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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
序章・出勤編
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運転手の居ないバス

 倉橋(くらはし)駅前のバスロータリー。

 乗り捨てられた巡回バス。

 運転手は既に駅構内へと走り去っていった。


「どうすんだよ、これ。」


 同じように外へ降りた他の乗客も、困惑してバスを眺めて立つ。

 5人の男の子達なんて、「映画だ!」と興奮して、騒いでいる。


『俺も若かったら、そうなってただろうな。』


 ゆっくりと周囲に目を向けた事で、頭に上った血が落ち着き、動悸も収まってきた。

 スマートフォンを取り出し、時間を確認。

 別の路線で会社へ向かっても、遅刻が予想される。


『警察の方で何かあったらしく、済みませんが会社へは大きく遅れる可能性があります。 先輩、申し訳ありません。』


 RAIN(レイン)にて、同じ部署の信頼できる先輩へ送信する。

 叱られる事に変わりはないが、彼なら不当な扱いは受けないだろう。


『しかし、どうするか。』


 数分が経過したのに、脳に張り付いて止まない光景。

 プロ野球でごく稀に起きる乱闘騒ぎとは比較にならない、暴徒の波だった。


『それだけじゃないしな。』


 見えた暴徒の動きは常軌を逸していた。

 何か意思があるようでも、酔っ払っているようでもない。

 頭部や両手が激しく揺れるのも気にせず、淡々と前進し、流れ作業の様に近くの車を襲っていた。


「……とりあえず、会社には向かうか。」


 考えても仕方ない、それよりも今は仕事だ。

 会社へ行く途中に、事故現場の雑居ビルはある。

 されど、そこさえ避けて通れば、雑居ビルと会社はある程度距離があり、まだ被害は受けてないかもしれない。


『色々愚痴は漏らすが、まぁ俺を拾ってくれた会社だからな。』


 よいしょと鞄を持ち直し、空車のタクシーに声を掛けた。

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