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1-5 出かける準備はOK?

少し本文は短めになります。

●多元歴79年 4月27日 9時59分 日本連邦 桂木市 カタギリ邸客室


「さて! そうしたら――何はともあれ、出かけましょうか」

「えっ? ……出かける?」


 元の世界に戻る事は出来ない。

 その事実にクロノが肩を落とし、沈黙の続いた部屋にはしばらくの間付けっぱなしだったテレビのニュースの音声だけが流れていた。

 その空気を換える様にシロナが両手を鳴らすと共に提案がされたが、突然のことにクロノは戸惑う。


「今までの話からすると、クロノはさしあたり“地球”で暮らすのよね?」

「まぁ……そうだな。現状ではこちらでどうするかを考えたいが……」


 故郷に未練が無いわけでは無いが、確実に帰る方法が今の所見つからないのであればとクロノは考えていた。

 だが。


「でも人間が暮らしていく以上、衣食住は必要だけど当てはある? お金やそれを稼ぐ仕事先は?」

「う。それは……だ、だが生きていくだけなら外でモンスターを狩ったり、宿を探したりすれば何とか……」

「けど今私と会話出来ているのは翻訳アプリをいれたハイフォン――魔道具を私が持っているからだから、私と離れたら言葉が通じないわよ? “地球”の文字も知らないだろうし、意思疎通出来なくて素材の売り場や宿と判る?」

「た、確かにそれは……判らないかもしれないが」

「それに“地球”の文化とかも知らないでしょう? 文化や法を知らないで自分の価値観で動いても、それが“地球”じゃ違法って場合も有るし。酷い場合賞金首にされて生死問わず、みたいな事もあるわよ?」


 人が異国どころか別世界で暮らしていくのは容易では無い。

その事をシロナに指摘され、クロノは黙り込み、やがて突っ伏してしまった。


「まぁ貴方を召喚しちゃった手前もあるし、その辺りは私に任せておきなさい。 とりあえず宿についてはうちには空いている部屋は結構あるから、好きな部屋を選んで頂戴」

「え!? い、いやそこまで君に迷惑をかけるわけには……!」

「迷惑とか云々なら今更よ? とゆうか私自身、別世界から貴方を呼び出してしまった以上は責任があるし。私が身元保証人になってあげるから、ここは素直に頼ってくれればいいわよ」

「うぅ……すまない」


 騎士が女性に何もかも世話になってしまうなど……とクロノはぶつぶつ言っていたが、別世界で何も知らない状態でいれば、その先に暗雲が立ち込めているのは明らかだと気付かされたようだ。

 この世界に詳しい人間が手助けしてくれるのなら有難いし、また彼女――シロナであれば……。


「いやいや! 何を考えているんだ自分は!?」

「どうしたの急に? 遅れて頭痛でも来た?」

「いや、痛みは無いが、熱くなってきたというか何というか」

「?」


 そこまで考えた所で、クロノは自分の中に浮かんだある意味で邪な感情を振り払わんと、茹だり始めた頭を振って冷却した。


 そんなクロノを不思議そうに見るシロナだが、実は彼女もここでクロノを一人放り出す訳には行かなかったりする。

 無数の世界が融合した現在の“地球”においても様々な法が制定されているのだが、その中の一つに『別世界より物品、生命、あるいは何らかの存在を、故意又は偶発的に地球に呼び出す、召喚するなどした場合、その存在については当事者らが責任を持つ』というものがある。


 大異変が起きてから暫く、次元境界線が安定していなかった“地球”にて今回の様なケースが故意、事故に関わらず多数起きた事により制定された法である。

 今回半ば事故のような形ではあるが、クロノを召喚してしまったシロナは、彼を最低限自立して暮らせるようになるまでは保護しなければ逆に罪に問われることになってしまう。

 尤もシロナとしてはこの法に関係なく、クロノを助けるつもりではあったが。


「まぁ異常が無い様なら何よりだわ。そうしたら部屋の箪笥に服が入っているから適当に着替えておいて。私もすぐ準備するから、それが終わったら出かけましょ!」

「え? あっ、ちょっと!?」


 クロノは慌てて呼び止めたが、シロナは付きっぱなしになっていたテレビを消すとさっさと部屋を出て行ってしまう。


「いや、出かけるって……何処へ? 何をしに?」


 シロナの出て行った扉に呟くが当然返事など返ってくるわけはない。

 クロノは出会ってからシロナに抱いていた印象をややマイナスの方向に修正した。


「まぁ、兎に角準備だけはしておこう……」


 彼女はすぐにと言っていたし、一先ずここでボウっとしている訳にも行かないだろうと考えたクロノは言われた通り準備を始めた。

 箪笥の中に用意されていた衣服(所謂ジャージ上下であった)の着方、特にファスナーの締め方に散々苦戦することになったのだが。



 ◆



 2時間27分後、二人は出かけて行った。


 これ程まで時間がかかったのは、単純にシロナのせいであり、判子等のこの後に必要なものを見つけるのに手間取ったためである。

 昨夜の件で召喚した使い魔に邸内を片付けてもらうどころの話では無くなった結果、邸内は残念ながら散らかりっぱなしのままだった(因みに地下室に関しては流石に哀れんだ友人達が何とかしてくれた)。


 直ぐに用意する、と言った割に余りにも遅いのでとうとう様子を見に部屋を出たクロノは、自分のいた部屋の外の惨状、そしてそれをひっくり返して探し物をするシロナを目撃してしまい、再び彼女への印象をマイナス方向に修正することになった。


 その後クロノも探し物と片付けを手伝い、結局クロノが見つける事になったのだが何とか目的の物を探し出すとようやく出かけて行ったのだった。


 しかし、これ程時間がかかるのであれば、シロナがテレビを付けたままにしていれば、この物語は違った方向に進んでいたかもしれない。


 シロナが画面を消して暫くして、テレビのニュース番組は芸能コーナーを終え、地方のニュースを流し始めていた。

 言葉や仕組みは別世界から来たクロノには解らなくても、手持無沙汰だった以上見てはいただろう。

 そしてそのニュースが冒頭で流したのは次のようなものだった。


『――県、桂木市の東区総合病院で22日に発生した院内の勤務者、患者の大量殺傷行方不明事件について、警察および『ターミナル』で作られた捜査本部は同病院に20日に保護され、事件後行方不明となっている女性が何らかの事情を知っているとして、行方を捜していると発表しました』


『片腕を失うなどの重傷を負って路上に倒れていた、別世界からやってきたというイシイリナと名乗った自称日本人のこの女性は、発見した通行人の通報により駆け付けた救急隊により同病院に搬送されました。その後意識は回復しましたが、精神的な錯乱が見られた事や、治療にあたる際の検査でAランク相当の禁忌術式が検出された事から近日隔離施設に移送される事が決まっていました』


『捜査の結果、事件の最初の被害者がこの女性の担当医師であったことが判明し、またこの病室から被害が進んでいる事などから、イシイリナを先ずは重要参考人として手配し、さらに捜査を進め容疑が固まり次第レートは未確定ですがNAROUとして認定するとのことです』


『また捜査本部とターミナルは近隣にイシイリナについての情報提供を求め行方を捜すと共に、もし発見した場合は危害を加えられる危険があるとして注意するよう発表の席で呼びかけました』


 映像に移るイシイリナという女性を、もしクロノが見ていれば捜査本部は彼女について詳細を把握できたであろう。


 そこに映っていた女性は間違いなく、クロノが戦っていた魔女イシュリアのものだった。

~後書き解説~


●共通言語について


 かつては200以上の国が存在し、使用されている言語も多種多用だった“地球”だが、大異変以降数多くの別世界が転移、融合してからは更に使用される言語はバラバラな状態に陥った。

 そのためコミュニケーション不全から多くの誤解やすれ違いを生み、結果不幸な事態となってしまった事件も数多く発生することになった。


 そこで国毎、地域毎に使用されていた言語は歴史を尊重しそのままに、第二言語として各国が協力して作り上げた共通言語の使用、教育が義務付けられることになった。

 要するに、共通言語さえ覚えていれば“地球”では殆どの地域で会話可能となっている。


 シロナが作中使用していた翻訳アプリは外国、別世界出身者とのコミュニケーションを円滑化する為に搭載されているもの。

 かつての“地球”にあった言語以外に転移して来た別世界の言語も登録されており、更に予測学習機能も搭載されている為、過去の蓄積データと合わせて全く未知の言語やコミュニケーション方法を持っている場合を除けば、大抵の場合会話が可能となっている。


 これにより有効範囲の五メートル内であればクロノの言葉はシロナには共通言語に訳されて聞こえ、シロナの言葉はクロノの世界で使われていた言語に双方向同時翻訳されて聞こえている(作中では日本語を中心として表記している)。

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