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悪魔との契約  作者: 鷹崎鮪
1/7

変わる日常

 

 

  ━「感情を1つ100万で売らないか?」━




 お世辞でも綺麗とは言えない掠れ声の“黒い何か“が、そう問いかけてきた。

 感情を売る?バカにしてんのか。アニメや漫画の世界じゃないんだから。しかも100万って...自分が聞いたことを嘲笑った。

 ただ、不思議な気分だった。その声は人を惹き付けるような感覚があり、この一文でさえ長く感じてしまった。そして、そのゆっくりと丁寧に述べられた言葉は、余韻も残さずに消えていった。

 



 * * * * * * * * * * * * * * * * * *




「あ、やっちまった...今月分、もう使っちまったな。」

 薄暗い部屋の中、今日のことを考えながら一人呟いた。

「節約するって俺偉いな」

 自分で言いながら苦笑する。

  母さんから貰った今月分の小遣いも、1日で半分以上使ってしまった。おかげでもう何日も1日2食を続けてる。まあ、1日2食ある分まだ良い。

 自分の為に生きると決め、 ”趣味”で生きていくと決めて、その結果がこれだ。お金がなくなっても後悔なんてできない...。全ては自己管理だから、後悔してもただの自業自得である。



 ...そうは言っても毎月5000円の小遣いでは、ろくに趣味にも使えない。先月俺は、大きな賭けにでた。好きなアニメのフィギュアの発売初日に俺は、学校を早々と切り上げ、先生の話を無視し、信号無視もした。そうまでして欲しかったフィギュアを買い、俺の今までの貯蓄は空になった。まあ、このために貯めたものだから別に気にはならなかった。気にならなかったというのは、嘘だが...



「1、2..千...1、2、3..百...1、2..十...5、6、7、8..円........」

「っっ!!」

 声にならない悲鳴を上げた。

「2328円!?」

 驚愕の数字にしばらく呆然としていた。


(えーーと、残り23日だから2328÷23は.......ひゃくいち..えん!!!!!)

 今度こそ頭が逝ってしまいそうな感覚になった。俺はもう一度財布の中身を確認して数え間違いがないか確認した。というより数え間違いであってほしいと願いながら確認した。そして、大きなため息をついた..



「あれ!?」


 ふと、ある感覚に襲われた。そして、その瞬間不安の中に小さな希望を見つけたような気がした。

(...まてよ、土日はほぼ使わないんだから23-7で....16日か。ってことは、2328÷16で........145円だ!!)


「...たいして変わんねーな」

 少し高価なおにぎりが買えるぐらいしか結局はないのだ。やや自分を責めつつもこれからについて考えに更けっていると、1本の着信がこの静かな部屋に大きな音をたてて響いた。



  ー明日クラスTシャツの集金を行いまーす。

  1人1000円を持ってきて下さい(^-^)ー



 あ、終わった...俺の人生を趣味に注ぐという目標もあっけなかった...



 俺はベッドに顔を埋め、これからについて考えるわけもなく眠りについた。




 __________________




「んっ?」

 俺は気づくと机の上で寝ていた。


(あれ?今、何時かな)

 部屋は閉めきっていて今が朝なのか夜なのかわからない。なんとなく時間が止まっているのではないかという感覚があった。まるでこの空間だけが世界と分断されているように...



(ん!?)


 目がかすんでいてよく見えないが、部屋のドアの前にはたしかに”黒い何か“が見えた。そしてその感覚は確信へと変わり、目はだんだんとそのものの原型を捉え....そして俺は、この世のものではない何かを見て唖然とした。


「あ..く....ま?」


 悪魔だ。


 その形相はテレビや画像で見る悪魔とそう変わりなかった。悪魔は想像なんかじゃ無かったんだ...本当に実在したんだ。


 そして俺は理解した。...悪魔と合うことを人に口外することは禁止事項であると。破れば即死ぬ。


「お前は、感情を一つ100万円で売る気はないか?」


「100万!!」


 100万はあまりにもおいしすぎる。ヤバイ..にやけがとまんない。感情一つで100万はかなり安い。50万趣味に使っても50万は残る。


(使い放題じゃねーか!)


  嬉しさのあまり心の中で絶叫した。


「その通りだ。お前の感情なのだから全てお前のものだ。」


 その通りなんだ。というか流石は悪魔、何も言ってないのに心の中を見透かされた。いや、見透かされたという表現より“通じ合った”というほうが正しい気がする。悪魔はその人のイメージ次第で変わるといって間違えではないのかもしれない。つまり、悪魔は人の心の中に存在しているのだろう。だから、その人が今何を考えているのか意志疎通しているかのようにわかるのだろう。


 悪魔が言うように、俺の感情は俺のなんだから100万は俺のものなんだ。だったら1つぐらい良いんじゃないか?一つ減っても人間としては何不自由なく生きていけるはずだ。減らす感情にもよるが.....


 感情は無数にあるブドウのようなものだ。1つ失っても何粒も代わりは存在するから、人間は人間として生きることができるだろう。


 1つぐらいなら...


 悪魔との契約、それ自体とても危険な感じがする。この契約自体仕組まれたものなのかもしれない。ただ..今の俺は藁にもすがる思いだから。


 ヒトツグライナラ..


 ほんの少しを売るだけだから。


 ヒト..ツ...グ....ラ......イ.......ナ...........ラ



  "感情を一つ売ります"


 その刹那、ふっと軽くなった気がした。


  そして俺は、いつもの日常へ引き戻された。


 ____________________



 部屋全体に朝の光が降り注いだ。

「夢?」

 まだ、夢と現実を受け止められずにいた。思考回路が混乱し、あれが現実であればとさえ思った。

「うわ〜なんかリアルな夢だったな」

 成り行きで財布の中身を見た。もちろん財布は空だった。俺は、空だったことに安堵し、少し前まで高まっていた感情が収まっていくのを感じた。

「まあ、そりゃそうか」

 夢だったことにガッカリしながらも、俺は学校の支度を始めた。






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