仇
文章構成がががが…て言うか書き溜めないし、またプロットないし、
竜だ。
いや、正確には竜ではない、竜の特徴を持った人間が結晶の中に入っていた。
「こ…れは…」
踏みしめた地面に転がっていた紙にはあの日以来見かけていなかった神官の名と教会と敵対し竜を信奉する竜教団の名があった。
そこには実験と銘打たれた記録が書かれていた。
『やった、やったぞ!竜の血液と人の血をその身に宿す新たな生命の誕生だ!』
『実験は順調だ。高潔な竜の血が入っているとはいえ、下賤の血が多すぎる。今日も人の身体を切り刻んだが竜の血によって瞬時に回復した。今回の目的は竜と人を混ぜそこから人を抜く事で竜を生み出そうというものだが、失敗かもしれない…クソっ!役立たずが!」
『竜の怒りに触れた。この教会の隠蔽と急いで発動した仮死結晶の効果でこちらの位置は悟られなかった。だが、外は焼け野原だ。今の混乱に乗じて逃げてしまおう。役立たずも此処の研究所も重要な成果はすでに持ち出した後だ…クハハハ!愚物どもには教会の真下で我々が蠢いているなど…想像もできなかっただろうな!』
俺は散らばった紙をまとめ、空間収納に入れた。教会に渡せば何か手がかりを得られるだろうか?…わからない、だがこのゲス極まる男の記録のおかげで幾分か冷静になれた。俺は同じく結晶化された竜の卵を見る。
「子を盗まれ、怒りのままにこの国にきたのか…」
父や兄達はこんな奴の実験の余波で死んだのか…そう思うと怒りと共に何かが千切れるような音がした。
「…ブチ殺す。」
竜も、竜教団も、俺の日常を、幸せを壊したものすべてに死を…そう願わずにはいられなかった。気がつけば魔力が放出され地下室であるこの部屋が軋んでいた。生き埋めになりたくはないのでこの世界では貴重な本や白紙の紙をまとめ空間収納に入れる。
最後に竜の卵と竜の特徴を持った女の子を見る。
竜が来た直接的な原因はこの子達を傷つけ、弄んだ竜教団の末端だが、竜を呼び寄せたというのは紛れもなく彼女らの力、冷静とは言い難い俺は練習用の鉄の塊のような剣を抜き結晶に叩きつける。ただ怒りのままに、激情のままに振りかぶり、振り抜いた。
ヒビ一つ入らない、だが微かにその表面に傷がついた。
「ああああああああああああぁぁああああ!!!」
連続した打撃音、獣のような咆哮、鉄塊を叩きつけ結晶に負荷をかけていく。
叩く叩く叩く叩く。砕く砕く砕く砕く。
「クソがあああああああぁぁぁぁ!!」
なぜこの国なのか、なぜ俺の父親が、どうして俺の兄達が、なんでどうして死んでしまったのか、きっと竜が来なければ父は母と二人で幸せに老いて行き、幸せに死んだだろう。
長兄も次兄も、まだ中級騎士だったがいずれ上級騎士になり、父のように武名を馳せてこの国を守る立派な騎士になっていただろう。
隣のパン屋も、八百屋も、宿屋の娘も、誰もが幸せに多少の不幸があれどこんな理不尽な終わりはなかったはずだ。相応しくないはずだ。
バキィィン
「はぁっはぁっ…はぁぁあ…なんで、なんでなんだよ!」
折れた刀身が地面に転がる。鋭利な断面を見せる鏡面の様な刀身にはどうしようもなく悲壮な俺の顔が映る。
剣を持つ力が強すぎるあまり血が出ていた。結晶には未だ大きなヒビが入るだけで砕けてはいない。
「どうしてっ!どうして彼らが不幸に、何もわからないまま灰にされなきゃならなかったんだ!」
剣と魔法が使えたってあの時俺があの化け物に立ち向かってみ一瞬も持たないうちに吹き飛んで終わりだっただろう。
『成人の儀式』を終えていない子供は成人には絶対に勝てないのだ。
儀式の時始めて子供はこの世界の住人となり、この世界を生き抜くに足る力を得る。それがこの世界のルールなのだ。
それ故に俺が母と一緒に地に這って息を潜めていたのは正解なのだ。
そう、正解なのだ…
「クッソガァ!」
だが正しいことが良い結果を生むとは限らない、その行いによって俺は、母は、父がどんなに勇敢に戦ったか知ることもできないままに、兄達がどんなに懸命に民を守ろうとしたのかしれないままにただただ生き残ってしまったのだ。
生存術は父の思惑通り俺と母を生き残らせたが、俺と母は父達との最後の会話も何もなく葬儀をしようにもその体はすでに灰しか残っていない、生き残ったはいいが踏ん切りがつかない、整理がつかないのだ。
折れた剣は俺の体重をかけた振り下ろしに耐えられず折れた。それでも砕けない結晶に俺は拳を叩きつける。
最早何故この結晶を砕こうとしているのか俺でもわからなかった。俺は結晶を運び上げ無人の教会にまで持って来た。地下にいるとどうかなりそうだったからだ。
折れた刀身と柄は回収した。砕けてもあれは父からの贈り物、いつか折れた時鍛え直して真剣にしてやろうと言われていたのを思い出しまた少し涙が出た。
卵と少女を運んで来た俺は結晶を殴り続けた。
それは八つ当たりですらなく最早意味がなどなかった。俺の拳を受け地面にめり込む結晶、そして崩壊する教会の結界、それでも尚叩き続ける。
叩いて叩いて気がつけば俺はいつのまにか結晶の中に囚われている彼女を救おうとしているのだと気がついた。
彼女への鬱憤が、八つ当たりめいた破壊が俺の頭に理性と哀れみ、優しさを取り戻してくれたのか、それとも父や兄達との思い出のおかげか、最早わからなかったが…それでもよかった。
俺が魔力を練り上げ強化した身体能力と硬化した拳を一撃ぶつけると、彼女を覆う結晶は光を放ち、バラバラに砕け散った。
「…………」
どうやら寝ているらしい、俺は運良くきた妹達の救助を突っぱねた時にもらった毛布や薪を取り出し毛布で全裸の少女を包み、薪に魔法で火をつけた。
結晶に叩きつけた拳からは血が出ていたがそれもすぐ止まった。母の得意とした身体強化は成人の儀で子供に付与される神からの祝福と同等の出力を得る魔法だ。
父も兄達も使っていたので俺が彼らに勝てる道理はなかったがそれでも彼らの修行についていけたのは母のおかげだ。
「あ〜」
どうしようか、
そんな言葉を飲み込んで空を見上げる。
大都会といって差し支えない淀んだ場所に住んでいた前世をうっすらと思い出し星空の美しさに、そして大地の有様とその悲劇にかかわらず不変を貫く空にあまりに小さな自分という存在を感じた。
そして彼女に、いや彼の竜に出会った事で俺の人生は大きく変わり、その時を持って俺が復讐者としての道を歩む事は確実なものとなったのだった。
『我が娘を見つけ出したか。』
「っ!」
声、無人のはずのこの教会に結界の機能を失わせてしまったここに人だと?俺は咄嗟に柄と折れた刀身しか無い剣を構える。正直気休め程度だが魔法で魔力に刀身を生み出せば使えないこともない。
だが魔法使いとしての訓練を受けてきた俺には彼女の放つ圧倒的な魔力が騎士としての訓練で身についた観察眼には強者ゆえの上位者ゆえの余裕が見えていた。
『褒美でも取らせようと思ったが…』
魔力に意識を集中させる。もし相手が俺の想定通りなら、無詠唱どころかノーモーションで俺を炭に変えるくらいできるだろう。予想通りにそして最悪なことに彼女の魔力が刻む波動はこの少女と卵にの放つものと良く似ていた。つまり、目の前にいる赤い長髪と縦長の瞳孔を持つ女性は…
「ドラゴンっ!」
俺は一瞬のうちに身体中を駆け巡った燃え上がる様な激情のままに最早折れ砕けた剣の刀身に無理やり魔力を通し実体化させ、そのまま突っ込む。
『ふむ…貴様は…』
「うおらあああ!!」
幾分かスッキリしたとはいえやはり仇が、いや、まだ仇かどうかは不明だがどう考えても目の前のこの女性以外にこの少女と卵がある此処に来る意味がない。
身体強化を施し力任せに魔力の奔流を噴き出し加速する。
『素晴らしいな、またこの様な人間に出会えるとは…だが…あまりに脆い!』
彼女の称賛も意に介さず一心不乱に武技を振るう。だがそのことごとくが通じない、まあ父や兄らの様にはいかないな…だが俺には彼らにない手札がある。
「『雷鳴よ』!」
青白い稲妻が単節詠唱によって素早く放たれる。
『むん!』
だが青白い稲妻が矢の様な形となり彼女の体に当たる前にその膨大な魔力放出によって掻き消される。だがその衝撃波はいくら魔力が膨大でも物理的な衝撃とは比べ物にならないほどに弱い、気合いによって放たれた魔力の衝撃を自分も魔力を少し放出することで相殺し隙とも言えない微かなそれに魔力の剣を打ち込む。
『甘い!』
だが竜であろう彼女の波動は俺の圧縮された魔力の刀身すらもかき消した。返す刀というのも変だが掌底が叩き込まれ全身の強化が引き剥がされ魔力を全て吹き飛ばされる。
「ぐっがは!?」
俺は聖書を置く机の様なものにまで吹き飛ばされ叩きつけられる。だが俺の運んできた卵を包んだ結晶や少女には傷ひとつない、完璧に指向性を持たされた衝撃波、しかも殺意など無く内部に押し込められていれば俺など後かとも残らない様な凄まじい力は俺を突き抜け背後の焚き火を吹き消し聖書台のさらに後ろの壁をぶち抜いた。
「ぐふ…」
口の端から血が垂れる。魔力放出という無茶苦茶な魔力運用法をしたからか全身が熱を持ちまるで鉛のように重い。
だが目だけは彼女を追う。
『…凄まじいな、意識を吹き飛ばしつもりで殴ったのだが…』
彼女は悠然と歩くと少女を一瞥する。
『人と竜の混ぜ物か…人間の考える事はよくわからんな…』
そう言いながらもまるで我が子の様に少女を抱える。
『だが…ああ、そうなのだろうな、やはり愚かだ。子を傷つけて親が来ないなどありえんのになぁ?』
彼女は怒気を滲ませる。それは子を人間の盗まれたことや人と混じったことで産まれた娘を傷つけられた事や他にも色々あるのだろうが…その怒りは俺にも当てはまる。
国を、幸せな時を破壊され、父を兄を様々なものを彼女に壊された。
『貴様の父なのだな?私がこの国を滅ぼす時最も精強だった戦士は。』
その一言はトリガーでしかなかったが動かない体に理性を取り戻しかけていた俺の精神は大きく揺らぎ…再び激昂した。
「っ!ああああ!!」
『…私がすまないといってもどうしようもないのだろうな…』
ドラゴンにとって人間など地を這う虫に等しい、塵芥の様な物なのだろう。だが、そうだとしても、
「貴様を!許してたまるものか!」
命の重さに順位はあるのかもしれない、上位者にとって下位の者の命などそれこそ塵芥の様な者だったとしても。
「お前が不幸になったからといって!俺の!父の!この国の!幸せを奪っていいわけないだろぉぉ!!」
きっと賢い選択ではないし、これは勇気以前に冷静でないだけなのだろう。蛮勇どころか野蛮なだけだ。
ミシミシと軋む体を無理やり立たせて彼女へ向かう。
『…そうだな、きっと貴様は私が子を失った時の、私なのだろう。その怒りは正当で、確かなものだ。』
『だが私は貴様に殺されるほど弱くは無い、そして殺されていいと思えるほど貴様を知らない。』
彼女は卵と少女を抱えその身を竜に変じる。
『許される気はないが貴様の復讐を叶えるには貴様の力はあまりに未熟、しかし私自ら子を盗んだ者達を罰するにはこの子らは幼すぎる。』
そして俺を爪の先に引っ掛けて空に飛び立つ。
『貴様には私を殺せる程度に強くしてやろう。それで許せとは言わないが勇敢であった貴様の父への手向けの様な物だ。』
「な…にを!?」
急加速した彼女はそれ以上喋る事なく俺もボロボロの身体にかかった猛烈な負荷によってその意識を吹き飛ばした。
今日も一日がんばるぞい!