始まりの朝
「あぁ、頭痛ぇ。」
四畳半の狭い中心で起き上がる。
床に敷かれた布団は薄い安物で、硬くて仕方ない。
「やっぱり寝た気になれないなぁ、これじゃ。」
身体を起こし、トイレと風呂に、流しがセットで纏められたキッチンへ。
手早くトイレを済ませ、トースターに食パン1枚を放り込む。
ケトルには流しで水を入れて、スイッチオン。
「台風とか来てくれたら、仕事が無くなるんだがなぁ。」
ホームセンターで買った背の低い小さな卓を取り出し、折れた足を広げる。
テレビのリモコンもついでに持ってきて、暇潰しに点ける。
『……現状は情報が錯綜しており、改めて最新の情報が入り次第、伝えさせて頂こうと思います。』
「なんだ? 事故でもあったのか。」
現場近くと思われる道路沿いで、カメラに映る女性リポーター。
背後には黒煙が立ち、ヘリによる空撮の映像では、大型トラックが雑居ビルに顔を突っ込んでいた。
「また交通事故かよ。 トラックって事は超過労働でもあったんだろうなぁ。」
チン。
腰を上げて、キッチンへ。
こんがり焼けた食パンに、冷蔵庫から出したバターを塗る。
ケトルも湯気が見えており、陶器のコップにコーンポタージュ1袋を流し入れ、湯を注ぐ。
「あぁ、朝はコンポタとバターパンだよな。」
『……こちら倉橋市民病院よりお伝えします。 先程搬送されたトラックの運転手ですが、事故当時より意識が無い状態が続いており、心肺停止状態が確認されております。』
卓にパン祭りで貰った白い皿とコップを置いて、どかっと座り込む。
パンの端をちぎり、コーンポタージュに浸して口の中へ。
「うめぇなぁ。」
『スタジオにカメラ戻せ! ……一部映像が乱れた事をお詫び致します。』
テレビの左上にある時間を確認しようと目を向けると、先程事故があった雑居ビルのカメラ映像が3秒程度流れていた。
トラックが運ぶトレーラーの扉が解放されており、そこから野犬が飛び出る様が映る。
通行人のサラリーマンや学生を追い掛け、噛む寸前なのも確認できた。
「………」
CMで場を繋ぐテレビ画面。
俺は無言でひたパンをもう一口。
「あの運転手、なんてもん運んでんだよっ。」
犬は遠目でも尋常でないのは見ていて分かる。
そして、犬種的にドーベルマンに類するモノだろうか。
それが人を襲う? しかも俺が今から仕事に向かう倉橋市でだ。
「まじで最悪なニュースを見た。 これから仕事だってのにふざけんなよ。」
リモコンのスイッチを押して、テレビを消す。
さっさとパンとコーンポタージュを胃に入れ、スマートフォンの無料コミュニケーションアプリ、RAINの社内グループを確認する。
『業務は通常通り行います。』
俺と同じで見た奴が居たのか、事務に質問を飛ばす履歴が残っていたが、返答は厳しいものだった。
ハァァ……深い溜息を吐いてから、スーツに着替え、安いコートを羽織り、重たい革鞄を手に取る。
普段はもう少し後に家を出て、遅刻にならないぎりぎりでタイムカードを押す。
しかし、あんなのを見たら、時間通りに到着できるとは思えない。
「あるだけマシか?」
なんとなく、母に就職祝いで貰った傘を手に取る。
ブランド品と聞いており、俺の鞄の底に沈む100円ショップの折り畳み傘とは違い、頑丈らしい。
別に、脳裏を暴れる犬の姿が過ぎったとかではない。
嫌な予感ってやつだ、うん。
玄関の戸を開き、二階建てのアパートを階段で下りて、駅へと向かった。




