水の勇者は世界を超える
「んあっ?ここはどこだ?
昨日は仕事を終えてから、あいつらと酒を飲んで、騒いでいたはずなんだが。」
私は、周りを見回してみると、周りには何もない。目の前に机と椅子、そんで机の上に今入れたばかりのような紅茶以外にはだが。
とりあえず、よくわかんないし、椅子に座って紅茶でも楽しむことにしよう。
「あら?ごめんなさい。お待たせしたかしら。」
「おぉ。あんた誰だ。」
私は相手を威圧するように睨みながら問いかけたが、相手は全く気にしないかのように机の対面に座った。
「ちっ。で、何の用なんだ?」
「話が早いのね。聞きたいことは色々あるのではないの?」
「ここがどこだか分からないが、人どころか風や虫、何にも音がしないってのは異常だ。しかも、恫喝の効果がない。ただ、歓待しようという意思は感じる。ってことは何か頼みごとがあるんだろ?とりあえず聞くだけなら不利益はねえからな。」
「素晴らしい。女性でありながら、男性をまとめているその統率力。冷静な判断力。私が見込んだだけはあるわ。単刀直入に言うわ。私は水の大精霊。貴方が現世で亡くなったら、来世に私たちの世界に転生してほしいの?」
「あぁん?何言ってやがるんだ?突拍子の無い話をし始めやがったな。」
「まぁ、いきなり聞いてもそうなるわよね。要は死後の話で、今世には全く影響しないわ。」
「それに応じたとして、私に何かメリットがあるのか?」
「そうね。転生先に貴女用の船を準備するわ。それと、今世でも船が嵐に会わないように加護を与えます。」
ふーん。まぁ、嘘だったなら来世の話も嘘。真実なら船で荒稼ぎか。損はないな。
「はっ!それが事実なら応じてやってもいいぜ。で、その来世とやらでは何をすればいいんだ?」
「実は、私たちの世界は魔王の侵攻を受けて滅亡の危機なのよ。そこで、勇者を選定している。あなたにはその仲間として戦って欲しいのよ。」
「何か面倒臭ぇなぁ。勇者とやらも見てないのに、仲間になれってのかよ。」
「それは建前よ。」
「はっ?どういうこった。」
「理由はいくつかあるわ。他の四大精霊にバカにされたから鼻を明かしてやりたいということもあるんだけど。水の大精霊である私の加護って一番受けるのは海なんだけど、その海が魔物に封鎖されちゃってね。人魚や魚、人間たちの往来も途絶えちゃったのよ。できれば、それを解消して自由な海を取り戻してほしいのよ。それさえやってくれれば、後は自由よ。きっと間接的にでも勇者の助けになるはずだから。まぁ、私の選んだ水の勇者ってところね。」
「なんだとぉ!!海が自由に渡れないだとぉ?ふざけんなっ!分かった。私に任せろ。」
私は激怒した。海。自由足りうる海が制限されているなんて許せない。
「ありがとっ。なら、来世で会いましょう。貴女が死んだら、勇者が選定されたときに転生させるようにするわ。」
「はっ。痺れるセリフだな。まぁ、細かいことは死んだ後にでも聞かせてくれよ。じゃあ、またな。」
そうして、私は来世を異世界で過ごすことを決意した。
でも、私。海賊なんだけど、良いのかな?
それから、20年余りが経過し、私は転生したのだった。
「あらあら。これはマズイわね。まぁ、良いかしら。」
水の勇者の魂は良い人生を過ごしたようで魂が研磨され過ぎていて、転生させるのに力を使い過ぎてしまった。
かといって、約束を破るわけにはいかないので、加護もしっかりと与えた。
しかし、勇者に加護を与える分の力まで使ってしまったわ。まぁ、仕方ないわね。不完全な加護になってしまうけど、0じゃないわけだし。他の四大精霊の加護があれば、勇者の力としては十分でしょう。
この時、他の四大精霊も同じことになっているとは全く考えてもいなかった。