序章 聖徒類 人族 新人種 「賢人」
赤子は凄絶な嘆きの果てで、何もかもを受け容れた。
視界の端に暗き森、央ばを埋めるは舌下と牙。
そこへ滴る“獣”の本能が彼の命運を物語る。
ーーこれは罰だ。一度の死では贖い切れなかった宿業を洗う輪廻の道程。言わば“地獄落ち”……なのだろう。
怒りや悲しみ、諦め、僅かばかりの期待。複雑な感情が入り乱れた鳴き声はよもや赤子のものとは思えない。
ただ、いくら喚きもがこうと人里離れた深緑の森では何もかも絶望的であった。
遂に魔獣の大口が柔らかな喉元を捉える。
チクりと刺す痛みが、彼に最後の覚悟を促した。
万事休すと瞼を閉じかけたその時ーー
涙で満ちたおぼろげな視界に一つの光明が差し込んだ。
「永刻遅延……!」
それは、曰く光の早矢のよう、曰く清澄たる鈴音のよう、曰く嫋やかな涼風のよう、一点の曇りなく“黒狼”の首を刎ね飛ばした。
ーー女神……? いや、この姿は……
あまりの美しさを前にして、彼は感動よりもまず“彼女”を的確に形容する言葉を探す。
磨き上げられた白金のような髪色。垣間見える双眸は、極上の黄水晶にも負けないほどの輝きを放つ。
常に微光を纏う純白の柔肌をし、神秘的なまでに整った容姿は至極“人間離れ”していた。
ただ、彼が驚いたのはその美しさばかりではない。
ーー彼は、彼女の姿に見覚えがあったのだーー
それは彼がスマホゲームの、いわゆる《経験値稼ぎ》に情熱を注いでいた“生前”まで遡る。