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1-10 赤、青、黄色

/1-9でも書きましたが、エンジ、ソーマ、アサギ、の三人は第二章で活躍するメンバーです……が、話の流れで今回はこの三人が話を回すことに。

11話以降の流れの関係で加筆修正しました(18/7/10)。再加筆しました(19/8/27)

●多元歴79年 4月30日 20時37分 日本連邦 桂木市中央部 ターミナルビル前 タクシー乗り合い場


「本当にこれでいいのか?」

「そう、その画面表示して見せればいいから。つーか最悪起動してロック外した状態で渡せば運転手がやってくれる筈だから。ほら、ドア閉めるぞ。シロナによろしくな」

「あ、ちょっとまだ……っ」


 ソーマは不安そうな顔で何度もハイフォンによる料金支払いの方法を確認してくるクロノをタクシーの車内に押しやると後部座席のドアを閉めた。

 目的地は先に運転手に伝えておいたので、タクシーはすぐ発車し、東区にあるカタギリ邸へ向かって走り去っていった。


「やっぱ異世界系の来訪者に初めてのハイフォン使わせて一人で帰すのは厳しかったんじゃねぇのか?」

「使い方の練習込みで丁度いいだろ」

「……そうだな」


 心配の声を上げたエンジもタクシー程度で大きなトラブルになるとは考えておらず、ただ言ってみただけだろう。


 ターミナルで素材の買い取りや、クロノ用に調整された来訪者向けのハイフォンの受け取りなど、用事を終えたソーマ達《GOC》のメンバーがターミナルを出たのはかなり遅い時間になっていた。

 ソーマ、アサギの兄妹は西区に、エンジは北区の外れに住んでおり、東区のカタギリ邸に採取した素材を全員で届けに行くのは流石に遅くなりすぎる。

 そこでカタギリ邸に居候しているクロノに素材を入れた<宝物庫(アイテムボックス)>のポーチを預けた上で、ハイフォンのお財布機能での支払い方法を急ぎで教え、「残りはシロナに詳しく聞け」と言い含めてタクシーに乗せたという訳だ。


 西区と北区で最終的に方向は違うものの、しばらく道は一緒ということでソーマ達は取り留めのない話をしながら帰宅の途についた。


「しかし随分遅くなっちまったな。ターミナルが混んでいるのは何時ものことだが、ハイフォンの受け取り手続きにも時間がかかるとは思わなかったぜ」

「それは確かに。兄さんはクロノ君と一緒だったよね。対応してくれたのはレン姐さんでしょ? 手続きくらいサッとやってくれたんじゃない?」

「あ~……。確かに手続き自体はそこまで時間はかからなかったんだが……」


 親友と妹に問われたソーマは言葉を濁す。


 ターミナルに到着した四人は素材の換金とハイフォンの受け取りの二手に分かれた。

 ソーマはまだこの世界に不慣れなクロノの付き添いでハイフォンの受け取りにレンを訪ねていったのだが、途中でトーヤに呼ばれて席を離れてしまっていた。


「席を離れた? 何でまた」

「ほら、クロノが転移して来た日の徹夜明け、帰り道で河川敷のダンボールハウスに攻撃魔術放っていた来訪者を見つけて俺らでボコって引き渡しただろう? その来訪者の姉とかいうのがターミナルに来て騒ぎ出したんだよ。」

「あれ? あの来訪者って例の修学旅行の最中に転移して来た学生たちの内、異世界転移に浮かれて単独行動を取った一人って話じゃなかった? 同じ学年の筈なのにお姉さんってどうゆうこと?」

「一緒に飛ばされて来た引率の教師の一人がそいつの姉だったらしい。留置場で面会した弟の言い分を信じてギャーギャーと……。仕方なく事情説明のためにって呼ばれたのさ。トーヤさんじゃ説明なんかできないだろ」


 無口、無表情、無反応が特徴の知り合いのギルド職員の顔を思い浮かべたらしく、アサギとエンジは納得した顔になった。


「で、事情説明(途中から物理)を済ませるのに結構時間がかかったって訳か」

「(途中から物理)は余計だししてねーよ。穏便に話し合い(相手がどう受け取ったかは知らん)をしただけだ。ただ、クロノの方もなんか時間かかっていたな」


 ヒステリーを起こして騒ぐその女教師との話し合いは時間がかかったため、ずいぶん待たせてしまったかと思いながら戻ると、何やら深刻そうな顔でレンと話していたクロノの姿があった。


「何やら考え込んでいたようなところが気になったが……」

「ハイフォンの使い方に慣れなくて困っていただけじゃねぇか? ファンタジー系の別世界出身の来訪者によくあるって話だろ」

「それかデザインが気に入らなかったんじゃない? 転移して来た来訪者が多すぎて足りないからって、女性向けデザインのペンダント型しか用意出来なかったらしいし。ボク的にはクロノ君には似合っていたからいいと思ったけど」

「……まぁ、この世界に来てまだ数日ならそうなるか」


 クロノのことを少し気にしつつも、そこまで重要でも無いかとソーマはこの話題を切り上げた。

 それを機として、アサギが丁度話に出たハイフォンについて聞いてくる。


「そういえば兄さん。支給品のハイフォンって性能はどうなの?」 

「ざっとスペック見せて貰ったが、その辺は大丈夫そうだったけどな。メモリーは少なかったけど通話機能に、共通言語限定だけど自動翻訳にお財布機能、後はカメラとかか。生体情報による身分証明とか、バイタルセンサーもちゃんと付いていたな」

「来訪者は “地球”の法を守る限りは突然別の世界に転移してしまった遭難者、被害者だからな。ターミナル側もNAROUじゃないなら最低限生活していけるようちゃんとフォローしているってことだろ」


 エンジが言った様に、ターミナルは別世界からの来訪者が“地球”で生活が出来るよう様々なサービスを行っている。

 クロノにターミナルから貸し出された来訪者用のハイフォンもその一つだ。

 簡易版のため必要最低限の機能に限定されるが、ソーマが説明したとおり共通言語限定とは言え翻訳機能が付いており、クロノならばシロナなどが傍に居なくても会話が出来るようになった。

 またターミナルで登録した際の検査で得た各種情報が登録されているため、それによる身分証明が出来るようにもなっていた。


「ところで兄さん、バイタルセンサーって何で必要なんだっけ?」

「何故それを知らんのだ妹よ。お前は“地球”生まれじゃなかったのか……?」

「ごめ~ん。ちょっと忘れちゃって」


 全くすまなそうでないアサギに、今度テストするからなと前置きしてソーマは説明をしてやる。


「バイタルセンサーはデバイスに搭載されている機能でな。身に着けたデバイスでバイタルサイン、要は脳波だの心拍だの生命情報をチェックして、ターミナルのサーバーに逐一送るついでに位置情報も知らせている訳だ」

「えっ! じゃボク達のも?」

「デバイスには基本的に付いてんじゃなかったか? 一種の監視装置でもあるしよ。ダンジョンの中とか時空境界線が乱れている場所じゃない限りは送り続ける筈だぞ」


 何故か自分の腕時計型ハイフォンを見て驚きの声を上げたアサギに、今度はエンジが説明する。


 大時空異変以降、“地球”は来訪者とは逆に転移に巻き込まれたり、NAROUやモンスターに襲われたりする世界となっている。

 そのため突然行方不明になったりする可能性もあるのだが、その時バイタルセンサーで位置情報が追えれば追跡可能だ。

 それ以外に他人を操る能力者や魔術の被害受けた場合、バイタルサインに通常とは異なる変調が見られるため、正気か、それとも何かされているのかも判断できるという訳だ。

 逆に何時何処で魔術や能力を使ったのかも判る監視装置の役割も果たしているため、加害者側もすぐ判明し追われることになるのだが。


「へぇ~。そんな事になっていたんだ」

「へぇ~、じゃねーよ。ハイフォンとか魔道具のロック解除も今のご時世バイタルサインでやっているのに、何で初めて聞くみたいな顔なんだお前」

「確かに。常識だろこれ。お前達本当に双子なんだよな?」


 暢気な声を上げたアサギに、ソーマはエンジと共に呆れた目を向けるのだった。


 さてそうして話している内に、三人の話題はクロノとシロナ、二人の関係に移った。


「それにしてもシロナちゃんが年下の可愛い系が好きだとは思わなかったね。まぁ薄々感じていたけど」

「クロノって俺らとタメじゃなかったか? まぁ口調は固いが女顔だし、背丈とか骨格が細身なせいでどうしてもそうは見えないってのは同感だがよ」

「それともあれかな? 昔から弟か妹が欲しいとか言っていたし、年下好きっていうよりお姉さん風を吹かせたいって感じなのかも」

「普段はアサギかリラに頼りっぱなしじゃねーか。……いや、その反動でってことか? それもまぁあり得そうではあるけどよ」


 年頃の少年少女が、それも共に美男美女が(クロノはアサギが語った通りどちらかというと中性的で可愛らしい、という感じだが)一つ屋根の下となれば、ゴシップ好きな年頃でもある少年少女たちの話題にならない筈がない。

 興味津々といった体で話すアサギに対し、エンジも硬派を装いつつも答えている辺り実際は、という事だろう。


「クロノとシロナか。そう言えばレンさんから面白い話を聞いたな」

「お? 何々兄さん」

「さっき言った通り、ハイフォンの手続き自体はそんなにかからなかっただけどな。トーヤさんがクロノに引き取りの書類にサインとかさせている間に少し時間があったから、レンさんと雑談をしてたんだが――」


 ソーマが話題に新たなネタを追加すると、予想通りアサギが食いついて来た。

 エンジも聞き耳を立てていることを確認しつつ、《GOC》には馴染みのターミナル職員で、また凄腕の魔術師でもあるレンから聞いた面白い話を披露した。


「俺らは魔術師じゃないから詳しくないが、レンさん曰く召喚魔術ってのは召喚されるモノと術者との相性の他に、術者の趣味嗜好や願望なんかも結構反映されるらしい。要は深層心理が影響するってことだな」

「へぇ~。じゃあシロナちゃんの好みのタイプなんかもひょっとして?」

「可能性はある。召喚しようとした使い魔が『アニメに出てくるみたいな黒猫』って時点で、シロナも結構イケメンの騎士だか執事だかが守ってくれるとかそうゆうの夢見るタイプだろうし。そこに弟が欲しいって願望がプラスされると?」

「クロノみたいな感じになるってことか」


 自分の話に察しの良い妹と親友に、ソーマは満足した。


「クロノもシロナにまんざらでもなさそうだったしなぁ」

「あ、やっぱり? アレは惚れた眼をしていたよ。ボクがエンジさんに向けるのと同じ眼だったし! ねぇ兄さん」

「いや、お前はもっと露骨だ。クロノはどっちかっていうと兄弟に近いな。兄弟は硬派を気取ったムッツリだから、妹を直視しないけどチラ見しているのと同じ方向だ。気になるけど見つめていられない……みたいな?」

「そこで俺を見るな何の確認だテメェ! そして誰がムッツリだ!」

「おっと」


 ソーマはエンジが振り回して来た拳をヒョイと避ける。

 冗談の通じない堅物なエンジは、からかわれるとすぐに手が出るタイプだった。

 それゆえアカデミーでは敬遠されがちなのだが、長年付き合っているソーマであればからかうのも攻撃くらい避けるのも容易い。


 ソーマとエンジはしばらくじゃれあい(?)を続けていたが、やがてある交差点に着いた所で北区へ去って行くエンジと、西区へ向かう兄妹に分かれることになり、本日はお開きとなった。


「ちっ! まぁいい。それじゃあ俺はこっちだからな」

「ふぅ、兄弟はからかうのも一苦労だぜ。じゃあまたな」

「エンジさんお疲れ様~。またボクお部屋にお邪魔するからね!」

「来んじゃねぇよ! ったく鍵かけていようが能力使って抜けて来やがって……」


 ブツブツ言いながら去っていくエンジを見送ると、ソーマは妹と共に西区への道を帰って行った。

 性格も割と似ている双子の兄妹は、エンジと別れてからも話を続けていた。


「にしても、兄弟も良くクロノを茶化せたな。自分もいざ指摘されると恥ずかしがるクセに」

「中々送り狼になってくれないんだよエンジさんは。そこも含めてボクは好きだけどね」


 エンジに惚れているアサギは露骨に判り易いアタックをかけているのだが、如何せんエンジがシャイすぎる。

 というか自分もまんざらでもないクセに何故ここでワイルドにいけないのかと思うソーマだった。


「まぁ兄弟のことは置いといて、あの二人だが……どうなるかな? 愉しみだなぁ」

「ボクらは特等席で、生暖か~い眼で見守ってあげようね」


 エンジがここにまだ残っていたなら「嫌な兄妹だよお前らは……」とあきれただろう、双子ならではの似た顔に似たような愉悦の笑みを浮かべるソーマとアサギだった。


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