邂逅
『久しぶりに会ったけど、変わらないのね。』
鋭い目付きで、不機嫌ですといった風貌。
『で、もう20歳も過ぎたんだし、彼女でも出来たの?』
パーティドレスは華やかなのに、棘のある彼女の口調で台無し。
『ふーん、まだ童貞なのね。』
鼻で笑われた。
俺は大人の対応で我慢、堪えた。
『あんたの部署には、女の子が居ないんだ……』
俺は他の同級生とも話したいと、その場を後にしたっけ。
ガコン!
大きな衝撃で、両手の枕から頭がズレる。
「ッ!」
小脇に抱えた傘のハンドルで、頭部を強打。
頭に手をやり、冷や汗を拭い、瞼を開閉。
『何が起きたんだ?』
バスは停止していた。
停留所に止まっているのならば、それは普通の事だから気にはならない。
『運転手は何してんだよ。』
横断歩道の手前で、青信号なのに発車しないのだ。
他の乗客も訝しげ、騒がしさが生まれる。
ガコン!
突然、バスが後退する。
しかし、車が勿論背後にあり、後続車にぶつかる。
『運転手、おかしくなったのか?』
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
目前の広告が貼られた板、その左から顔を覗かせた瞬間だった。
運転手のおっさんが野太い叫び声を上げて、急発進。
ハンドルを大きく右に切り、元来た道路の対向車線に入る。
『……なんだよ、アレ。』
バスが道路に生む、急カーブの半円。
必死に座席の手すりや広告の板を掴む中、正面の透明な窓から見えたのは異変だった。
『夢じゃないよな。』
一瞬の内に、脳内でこびりついた一枚絵。
目元を擦る。
頬を抓り、鋭い痛みをしっかりと感じた。
『夢じゃない。』
サラリーマンや学生が、平然と道路を縦断していた。
その中には警察官の服装も。
通行できず、立ち往生する乗用車の窓を叩き、クラクションなんて他人事。
ゆっくりと着実に迫る群衆に、一台一台が飲まれてゆく。
「はぁ?」
倉橋駅へと戻るバスに揺られ、俺は頭を抱えた。
「………」
窮地に立たされると、アドレナリンが出て、人は冷静になるなんて聞いた事がある。
そんなのは嘘だ。 心臓のバクバクは激しく、頭がこんがらがっている。
『あぁ、よく見たらこの近くじゃないか。』
今朝のニュースの事故現場。
大型トラックが雑居ビルに突っ込んだ場所。
フラッシュバックされるのは、獰猛な野犬。
気付いたら、右手で傘の手元を強く強く握り締めていた。




