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俺とゾンビと荒廃した世界と。  作者: 猪ノ花 恵
第1章・就業編
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2日目 安堵

『縁がないもんだと思っていたが、助けられたな。』


 辿り着いた、総務課。

 お団子頭のあの子が蹲っていた、カウンターの内側で見つけた。

 棚の1つを探ると、遺失物保管中と書かれた箱が押し込まれていた。


 カウンターの上でひっくり返し、中を確かめる。

 ネクタイ、靴下、誰かの名刺に紛れ、探していた物が出てくる。


『中身は……無事だったか。』


 革鞄を開いてみると、ペットボトルのお茶から始まり、膨らんだレジ袋やペンケースが出てくる。

 レジ袋の中には、コンビニ弁当と菓子パンが2つ。


『よく思えば、通勤の時に買っていたんだったか。』


 まだ2、3日しか経っていない筈だが、遠い昔の様な心地。

 大分の味 とり天&唐揚げ弁当に、菓子パンも含め、消費期限が期日間近なのを確認し、レジ袋へ戻して鞄を閉じる。


『あの時は必死だったからな……』


 床へと転げ落ちてしまった、革靴を手に取る。

 片方は横向きで、もう片方はひっくり返る。

 両方の靴を表にして、足を通し、靴紐を結んでいく。


 コツコツ、履き終えた靴のつま先は良い音を響かせる。

 やはり、靴があると足元が落ち着く。


『上着は……使い物にならないな。』


 机の上にふわりと落ちた、スーツの上着。

 両手に持って広げると、2つの穴が存在を主張していた。

 折り畳んで、革鞄に押し込んだ。


『あの日、置いていった物はこれぐらいだよな。』


 他に、フリースペースの中で、折り畳み傘とブランド傘を置いてきたと思うが、損傷したその2つは箱には入っていなかった。

 損傷具合からして、廃棄されたのかもしれないし、行方は分からない。

 ブランド傘の方は、母親からの贈り物という事で名残惜しく探したいが、場所の見当もなく、不本意ながら諦める事にした。


『……あとは、明日明後日の食事でも買って、仮眠室に戻るか。』


 これで俺の用事は済んだ。

 仮眠室に戻り彼女を待つだけだが、ついでに思い付く限りの備えをしとこう。


 エレベーターに戻り、2階で降りる。

 通路を歩く。

 社員食堂に入り、机の間を抜け、売店の中へ。


『2人分だと多いかもしれないが、出来る限り持って行きたいところだよな。』


 売店の棚を物色して、日持ちしそうな食品を選んでいく。

 カップラーメンやレトルト食品に、ご飯パック、お菓子と、買い物かごへ落とされる。


『盗むのは気が引けるが、誰も居ないレジにお金を置いても仕方ないんだよな……』


 バーコードリーダーに通し、あとは代金を置くだけ。

 そこで、レシートだけは作成して、商品をレジ袋へ詰めていく。


『この意味の分からない現状が収まった時、必ず返しに来ますので。』


 心の中で、頭を下げる。

 スマートフォンのメモ機能に、会社の売店で返金する予定がある事を書き留めておく。

 革鞄から取り出したメモ帳で、書き置きも残した。


『これ以上はうろちょろしても仕方ないな。』


 反対側の仮眠室へ戻り、トイレを済ませてから部屋に入る。


『まぁ、彼女はまだ帰ってないよな。』


 消灯した室内は、退室した状態のまま。

 奥の右の個室で、カーテンをサッと横に開く。

 テーブルランプのスイッチを入れ、ラックにレジ袋と革鞄をドサッと置く。


 革靴と汗臭い靴下を脱いで、ベッドの横に揃えると、身体を倒す。

 ボスン、枕に頭が重なる。

 昨夜も思ったが、自宅の敷布団とは段違いの寝心地。

 ベッドのふんわりとした生地が全身を包み、眠気を誘う。


『事が起こりすぎて、疲れているな……』


 ラックに手を伸ばし、乗せていたスマートフォンを取る。

 持ってきた充電器をスマートフォンに差し込み、コンセントに繋げる。


『連絡は無いか……』


 RAIN(レイン)の通知履歴、既読すら付いていない。

 アプリを上に飛ばし、手頃なアプリゲームへと移る。

 今は、今だからこそ、頭を空っぽにしてログインボーナスでも集めていたい。


「ハハ……昔みてぇだな。」


 心ここに在らず、手だけでアプリゲームを起動しながら考えてしまう。


 故郷を出て、1人上京した昔の話。

 娯楽のゲーム機を揃える余裕なんて無く、スマートフォンで無料のアプリゲームばかりしていたあの日々の思い出。

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