血の足跡
ガチャンと開く音を耳にして、壁に預けた背中を外す。
避難経路図をポケットへ押し込み、立て掛けた傘を手に持つ。
「ふぅ、仕事終わりの一服は格別だな。」
『まだ、そんな仕事してないだろう……』
ツッコミは口にせず、さっさと通路を進み始める。
「ジミーよ、次はホールインワンの真髄でも話そうか。」
歩き始めると、再び始まるゴルフ談義。
それをラジオの様に聞き流し、執務室はガラス越しに確認、トイレは外から声を掛け、先輩の居場所を探っていく。
『やっぱり、何かおかしいよな。』
奴らを警戒して、執務室やトイレの中には入らない様にしていたが、その奴らの影さえ見つからない。
『それにこれは血の跡か?』
残りのフリースペースへ向かう通路。
足元には、出血した裸足を引き摺ったと思われる線がいくつか伸びている。
ポタポタと滴を落とした様な血痕も数滴あり、この先に何かがあるという予感が強くなる。
ガシャン!
その時、ガラスの割れる大きな音が響く。
音の伝わり方的に、通路の奥。
「課長、何か嫌な感じがしますので急ぎます。」
先程の休憩のおかげか、少しだけ軽くなった身体を動かし、通路を駆けていく。
『先輩、無事で居てくださいよ。』
フリースペースまで、あと少し。




