3日目 薄明
ポスンと、柔らかなベッドの上に片手が落ちる。
無意識の中での寝返り。
ふっと、目が覚めた。
「……ん。」
寝起きは良い方ではないのだが、気怠さや眠気はなく、いやに頭がスッキリとしている。
『何だったんだ……』
思い出されるのは、さっきまで見ていた景色。
高速道路。
大型トラック。
運転している自分。
どこかの病室。
「うっ……」
ズキンッ、ズキンッ。
それを考えた瞬間、頭を押さえる。
ぐらりと脳が揺れて、車酔いに似た感じで酔ってしまう。
「ハァ……ハァ……」
丸まった背中を起こしながら、口に手をやる。
深呼吸で落ち着ける。
そして、どうにか周りに目を向けられるまでになる。
四方はカーテンが下されており、薄暗い闇の中で微かに見える。
テーブルランプに手を伸ばし、カチッと音を立てる。
『ん。』
スマートフォンが、充電器と共にラックの上に移動していた。
『俺は確か……』
寝る前の記憶を呼び起こす。
仮眠室で、俺は佐藤さんを待っていた。
個室のベッドで寝転がり、スマートフォンを触って、時間を潰して……。
『寝落ちしたのか。』
それ以降の記憶がなく、その結論に至る。
そして、身体の上に掛かっているそれに気付き、なんとなく理解した。
『彼女か。』
ウール素材のブランケット。
お腹の上に掛けられており、寝起きで冷える体を温める。
おそらくは、スマートフォンも彼女なのだろう。
『あとでお礼を言わないとな。』
手を伸ばして、ラック上のスマートフォンを取り、画面に触れる。
ランプよりも強い光量で、思わずパチパチと数回瞬きして目を慣らす。
それから、時刻を確認。
『午前5時47分か。』
どうやら夕食も口にせず、夜を越してしまったらしい。
どうりで、お腹が空く訳だ。
『起きる時間でも無いし、外で食べるか。』
ブランケットを軽くたたんで、足元に置く。
靴下を履いて、革靴に足を通す。
スマートフォンをポケットに入れ、ラック上のレジ袋を探る。
コンビニおにぎりの海老マヨを袋から出して、お茶のペットボトルを手に取る。
『佐藤さんは……寝ているみたいだな。』
ランプの明かりを消し、カーテンを開けてそっと個室を出た。
前にある個室、カーテンで閉じられたベッド。
耳を澄ますと、スローテンポな寝息が聞こえてきて、彼女が寝ている事を悟る。
そりゃ当たり前かと納得して、そっと仮眠室の扉を開けて、外の通路へ。
『意外に、久しぶりに感じるな。』
通路は、常夜灯が点々と光るのみ。
人の気配がしない、無音に包まれた夜の通路。
過去に数回見た事ある光景だが、今年に入っては初めてだろうか。
『ん、車が一台も走っていない?』
仮眠室の前は、すぐにオフィスビルの正面側で、ガラス張りから外の町並みが窺える。
朝日もまだ昇らぬ、夜の町並み。
早朝でも、ポツポツと車が前の道路を走っていた気がするが、今は歩行者すら居ない。
街灯がコンクリートの地面を照らし、遠くにコンビニが光るだけ。
『やっぱり、今起きてるやつのせいなんだろうか。』
おにぎりを口にしながら、連日の出来事を思い浮かべる。
改めて考えると、俺は未だに夢の中に居るとしか思えない。
あえて、その名前を出してこなかったが、明らかに奴らはゾンビだった。
「ふぅ……」
おにぎりを平らげ、ペットボトルのキャップを回す。
右手で傾け、ゴクゴクゴクと喉を潤す。
生温いが、乾いた喉には優しい。
通路の壁に背中を預け、床へとお尻を着地させる。
ポケットからスマートフォンを抜き、画面ロックを外す。
アプリゲームのログインでもしながら、日が昇るのを待った。




