名うての賞金稼ぎーーその名は【無音の死神《サウンドレス・リーパー》】
本日三話目になります。
俺は、冒険者ギルドに入ると、真っ先に買取りカウンターへと向かった。
ラッキーだ。今は人が並んでいない。
これなら、そう時間も掛からず査定が済むだろう。
カウンターには、男が一人、下を向いて何やら作業をしていた。
俺は、受付台を軽くトントンと叩いて、男の意識を此方に向かせる。
男がそれに気付き顔を上げ、俺を認識してすぐに二パッと笑った。
「お?リオン。久しぶりじゃねぇーか。生きてたんか?」
開口一番に、そんな失礼な事を言ってくる受付の男。
客に対してその聞き方はどうなのかと思うが、知らない仲ではないので、俺は特に気にする事無く頷いて意思表示をする。
「がはは!それは良かった!んで、いつもの査定だな?」
俺はもう一度頷く。
「よし!任せろ!」
そう言って男が立ち上がると、近くにあった荷車を押して、カウンターから出てきた。
俺はその荷車に、収納鞄みたいな物から、小分けにした袋を取り出すと、それを次々と乗せていった。
「相変わらず助かるぜ。横着い奴なんて、分ける所か解体もせずに持ってくるからな」
男が、そんな軽口を叩いてくる。
そこで、俺は初めて口を開いた。
「……俺のは、量も……種類も多いから」
「がはは!ちげぇーねー!」
そうして、俺が荷車に袋を積んでると、何やら囁き声が聞こえてきた。
「……何すか?アイツ。あの真っ黒くろすけ。フードと襟巻きで顔なんて殆ど見えねぇし…………怪しさ満点じゃないっすか」
確かに、初対面の相手から見れば、俺は不審者以外の何物でもないかもしれない。
黒く長いローブに、フードは目深まで被り、これまた黒い襟巻きで口元を覆っている。
自分で言うのもなんだが、これで怪しくないと言った方が嘘になる。
新人冒険者らしき男に、ギルドで何度か顔を合わせた事のある男が答えた。
「ん?ああ、リオンの事か?」
「リオン……って言うんすか?」
「そうだ。アイツは、泣く子も黙る凄腕の賞金稼ぎさ。二つ名を【無音の死神】」
「…………何すか?その二つ名は」
「……音も無く賞金首に忍び寄り、音も無く首が狩られる。目を付けられた賞金首は決して逃げられず、賞金首さえも震え上がる。んで、付いた名が【無音の死神】ってわけさ」
【無音の死神】ーー誰が言い出したのかは知らないが、そんなヘンテコな名前が、いつの間にか付いていた。
俺としては、もっとカッコイイ名前が良かったんだが……。
「そ、そんなに凄いんすか?」
「みたいだな。俺も実際に戦う所を見たわけじゃないが、ギルマスもかなりご執心みたいでな。何度も口説いてるらしいんだが、どうもいい返事を貰えないらしい。…………ほら、噂をすれば、だ」
ベテラン冒険者の男の視線を追って、俺も背後を振り返る。
そこに立っていたのは、青い長髪を三つ編みに一つに纏め、横に流した、【神聖ヴァスティア帝国帝都 冒険者ギルド本部】の男性ギルドマスター、その人であった。
「うふふ。漸く顔を出してくれたわね。リオンちゃん♪で?考え直してくれたかしら?ギルドに加入してくれない?って話」
ギルマスのいつもの勧誘に、俺は即座に軽く頭を振って否と答える。
「もう!相変わらずつれないんだから~。ギルドに入れば、色々なサービスもあって、お得でしょうに」
ギルマスの言ってる事は尤もだ。
先ず、その街で発行したギルドカードがあれば、その街での入市税はタダになる。
つまりは、街への出入りが自由になるのだ。
それから、今回の俺の様に、ただ魔物の肉や皮を買い取ってもらう場合でも、ギルドカードを提示すれば、多少なりとも色が付く。
安く買い叩かれる事はないが、それでも普通に売却するよりも、僅かにでも割り増しされた方が、当然お得だろう。
その他にも色々なお得なサービスはあるが、まあそれが分かってても、俺は首を縦に振らない。振るわけにはいかない。
それに、『賞金稼ぎ』と言ってはみても、その殆どは冒険者である。
俺の様に、賞金稼ぎ一筋と言う方が珍しいのだ。
冒険者の傍ら、賞金首を狩るのか、賞金稼ぎの傍ら、冒険者の依頼を受けるのか、ただそれだけの違いである。
その為、先ず初めに、賞金首の似顔絵などが貼り出されるのは、冒険者ギルドだ。
街中にも、一応貼り出されるが、それは単に住民に注意を喚起する意味合いが大きい。
そもそも、盗賊だって馬鹿じゃない(中には馬鹿も居るが)。
盗賊は、基本神出鬼没だ。
いつ何処に現れるかも分からないし、アジトだって早々見つかるものじゃない。
見つけたとしても、既にもぬけの殻と言うのもザラである。
故に、賞金稼ぎは時間と労力の無駄だと言う者も居る。
盗賊に賞金を掛けるのは、専ら国だ。
街や村から報告を受け、盗賊の規模・被害総額・国にとってどれだけ不利益になるか等々……それらを調査してから、漸く賞金額を捻出する。
なので、普通の冒険者が受ける依頼よりは、多少額は大きいが、大抵は長期戦になるので、賞金稼ぎは儲からないし、おまけ扱いにされがちである。
収入が安定しないのだから、敬遠されても仕方ないだろう。
だからこそ、俺もこうして態々魔物の肉などを売りに来てるわけだが……。
閑話休題
「む~……今日もフラれちゃったわね。ま、気が変わったらいつでも言ってちょうだい♪」
俺から、いつも通りいい返事が貰えないと分かると、ギルマスが腰をくねらせながらウィンクして、最後にそれだけを言うと、さっさと二階へと戻っていった。
顔を見合わす度、毎回同じ事の繰り返しなので、最近では、ギルマスもくどく言わずに引き下がってくれるようになった。
最初の頃は、それはもうしつこかったからな。
俺も、頃合いを見て、いつかは冒険者になっても良いと思ってるが、今はまだその時ではない。
その後は何事も無く、無事に査定を終わらせた俺は、ついでに買い物を済ませると、そのまま帝都を後にした。
ここまで読んで下さり有難うございますm(_ _)m