揮して、激しく彼の体が揺れる。
相坂の押す力が弱まった瞬間、ソファから起き上がり、包丁を握る相坂の手首を捻り、床へ落とさせる。
「ら、乱暴ですね……大西さん。」
テーブルとソファの間。
床へと落ちた、包丁。
手首を気にしながら、相坂は俺を見る。
相坂が包丁を拾おうとして、腰を屈める。
その折り曲がった体に向かってタックルして、テーブルの上へと押し倒す。
包丁の柄の部分を蹴って、ソファの下へ滑らす。
そして、立ち上がる相坂を見据える。
「痛たたたた……僕も若くないので、暴力は辞めてくださいよ、大西さん。」
呑気な口調で、相坂はテーブルを挟んで、奥側の床で立ち上がる。
己の左胸を見ると、薄着の寝巻きには穴が空いており、赤く滲んだ染みが出来ていた。
「相坂さん、答えてください。 こんな真夜中に、何をしているんですか。」
リビングの時計の針は、深夜2時を示す。
愛莉ちゃん達は個室でまだ寝ているのか、騒ぐリビングには現れない。
「フフ。」
相坂は問いには応えず、笑みを浮かべる。
その姿は余裕があり、俺の最期の足掻きだと思われている可能性が高い。
『寝ている間に刺されたようだが……』
穴を埋める様に、盛り上がる自分の胸の筋肉。
抉れた傷跡は、切れた血管が繋がり始めていた。
出血は止まり、胸の痛みは徐々に消え、肉体が再生に向かって動くのが、己で言うのもなんだが気持ち悪い。
「修二、もうこれ以上は待てないぞ。」
「は?」
廊下よりリビングへと入ってきたのは、目の前に居る相坂と瓜二つな人物であった。
ドッペルゲンガー、双子、違いが分からなすぎて、同じ人間がこの場に現れたかのよう。
数回、彼らの顔を見比べてしまう。
「ごめんよ、兄さん。 彼が死ぬ間際に反抗してきて、どうしようか迷ってた所なんだ。」
『兄さん』、その言葉的に兄弟もしくは双子なのだろう。
相坂の隣に並んだもう1人の男。
急に現れた、同じ顔の人間に戸惑いを隠せない。
「まぁ、いいさ。 その為に俺とお前で2人居るんだ。 さっさと侵略者を始末して、部屋に帰るぞ。」
廊下より入ってきたその男。
彼らとは逆側、奥の寝室で眠る愛莉ちゃんと静香さんが心配だが、まずはこの状況をどうにかせねば。
テーブルを挟んで、彼らと対峙する。




