暗雲が漂う空
タクシーの窓から覗く景色は、見慣れた会社近く。
後ろへ流れる町並みから視線を戻し、手元のスマートフォンへ。
『やっぱりこれって、情報操作ってやつなのか?』
画面に映るのは、動画共有アプリのMyTube。
地元ローカル局のチャンネルを検索して、見ていたのだが……。
『……現在、倉橋市中心部にて大規模なデモ活動が発生しております。 その訴えは、倉橋市がIR誘致の候補に挙がった事への反発と思われ、警察は予断を許さない状況とのことです。 一般市民の方は、大通りを避け、近付かない様にお気を付けくださいますようお願い申し上げます。』
「そんな話、聞いたことねーよ。」
「お客さん、どうかしましたか?」
「あぁ、なんでもないですよ。 こちらの話です。」
バックミラー越しに、運転手と視線を交わす。
「あ、運転手さん。 そこに止めてくれたら、あとは歩いて行きますんで。」
同僚が昼休みによく利用する、近場のコンビニで停車してもらう。
『会社に、タクシーの直で向かうと何を言われるか分からないからな。』
料金を支払い、礼を述べて歩き始める。
傘を持ち直しながら、ふと空を眺める。
『朝日は出てるのに、なんだか空気が淀んでるな。』
遠くの、山の方面には暗灰色の乱層雲が見える。
午前は降らないにしても、午後は一雨来そうな予感がする。
『傘を持ってきたのは、ある意味正解だったな。』
幼少期に立ち返り、無邪気に傘を揺らして歩く。
コツコツと革靴が音を鳴らす違いはあれど、昔を思い出す。
『さてと、なんて言い訳しよう。』
目前に迫る会社を確認し、現実と向き合った。




