スタート地点
「倉橋、倉橋です。 江山本線は、お乗り換えです。」
スマートフォンを鞄に仕舞い、ブランド傘を身体の前へ寄せる。
『少し時間に余裕があるな。』
速度を落とす電車。
駅のホームの景色が、ゆっくりと後ろへ流れていく。
丸い時計が目に入った。
『時間あるし、コンビニでも寄るか。』
扉の前に立つ男子学生の後に続き、下車。
エスカレーターは使わず、階段を足早に上がる。
『やはり、この時間は混んでるな。』
倉橋は、江山本線と支線を繋ぐ大きな駅。
改札機を抜けた、券売機前の広場は人の往来が激しい。
駅ナカコンビニのNow Daysに入る。
『昼は弁当で済ますか。』
昼飯はいつも、社員食堂の日替わり定食。
安月給の身なので、苦手な焼き鮭の日でも我慢している。
だからまぁ、今日はあんなこともあったし、少しぐらいの贅沢は許してくれるだろう。
600mℓのお茶で最も安価な物をカゴに入れ、大分の味 とり天&唐揚げ弁当を手に取る。
『中津風唐揚げか、旨そうだな。』
その弁当もカゴの中へ。
あとは残業前の休憩に食べる、菓子パンを2つ取って、レジで購入した。
『気付いたら、もうこんな時間か。』
スマートフォンを確認し、また鞄の外ポケットへ戻す。
倉橋駅から出て、外の空気を吸う。
駅前はバスロータリーになっており、俺も乗る予定のバス停で列に並ぶ。
「バスを降りたら、またジャンケンな。」
紺色の学ランに、ボストンバックを提げた5人組がやってきた。
髪は短髪で揃えられ、如何にもやんちゃそうな男の子達。
『小野町中学校の生徒か。』
懐かしいなぁと、鞄に付いた校章を見る。
母校と交流があり、部活動の練習試合で体育館へお邪魔した事がある。
「ハァハァ。」
男の子4人は先に列へ並び、残った1人が巾着袋を5つ持って、息を吐く。
一見いじめに見えるが、俺も子どもの頃はジャンケンでジュースの買い出し決めたりしてたからなぁ。
チラ見していた顔を戻し、スマートフォンを出して時間を潰す。
『来たか。』
バスが到着し、中ドアが開く。
行先表示を確認し、ステップを上がり、整理券を取る。
「5枚分取っとくな。」
さっきの子達は、先に入った子が5枚引き、1番後ろの席へ横並びに座った。
『少し寝るか。』
運転手の後ろの席が空いていたので、そこへ座り、腕を組んで瞼を閉じる。
眠くないが、少し身体が軽くなった気がする。
『今日も帰りは遅くなるな……』
休日の日曜日まで、今日を除いてあと2日の仕事。
残業がもう少し無くなればなぁ、愚痴を溢しながら、微睡んだ。