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修行の日々


竜と言う種がなぜ強いのか、それはその身を覆う鱗だったり巨大さであったり、宮廷魔導師を持って何百人分と言うのが潤沢な魔力であったり、巨体を動かす多種族を圧倒する筋力であったりと様々だが、その中で最も際立つもの、それは…その言霊である。




「貴様には竜言語を操り魔法を使ってもらう。」

「は?」


何を言っているのだろうこのクソトカゲ、俺が手を下す前からドラゴンゾンビだったか?

『竜言語』それは遥か古より存在し続ける神に最も近しい竜と言う怪物が持つ独自の言葉にして最も強力に世界を歪めることのできる魔法言語の一つだ。

過去、幾人もの天才がその夢の魔法言語をその身に宿そうと様々な努力をしてきたが…それが完成する事はなく。俺のように竜と約定を交しその身に竜血を浴びたと言う邪竜殺しの英雄ですら竜の様にその言霊を操る事はおろか魔法を使うことすらできなくなったと言う。


「ふむ、貴様が今思った不敬な事はさておき、だ。たしかに貴様や人族の発声器官では竜言語を操る事はできない、そもそも規格が違う故にな。」

「 …じゃあどうするんだっ!よっ!」


16歳になれば成人の儀を行いに人里へ行かなければならない、だが目の前の赤竜は成人の儀までに俺を鍛え上げ成人の儀を終えてすぐから竜教団を殲滅させる気らしく説明しながらもその体は俺のことを叩きのめそうと迫ってくる。

鎧などないし、そもそも奴に飲まされた竜の血のせいか軽く不死身どころか頭が吹き飛ばない限り、頭が吹き飛んでも体がある限り蘇ると言う意味不明な体にされたので修行と言う名のガチ戦闘が終わればだいたい俺は全裸である。

武器は意外にも器用なこの竜がその息吹で鍛え直した鉄塊…もとい父からもらった重りの様な剣である。まあ、治してもらったはいいが1日一回壊れるのでこれも毎回直してもらっている。


最初の一週間くらいは殺意とか復讐心とか色々保てたのだが複雑な事情により表面上それを出す事は互いになくなり、1ヶ月程度経つ頃にはとりあえずいつかは殺し合うのでそれまではギスギスし無い様にすると言うのが契約に加わった。

そのせいもあってかこのドラゴンと俺とは表面上師弟に見える程度には穏やかである。


「そもそも竜言語とは概念であり、明確な区分けで言えば言語ですら無い、長い年月を生きた竜の経験や知識の集積によって世界を捻じ曲げる現象…の様なものだ。」

「なっ!んだと!?じゃあ、人間が身につけるのは…」

「ああ、現実的に考えて不可能…いや赤子の頃から一つの概念を死ぬまで考え続ければ…おそらく?」


ひどい話である。そもそも言語ですら無いとか酷すぎである。というか世界がねじ曲がるほどの長い年月蓄えられた知識とか意味がわからない。力ある言葉というのが魔法言語だしそもそも力ある言葉ってなんだよって感じがなくも無いが輪にかけて意味がわからない。


あまりの理不尽さに動きが鈍り胴体に蹴りが入る。

その衝撃で俺は森の中の広場、竜と言う巨大生物が離着陸するのに十分な広さを持つ平地の端から端まで枯れ葉の様に吹き飛ばされた。


「まあ、今回は竜と竜の間でやる方法で貴様に竜言語を授けよう。少し休憩したら始める。それまで休んでいろ。」

「ああ…そうですか…」


またもや服が吹き飛んだので吹き飛んだついでに体を洗ってしまおうと思った俺は以前よりも増えた魔力を練り上げ前から使っていた力ある言葉を放つ。


「『水精よ』」


基本的に俺が使う魔法言語は精霊という自然の中にある力ある者に呼びかけるタイプのものでかなり一般的なものだ。あの時使った『雷鳴よ』は詠唱の中からその区切り、一節のみを口に出して発動する単節詠唱、本来は『風精よ』『集いて』『雷を』『呼べ』の四節詠唱、にさらに形状や指向性を示す言葉を入れるのだが俺の場合面倒くさいのと戦闘中に使うので隙を少なくする為に『雷鳴よ』なら雷の矢が、『雷鳴を』の時は落雷など威力を削いで利便性を上げている。

ちなみに竜殺しの英雄譚を知っていた俺は一番最初に魔法が使えるか試しのだが、問題なく発動した。

昔話は現実とは違うんだなぁとしみじみ思ったが、よく考えなくともおとぎ話に出てくる様なファンタジーがそこらに溢れる異世界である。何故こんな間違いが出たのだろうか?

俺は収納から布を出し水を拭き取り、今日もバッチリ砕けた剣の破片をそこら中から回収した。



朝八時から十二時まで続いた格闘訓練の後彼女は結晶化されていた幼女の世話をし俺は料理をつくる。彼女が幼女を寝かしつけた後時間は午後二時、待ち時間は基本的に走り込みや剣の素振り家事洗濯で時間が潰れる。


…今更だが、俺はなんで復讐相手のパンツを洗ってるんだろうか?


俺が洗濯物を干し終わるとほぼ同時に家に響いていた泣き声は治った。二日に一回ほどの割合で俺も寝かしつけに入らないと寝ないこともあり今日は運が良かった。


…いや、なんで俺は復讐相手の子供を世話して以下略。


「では、これより貴様に竜言語を授けよう。」


育児中だというのに無駄に元気な彼女が無駄に尊大にふんぞりがえって午後の修行の始まりを告げる。

ここの所一日中殴り合ったり(主に殴られるのは俺な模様)魔法を打ち合ったり(なおこれもまたボロボロになるのは俺な模様)体幹トレーニングや剣技の反復なんかで1ヶ月が過ぎ、彼女に攻撃を当てれたのなんて数える程度である。

そろそろ変化が欲しいと思っていたところで竜言語だ。なかなかによく師匠している。


「おぉー?」


だが竜言語といえば魔法使いなら誰もが夢見る最上位の魔法言語、おとぎ話やなんかの領域だ。ぶっちゃけ実感がない。


「ムゥ、なんだかポヤポヤとしているな、うっかりすると廃人確定だぞ?」

「…はぁ!?」


あっさりというが毎回そのあっさりが死に直結しすぎである。


「なぁに、私を殺すというのならこの程度こなしてもらわないとな?」

「クソトカゲェェ…」


彼女は俺との契約によって命に関わる直接攻撃はできないが間接的に俺が死んだりしても感知出来ない、そもそも彼女がドラゴンであり竜である以上人間である俺との契約は彼女にとって些末なことなのだ。本気を出せばきっとこんなか細い契約など魔力による抵抗でどうにかなってしまうだろう。


「んむ?何を言っている。貴様との契約は最も古い契りに近い物だ。互いの純潔を捧げた最高強度にして最高位の契約だぞ?貴様が死ねば私も死ぬ。」

「はぁ!?」


悲報、いつのまにか童貞を奪われていたでござる。


「ふふ…寝ている貴様はなかなかに良かったぞ?」

「やめて!恥ずかしくて死ぬから!」


そのニヨニヨとした笑みをやめろこのインチキ爬虫類め!

いや、というかなんでそんなリスクを…


「その方が互いに心置きなく利用しあえるだろう?裏表もなく。悪意も何も介在できない、契約とは元来規則だ。貴様と私の間に、仇と復讐者の間に良識ある規則を作るには互いに命を賭けるしかあるまい?」


自信満々に言う彼女に対し竜言語のことも忘れてただ質問する。


「…俺が契約を利用してお前を殺すとは思わなかったのか?」

「貴様がその程度の男だったのであれば私の目も節穴だったと言うだけだ。娘も我が子も預けられる相手くらい居る。せいぜい邪悪な竜らしく死んでやるさ。」


彼女はそう即答した。

確かに俺は竜教団もこいつも殺さなければ復讐とはいえないと自己満足で復讐する俺だからこそきちんと定めていたのだが、もし俺がこいつだけでも道連れにする様な奴だったらこいつは本当に契約を結んだんだろうか?

いや、そもそもこんな自分の寝床まで運んで来ないか…


「竜の瞳は真実を見る。貴様が何を考えていようと、何をしようと見通せるし、たかが人程度見据えられ無いような生き方はしていない、貴様は私を殺そうとするだろうが私は貴様を信頼して居る。その律儀さや、復讐という狂気の中にあって未だに倫理と論理の中に生きる貴様をな。」

「…ああ、そうだな。安心したぜ。これから二年は一緒だものな、信頼し合わないと辛いだけだ。」


…復讐を自己満足だと、独りよがりだと認識する理性的認識を持つ一方、復讐という行為そのものが持つ狂気や怒りなどの激情などを抱えるこの矛盾を彼女はどう見て居るんだろうか、そして俺は今どうなって居るんだろうか、あまりに冷静な部分と燃える様に感情的な部分の差がありすぎてどちらが自分なのか、いつも分からなくなる。

果たして、俺は復讐者なのか、それともただの狂人なのか…一つ確かなことはあのまま妹とともに居てもこの感情と向き合い、そして様々なものを巻き込んで破滅して居たのだろうということくらいだ。




「さて、契約体系の説明などして居ても進まんので竜言語の習得法を教えよう。」


さて、気合を入れなおさねばな、廃人が契約のうちに入って居るのか分からない以上ハイリスクハイリターンなのは俺だけかもしれないと言う前提で進めよう。


「竜言語は知識だ。それならばその知識を与えればいい。単純な話だな。」

「ほう?」


だが先人達もその言語に対する知識や理解を紙やペン、本や口頭で深めていって居たはずだ。何を持って知識なのか、というのもあるが竜達が数百年や数千年そんなことをして居るとも思えない、一体どうゆうカラクリなんだろうか?


「では、まあ最初は簡単なものがいいだろう…『炎』なんかでいいな。」

「おう、それで…」


俺の言葉が続くことはなかった。

なぜならその口は塞がれて居たからだ。


(契約といい血を飲ませる時といいドラゴンっていうのは貞操観念とかそういうのが薄いのか?それともこいつが痴女なだけか!?)


口が塞がれて居るというもは単純に手やなんかで塞がれて居るわけでは無い、マウストゥマウス、接吻であり口付けでありキスである。

というか彼女の爬虫類的な長い舌が俺の構内を蹂躙するというこの行為に何の意味が…


次の瞬間俺の頭には竜の蓄えてきた。この目の前の竜が見てきた炎が、それが示す根元が世界の真理が叩き込まれ…


「ッハ!」

「お、数秒で済んだか、やはり頑丈よなぁ。」


気がつけば彼女ら竜が息吹を吐くときに叫ぶと呼ばれる竜言語における『炎』という音の意味が独特の音節やその概念、知識を伴って完璧に理解できて居た。


「一体これは…」

「うむ。通常竜同士ならば魔力の波動に乗せて送ることがきる念話の上位版の様なものなのだが…人間のそれに合わせるには接吻が手頃でな、一番簡単なのはアレなんだが…やるか?」


うん、原理は一回やられたので何と無くわかったのでアレは勘弁してください、成人もしてないうちに童貞を失ってる時点で色々やばいし、そもそもアレの時に色々送り込まれてもよく分からんだろう。


「うむ、そこが問題でな、どうしても思念が下の方に…」

「うん、黙れ。」


その日はその他の『氷』や『風』など属性をいくつか覚えて終わったが1日あたり十語程度が限界らしく最終的に頭痛が発生した所で終わった。


「明日からはこれもしながら竜言語の操り方も教えてやるぞ!」


そう言い放った彼女の目の前で薪に火をつける時に使ったら怒られた。

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