2日目 悪夢
『相変わらず、彼女に絡まれてるんだな。』
自分のテーブルへ戻ると、旧友がワイングラスを傾けていた。
『俺が同行したら、野暮ってもんだろ。』
文句を言うオレに、彼は飄々と曰う。
『このホテルの料理は、なかなか美味しいもんだぜ。』
諦めて、皿に取り分けた肉料理へ噛み付くオレ。
それを見て、旧友が笑みを溢す。
『まぁ、よく噛んで食べてくれよな。』
そう言う旧友は、またグラスを傾ける。
オレは咀嚼しながら、グラスを片手で持つ旧友を眺めている。
そして、彼の左腕が無い事に気付く。
『えっ?』
切断面からポタポタと血が垂れて、骨も剥き出し。
そんな彼は笑いながら、普通に酒を嗜む。
『うっ。』
吐き気が込み上げる。
オレは自分が食べていたモノを見た。
白い皿の上に、人間の片腕。
旧友の切断面を確かめ、三角筋の下からの腕である事を知る。
上腕二頭筋辺りにはオレの歯型が残り、引きちぎられた皮膚と溢れた血のソース。
『ウェェェェ……』
食道に残る肉を、床へと吐き出してしまう。
気持ち悪い感覚が胃をかき混ぜ、血の気が失せる。
バッ、そこで体を起き上がらせた。
「………」
俺は数秒間パチパチと瞬きをすると、左右前後に視線を移す。
周囲には、紺色のカーテンが垂れ下がり、俺はベッドの上で寝ていた。
カーテンをサッと開くと、見覚えのある仮眠室に、理解が追いつく。
『ゆ……め、か。』
深呼吸をして、激しい鼓動を静める。
胸に手をやると、ワイシャツは寝汗でじんわりと湿っていた。
「ハァ、ハァ……」
乱れた呼吸を整えながら、毛布から足を抜く。
夏でも無いのに、寝汗をかいてしまった。
ベッドから床に足を降ろし、そっとカーテンを開ける。
「真夜中だな……」
薄暗い部屋の中、通路を照らす常夜灯。
淡い光を頼りに足を進める。
唯一カーテンが閉じた前のベッド。
少しカーテンを開いて確かめると、まだ瞼を閉じて彼女は眠っていた。
無理に起こすのは気が引けて、仮眠室からそっと出る。
「ッ。」
思わず、叫びそうになって口に手をやる。
扉の前に、仮眠室の見張りを頼んだダンディなおじさまが立っていた。
腕を組んで、仁王立ちする姿。
それは、昨日見た記憶と同じで、あれからここを動いていないだろうと推測される。
「あー、あの。 お願いした側として申し訳ないのですが、昨日の時点で、もう見張りの方は大丈夫なんです。 今日は確か土曜日ですし、もしお休みでしたら、どうぞ無理せずに帰ってくださいね……」
なんとも気まずい空気が漂う。
彼はこちらの意図を察してくれたのか、組んだ腕を下ろすと、背中を見せて通路の奥へと消えていった。
『確か、彼に頼んだのは……』
「少しこの場を離れますので、この仮眠室に誰も入れないようにしてもらえませんか? 男性社員に襲われていた女性が部屋の中に居まして、起きた時に誰か居ると怖いと思いますのでお願いします。」
『だったか。 仮眠室に戻る際、ちゃんともう大丈夫だということを伝えておけば良かったな。』
反省しながら、通路の右に足を向ける。
どこへ行こうとか目的は無かったが、外の空気を吸いたかった。




