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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
第2章・退勤編 中学校Part
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深夜の侵入者

『く、来るなァァァッ!』


 叫び声を上げる男は、拳銃を構える。

 その銃口は真っ直ぐ、オレの方を向いていた。


『頭を狙え、早く撃てェ!』


 右前を進む、大柄な若者が首を撃たれてよろめく。

 しかし、歩く足を止めず、周囲に居るナカマと共に前進を続ける。


『ば、バケモンが……死ねェェェ!』


 徐々に後退する、警察の部隊。

 向こうは未だ無傷、対してこちらは数十人が地面に倒れて動かない。


『最前線を下げるぞ、引くんだッ!』


 ゆっくりと警察に迫っていく。

 平和な日本の町。

 武装した警官の発砲。

 どうして、オレはこちら側に立っているのだろうか。


 ***


 ザクッ、そんな滑稽な音で俺は目が覚めた。


「フフ……恨むなら、僕の城に逃げてきた貴方の運命を恨んでくださいね。」


 仰向けに、リビングのソファで眠る俺。

 毛布は蹴り飛ばしたのか、横に落ちている。

 そして、胸の中央よりやや左の部分だろうか、そこにじんわりと痛みが生まれる。


『誰か、居るのか……?』


 声は明らかに男の声で、静香(しずか)さんや愛莉(あいり)ちゃんでは無いのが分かる。

 じわじわと認識される、胸に刺さった何かを感じながら、薄目を開ける。


 リビングは明かりを消した状態のままで、カーテンを開いた窓から朝日は入っておらず、まだ夜中であるのが窺える。

 そんな薄暗い部屋の中で、ソファとテーブルの間に立っている男が1人居た。


『管理人の、相坂(あいさか)さんか?』


 寝起きで頭が上手く働かないが、このマンションへ来て、出会った男は彼だけだったのを思い出す。

 どうして、彼はこんな時間にここに居るんだ。


「さてと。 念の為、もう一度止めを刺してから、女性達に移りましょうか。」


 男は、俺の胸から何かを引き抜く。

 数滴の雫が暗闇の中、俺の体やソファの上に飛び跳ねる。

 そして、男は両手でそれを大きく振り下ろーー。


「ッ。」


 間一髪、管理人の腕を受け止め、それの刃先から逃れる。

 咄嗟に、手が出ていた。


「!」


 管理人は、まさか防がれるとは思ってなかったらしく、驚きの表情を浮かべる。


「ッ……相坂、さん……これは、どういう事ですか。」


 俺は命の危機であったのに、いやに頭は冷静で、暗がりの中で未だ包丁を離さない相坂を見ていた。

 彼はギリギリと包丁を俺の胸へ押し込もうと、力を込める。


「ちゃんと、胸の奥まで刺した筈なんですが……どうして、生きてるんでしょうかね。」


 俺の質問には答えず、相坂はブツブツと独り言を呟く。

 とりあえず、包丁が俺の胸に向かっている状態は不味い。


 相坂の腕を左右へ振って、体勢を崩させる。

 腕力が思ったよりも発揮して、激しく彼の体が揺れる。

 相坂の押す力が弱まった瞬間、ソファから起き上がり、包丁を握る相坂の手首を捻り、床へ落とさせる。


「ら、乱暴ですね……大西(おおにし)さん。」


 テーブルとソファの間。

 床へと落ちた、包丁。

 手首を気にしながら、相坂は俺を見る。


 相坂が包丁を拾おうとして、腰を屈める。

 その折り曲がった体に向かってタックルして、テーブルの上へと押し倒す。

 包丁の柄の部分を蹴って、ソファの下へ滑らす。

 そして、立ち上がる相坂を見据える。


「痛たたたた……僕も若くないので、暴力は辞めてくださいよ、大西さん。」


 呑気な口調で、相坂はテーブルを挟んで、奥側の床で立ち上がる。

 己の左胸を見ると、薄着の寝巻きには穴が空いており、赤く滲んだ染みが出来ていた。


「相坂さん、答えてください。 こんな真夜中に、何をしているんですか。」


 リビングの時計の針は、深夜2時を示す。

 愛莉ちゃん達は個室でまだ寝ているのか、騒ぐリビングには現れない。


「フフ。」


 相坂は問いには応えず、笑みを浮かべる。

 その姿は余裕があり、俺の最期の足掻きだと思われている可能性が高い。


『寝ている間に刺されたようだが……』


 穴を埋める様に、盛り上がる自分の胸の筋肉。

 抉れた傷跡は、切れた血管が繋がり始めていた。

 出血は止まり、胸の痛みは徐々に消え、肉体が再生に向かって動くのが、己で言うのもなんだが気持ち悪い。


修二(しゅうじ)、もうこれ以上は待てないぞ。」


「は?」


 廊下よりリビングへと入ってきたのは、目の前に居る相坂と瓜二つな人物であった。

 ドッペルゲンガー、双子、違いが分からなすぎて、同じ人間がこの場に現れたかのよう。

 数回、彼らの顔を見比べてしまう。


「ごめんよ、兄さん。 彼が死ぬ間際に反抗してきて、どうしようか迷ってた所なんだ。」


 『兄さん』、その言葉的に兄弟もしくは双子なのだろう。

 相坂の隣に並んだもう1人の男。

 急に現れた、同じ顔の人間に戸惑いを隠せない。


「まぁ、いいさ。 その為に俺とお前で2人居るんだ。 さっさと侵略者を始末して、部屋に帰るぞ。」


 廊下より入ってきたその男。

 彼らとは逆側、奥の寝室で眠る愛莉ちゃんと静香さんが心配だが、まずはこの状況をどうにかせねば。

 テーブルを挟んで、彼らと対峙する。

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