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書き溜めが!俺のハードディスクが!!


一年が過ぎた。ちょうど季節が一巡し、あの忌々しい春の悪夢が、父と兄らの死からもうそれだけの時間がったのだというのが少し信じられない。


だが…それ以上に今の状況が信じられない。


「ぱっぱ?」

「…どうなんだお前、母親であるお前よりも先に俺が父親認定されるのは。」

「圧倒的!敗北感!」

「パパー!ママをいじめちゃダメー!」


春とは生命の季節だ。

…それを俺とこのクソトカゲにも適用しなくてもいいんだぜ?俺は竜と同等の存在かそれ以上の存在としてこの世に確かに存在する神と言う名の現象にシニカルな表情を作って言ってやる。


勿論、修行をほっぽり出して仇である…えーっと?なんだっけ?クソトカゲ?とイチャイチャちょめちょめしていたり、そんなこんなで家族ができましたとかそんなことはしていない、要は彼女の卵が孵り、あの少女の心もちょっと目が死んでるしかなりネガティヴだが戻ってきた、というだけの話だ。

まぁ、それで何故飯を作ったり常に一緒にいる(修行のせいでそう見える)俺が彼女らにとって『父親』である。という風に刷り込まれるのかは謎だ。やはり痴女ドラゴンの血は争えないということか…


「ディスティクムだ。というか忘れようとしても忘れられないだろう?血と契りを使った二重契約は貴様の魂をも蝕む…ある種の毒だからな。ついでに痴女とはなんだ痴女とは、寝ている貴様から操を奪ったり…奪った…り…」


血のような、炎のような紅の髪と同じくらい真っ赤になった彼女は問答無用で俺の脛にチクチクと蹴りを入れてくる。


「ちょっ、お前!それが上位者であるドラゴンのやり方かよ!?」


某格ゲーのしゃがみ小キックの様な隙の少ない連続攻撃が、俺の脛を襲う!


「五月蝿い!そもそも男子たる貴様がそのようなことで女のようにこちらを責めるからであろう!?」

「馬鹿め!俺は真の男女平等主義者だからな!セクシュアルハラスメントが女だけの武器だと思ったら大間違いだぜ!」


突如始まった突発的なじゃれあい、彼ら彼女らにとってそれが戯れだったとしても力を持つ竜と急速に成長して来た人間のそれは明確な破壊を巻き起こすレベルの物である。


「きゃっきゃ!」

「すご〜い!」


だがそれは周りが普通ならの話である。

今この周りにいるのは吹けば飛ぶような子供ではない、国一つを吹き飛ばした怪物の血を引く混血とその怪物の子供である。普通の人間が武器を持って掛かったとしても文字通りおもちゃの様にあしらわれる。そんな異常な世界だ。普通なわけがない。


だが、彼らにとって不幸なのは、いや残念だったのは互いの攻撃を相殺しつつ口撃を加えていくと言うその様は仇と復讐者と言うよりも砂糖を吐きそうなほど甘い恋人同士の戯れ事の様だったことである。




ここ最近、復讐心と言うそれは何処かその黒い激情を潜めていた。猪突猛進、妄念妄執が復讐者だとするなら今の俺は滑稽だろう。だが、仇が仇たる所以がその理由が揺らいでいるのだ。もしかしたら彼女は殺していないかもしれない、もしかしたらあの国を滅ぼしたのは別の竜なのかもしれない、もしかしたら、もしかしたら、そんな疑念を拭えないままに彼女との時間は、修行は続く。


ほぼ不死身の体を忌々しいことに竜から、彼女から与えられた俺は単純な耐久力、いや、死ににくさなら人類最強かもしれないと言うレベルまでになったが、そもそも竜の全攻撃力を最初から受けていればそんなもの関係なく塵になる。

塵からでも蘇る事が出来れば良いのかもしれないが竜言語を使った魔法を用いたとしても通常そんなことは出来ない、そうなれば攻撃を避けるのが賢いのだが…


「そんな事をさせてくれる様な優しい相手が貴様の前にいるとは限らない。」

「そりゃあそうだな、技術というものはその武器の破壊力を上げることよりもそれを当てる事に重点が置かれている。」


当たらなければ意味がない、ならば当てられる様に努力をする。当然の帰結だ。打撃だって剣術だって槍術ですら大概はそうである。

そして当てるには最小限の動きを最速で行わなければならず、そのために姿勢や振り方を訓練し身につけ、繰り返していくうちにいつの日か理想のそれに近づくのだと父も言っていたし、前世の達人とかもそう言っていた。


ならばこちらも当てられない様にする技術、つまりこちらに当てられない、若しくはこちらが避けられる様な攻撃をしてくる未熟者のそれでは無く。達人のソレですら気をそらし、気を散らし、隙を大きくさせこちらが避けられる様な時間を生み出す。そんな技術を会得する必要がある。

残念ながら盾による防御術を基本に甲冑などで防御を固めるのが騎士の基本だ。基本的に避ける事よりも受ける事が重視されており、ソレは一重に自らの後ろに護るべき物があるからである。


「別にその動きを忘れろとは言わんし、ソレが重要になる戦いもあるだろうが…事私を相手にすらなば真正面から受け止めるなど…『愚の骨頂だ!!』」

「っく!」


竜としての本性、その巨体、質量は単純に凶器たりうる破壊力を生む。

家の外の平地は人型の彼女には広かったが竜形態の彼女にはいささか狭かった。ソレは俺も同じである。相手が巨大ならばそのリーチも、リーチが長ければ攻撃範囲も大きくなる。この広場は竜と戦うには些か狭すぎた。


一撃目の水平方向の薙ぎ払いは身を低くしなんとか避けるがその状態から瞬時に体を捻っての縦回転、火炎の息吹もオマケとばかりに放ってくる。

避けるのは出来なくはないがソレを無傷で行うのが今日からの修行だった。




竜言語による魔法行使は通常のの魔法言語を介した魔法陣の発動と違い、術式と言う余計なものの展開がない分速さがあり、術式による補助と補正がない分魔力によって直接事象を歪めることができると言う点が優れているのだが…


「『ほ』『の』『お』よ!っ!」


爆発、


『どうした!私の炎ではなく自分で焼け死ぬか?』

「ばっか!ただの目くらましだ!」


虚勢を張ったものの矢張りまだ安定した使用には程遠い、術式は魔法言語による魔法発動の補整を行う一種の技術だ。だが、竜の魔法のはソレがない、そもそも生来の膨大な魔力を完全に制御している点から魔力操作や制御は非常に高い水準にあり、竜と言う上位種の性能は人間など及ばないレベルの知能、有り体に言えば生身の生物でありながらその脳や神経系はその巨体を完全に制御するために複数の思考を並行して展開することが可能だ。術式の補整などなくとも人間を超える魔法を放つことができるのだ。


そんなハイスペックな肉体を持つ種族が使う安全装置なしの魔法…使いこなせれば強いと言うのは確実だが、逆に言えば使いこなすのが非常に難しいと言う事だ。

ついでに概念であり知識の結晶ではあるのだが魔法言語による発動が体に染み付いているし発動キーとして単純かつ容易な手段なのでそれを採用しているのだが…ソレもまた竜言語による魔法発動の難易度を上げている。

そもそも概念であるソレらに音をつけることは叶わないのだが、そこは概念のみの魔法言語、脳内でその語をその知識を引き出した状態でいつも通りの魔法言語を放つ事で概念と言霊がリンクして魔法が出る様に自分に刷り込んだ。刷り込んだものはいいのだが…ぶっちゃけまだ慣れていないと言う以上の物はない、普通の魔法ですら二年かけて覚えたのだ。実践レベルの戦闘で使いながらでもそれ以上に基礎が足りない…少し早起き遅寝だな…


『それ!』


サマーソルトからのブレスを自爆めいた爆発で相殺…勿論、そして残念ながら彼女はまだ本気ではない。彼女の本気を見る機会があったが…それはそれはやばかった。娘二人に遊び場と言う名の広場を作るために俺の爆破魔法じゃ一、二本しか吹き飛ばせない様な異常な耐久力の木々が生い茂る森を灰燼に還す…と言うレベルを超え火炎のみでクレーターが出来た。

…その中を埋めて広場に戻したのは俺なのだが…まあ、それにその余りの威力を見て矢張り彼女の仕業ではないのではないかと言う疑念は無くならなかった。

あの王国は焼き尽くされていたし破壊の限りを尽くされてはいたが逆に言えば瓦礫の山がある程度には燃え残りがあったのだ。

燃えかすどころかただの火炎で地面がえぐれる様なブレスを使えるのだ。怒り狂っていたのならアレを乱発するだろう。


そんな事を考えながらでは彼女のブレスに隠されたもう一撃が、竜のアギトによるバイティングが放たれ…まろやかに言うならムシャられた。


『ふぅむ…集中が足りんぞ!』

「ああ、そうだな…」




その日はとりあえずドラゴン形態の速さや大きさに慣れるだけ慣れて終わり、俺は料理をしながら魔力操作やいつも通り家事へ魔法を使いつつ訓練を続けていく。


「はぁ…」

「どうしたのパパ?」


魔法を調整しながら猪を丸焼きにしていると腰あたりに衝撃、少しおどおどした幼女のソプラノが聞こえる。よじ登ってきた少女を見ると紅の髪の隙間からディスティクムと同じ金色の角が生えている。だがそれは彼女のものよりも小さく短い上に二本あるはずのそれは片方しか無い、その瞳には光が無く。魔力感知と優れた五感によって俺たちを見分け、感じている。

その振る舞いは眼が見えないとは思えないほどに普通で、しかしそれ以上に彼女体のあちこちにある傷が治ったような跡や他者というものを感じると震える指先など見ているだけで日常的に竜教団へのヘイトがマッハな感じになる少女、ディスティクムの卵の一部と『勇者』と呼ばれた異世界人らしき英雄の体組織で錬成された彼女は竜の力を十全に扱える人間…ではなく、人間型の竜である。


「いいや、相変わらず勝てなそうになくてね。」

「ふーん?」


料理している俺の背中にがっしりと捕まって人型と言えども竜の子供だからかそれとも単に口寂しいだけか俺の肩や耳を甘噛みしている。

ディスティクムに聞いたところ雑食ではあるが基本的に肉食である竜は牙の手入れを欠かさず歯磨きの代わりにそこらへんの木を噛んで見たり、信頼する親や兄弟など同士で自分たちの硬い鱗を毛繕い的な感じで甘噛みし合うらしい、まあ、親愛の証というやつらしい。


(まぁ、親愛というよりは愛情表現であり、子供が甘えている様なものではなく恋人同士がする様なものだと言うのは…だまっておくか。)


ディスティクムが何故かニヤニヤしながらこちらを見ているが気にしないでおく。

…それにしても拷問めいた実験などで最初のうちは目を冷ますかどうかも怪しかった彼女だが目覚めてからも大変だった。

先ず、見た目通りの幼女なために意思の疎通が難しかったが、今彼女が普通に喋っているのも一時期俺とディスティクムが全力で覚えさせたのもあるがそれ以上に彼女の学習能力が高かった。

というか眼が覚めた時はひどかった。爆発の様な勢いで魔力を放ち、俺もディスティクムでさえ近づけないレベルもそれはログハウスごと周りにあった森を吹き飛ばした。元から家の前は更地だったのだが家の周り半径十メートルほど吹き飛び、家や周りにあった井戸や干し肉製作用の小屋などを一週間程かけて強化しつつ建て直す事になったが、それ以上にその原因であった彼女を宥めるのにすごい苦労した。


まぁ、今となってはちょっとかわいい、あのクソトカゲの娘であるという一点のみが少々気に入らない幼女である。ぶっちゃけ荒んだ修行漬けの日々だったり、なんだったりで荒廃の限りを尽くしている俺の心のオアシスである。


…ところで、やっぱり俺が父親なのは間違っていると思うんだが?

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