黒井と彼女の契約3
歌世は、僕がゲームの世界で初めて会った人間であり、先輩であり、色々なことを教えてくれた師であり、窮地から救ってくれた恩人でもある。
酒飲みで、狩りに出ることはほぼなく、溜まり場でいつも酒を飲んでいた。
そんな彼女の姿が、今は懐かしかった。
僕らは溜まり場から大樹の下に移動して、話し合っていた。
「メール、送ってみた?」
ヤツハなら真っ先にそれをしそうなものだった。彼女は、クエストなどを攻略するたびに、その景品を歌世にプレゼントしていたほどの仲良しだった。
「ここ数週間で三通送った。返事はなし」
ヤツハは、沈んだ表情で言う。姉妹のように仲の良かった相手に無視されるのは、どんな気分なのだろう。
「歌世さん、本格的にゲームを辞める気だわ」
ヤツハは、呟くように言った。その表情は、沈みきっている。
「そうじゃないと、あんな目立つような真似しない。彼女は、照れ屋さんだから」
「俺もメール、送るよ。返事、待ってみる」
そう言って、パネルフォンを取り出した時のことだった。
ヤツハの口から、パネルフォンの着信音らしきものが聞こえてきた。ゲーム機であるエッグのマイクが、その音を拾ってしまったのだろう。
「ごめん、電話だ。歌世さんからだわ」
そう言ったきり、彼女は反応がなくなった。エッグから出たのだろう。
十分の時間が流れた。それは、永遠にも思える長さの十分間だった。
歌世とヤツハは何を話しているのだろう。
それが気になったが、内容を確認する術はない。僕にできることは、帰ってきたヤツハの話を聞くことぐらいだ。
そのうち、ヤツハがエッグの中に戻ってきた。
「急な離席でごめん。行こう、シンタくん」
そう言って、ヤツハは立ち上がる。
「どこへ?」
「場所は、教えてもらった」
そう言って、ヤツハは歩き始めた。その後に、僕は続く。僕らは町を抜け、草原を抜け、森の中へと入っていた。
その間、二人の間に会話はなかった。ヤツハの発している雰囲気は異様で、声をかけることを躊躇わされたのだ。
そのうち、その小屋が見えてきた。
建物の前には、二人の見張りが立っている。
「歌世さんに会いに来ました。退いてください」
ヤツハが、低い声で言う。彼女のそんな声、僕は初めて聞いた。
見張りは二人とも男だった。馬鹿にしたような微笑を浮かべて、ヤツハを見下ろしている。
「合言葉だ」
「歌世さんに会いたいだけなんです。邪魔をするなら、その建物ごと吹き飛ばしますよ」
そう言ったヤツハの手に、銀色の杖が現われた。杖の先端に埋め込まれた赤い宝石が光を放つ。
見張り二人は、それを見てたじろいだようだった。
「銀色の杖……神器か?」
「おい、どうする?」
二人は顔を見合わせ、困惑したように話し合う。
「通してやりな」
久々に聞く声だった。
建物の奥から、歌世の声が聞こえてきていた。
++++
それは、砂漠の町で過去に起こった出来事だ。
武器屋と防具屋の間にある隙間で、彼女はフードを目深にかぶって座り込んでいた。
ヤツハは、心が弾むのを感じながら、彼女に近付く。
「相談屋さん、この前はありがとうございました。おかげで、ギルドを無事抜けることができました」
「たいしたことはしてないよ。上手く行ったなら何よりだ」
この相談屋は、一月ほど前からこの町に常駐している。荒事含めて相談なんでも受け付けます、というのが彼女の主張だった。
彼女に相談して、ヤツハはある事件を解決してもらったのだった。
「これからも、なにかあったら相談に来ますね」
「ああ、いや、そうも行かないんだな」
相談屋は、苦笑交じりにそう言った。
「そろそろ名前が売れすぎた。目立ち過ぎるのは私の本意じゃない。別の町に移るさ」
「そうですか……」
残念だとヤツハは思った。彼女は強く、優しく、ユーモアがあった。そんな彼女と、もっと仲良くなりたかった。
「私も、連れて行ってくれませんか?」
その言葉は、ヤツハの口から自然と出ていた。
それに、ヤツハ自身も戸惑っていた。こんな馴れ馴れしい言葉、自分らしくないと思ったのだ。
けれども、それを許してくれそうな不思議な雰囲気が相談屋にはあった。
「どうせ、ギルドを抜けて、他の町へ移る場所だったんです。貴女と一緒に、色々な町の生活を見てみたい」
「それは、魅力的な誘いだね」
相談屋は、苦笑いを浮かべた。困ったとばかりに。その表情が、ヤツハを落胆させた。
もっとも、その感情をヤツハは表に出さず、穏やかに微笑んだままだった。
「けれども、今は、一人の旅が気に入ってるんだ」
「そうですか……」
ヤツハは気分を立て直す。我ながら突拍子もないお願いだった、とも思ったのだ。
「その代わり、君が新しい町に落ち着いたら会いに行くよ。何処へ行くか聞いても良いかい?」
「港町に行って、海を眺めて過ごそうかと。気分転換にも丁度良いです」
「ああ、あの町か。わかった」
「名前、訊いても良いですか?」
相談屋は、しばし考え込んだようだった。
「聖山聖子は流石に偽名でしょう?」
ヤツハは、真剣に彼女を見つめる。まるで、祈るように。
そのうち相談屋は折れたらしく、目深に被っているフードを脱いだ。出てきたのは、頭部に生えた猫耳、栗色の毛、白い肌に、まるで猫のようなアーモンド型の瞳孔をした金色の瞳。
彼女は照れ臭げに、そっぽを向いて、答えた。
「歌う世界と書いて、歌世。かよじゃないよ、うたよだ」
「歌、大好きなんですか?」
「リアルネームとかけてるんだよ。バラすなよ。有名人にはなりたくない」
「わかりました、歌世さん。可愛らしい名前ですね」
「可愛いって言うのはやめて。なんか恥ずかしいから」
普段は飄々としているのに、照れ屋な彼女が、ヤツハはとても可愛らしいと思った。
そして、彼女の傍にいれば、毎日が楽しいかもしれないと思ってしまったのだ。
その後、紆余曲折あって、ヤツハは歌世のギルドに入ることになる。
歌世の隣にいる生活は楽しかった。
酔っ払った彼女に、ヤツハが色々と穏やかに指摘をする。そんな関係が、何年も続いた。
このまま、それがずっと続いていくのではないかと、ヤツハは思っていた。
そして、時間は今に戻る。
ヤツハは見張り二人の横を通り、小屋の中へと入った。
小屋の中には、人が密集していた。その窓際で、窓枠に頬杖をつきながら窓の外を眺めている女がいた。その猫耳に猫の尻尾、そして長い髪を後頭部でまとめた髪型から、歌世だと知れた。
「どういうことですか、歌世さん」
ヤツハは、周囲の人間を無視して、歌世の傍へと近づいていく。
歌世は、振り返った。その頬を、ヤツハは叩いていた。
素早さをほぼ伸ばしていない魔術師と、素早さ特化型の歌世だ。避けようと思えば避けられただろう。彼女は、あえて避けなかったのだ。
それが情けをかけられたようで、ヤツハは尚更惨めになる。
「何をしようとしているんです。スピリタスにまで迷惑をかけて」
歌世はしばし考え込んでいたが、そのうち唇の端を持ち上げて笑った。
「難攻不落のスピリタス。それに一泡を吹かせて伝説を作って引退するというのも悪くはないだろう?」
周囲にいる人々が、各々顔に笑顔を浮かべる。それを見回してから、余裕を持った笑みを浮かべている歌世に視線を戻して、ヤツハは無感情に口を開いた。
「嘘ですね」
ヤツハは、迷いなく断言していた。伝説を作る、なんて、歌世なら馬鹿らしいと斬って捨てそうな言い回しだ。
それをあえて彼女は発している。
なにか、理由があるようだった。
「それは、貴女の本心じゃない。私は貴女の本心を訊きに来ました。建前でお茶を濁されたら困る」
「邪魔になりそうだな。俺達は外へ出るぞ」
男の声がした。振り返ると、穏やかな笑顔を浮かべた男が、小屋の中の人々を外へと誘導していた。
人々は彼の一言で迷いなく外へと歩いていく。統率の取れた集団だと言うことが、それで知れた。
小屋の扉が閉まる。残ったのは、歌世と、ヤツハと、シンタだった。
「どうしてですか」
叫びたいような気持ちを堪えて、ヤツハは言う。ここ数週間で溜め込んでいた思いが、爆発しそうになっていた。勝手に消えた歌世、相談もなしに他の人間達と引退の準備を進めている歌世、それがヤツハには許せなかった。
「どうして、自分から退路を断っていくような真似をするんです。今なら、こんな馬鹿げた真似はやめることもできるでしょう? 帰りましょうよ、皆で山の町に」
「……もう、腹は決まってるんだ。私は一暴れして、このゲームをやめる。その事実は、変わらない」
「なら、なんで何も言ってくれなかったんですか? ゲームだけの関係だからですか? メールも、無視して。やめるならやめ方って言うのがあるはずでしょう?」
ヤツハの声は、どんどん大きくなっていく。
「ゲームだけの関係とは思ってないさ、ヤツハ。あんたは私の友達だ」
その一言で、ヤツハは自分の怒りが少し萎えるのを感じた。
声のボリュームが、少しだけ絞られる。
「なら、なんでメールを無視したんですかね……」
「ま、座りなよ」
穏やかな口調で言って、歌世は座る。
ヤツハも、その向かいに座り込んだ。
「確かに、やめるならやめ方ってもんがある。最後に一暴れしてやめてやろうなんて、メンバーの感情を無視した話だし、スピリタスにとってもはた迷惑だ。それは、私もわかっている」
「はい」
「多分、同じギルドのメンバーだと知れたらあんた達に迷惑がかかる。しばらく、各々あの溜まり場には近付かないでほしい」
「大暴れをやめる気は、ないと」
「色々、しがらみがあってね。それで口論になると思って、メールの返信が思いつかなかった。けど、あの動画をアップした後、話はしなくちゃいけないと思ったんだ」
歌世は、苦笑顔でそう語った。
「私達皆より、大事なしがらみなんですか」
「……放置しておけないことだって、あるだろう」
「話はしなくちゃいけないと言いつつ、それが何かは、教えてくれないんですね」
「まあ、そうだ。私は、引退する意図を伝えるだけだからね」
沈黙が漂った。
ヤツハは、感情が高ぶって、泣きそうになっている自分に気がついた。歌世との付き合いは一年や二年ではない。それが、どうしてこんなにあっさり断たれようとしているのだろう。
今まで我慢していた気持ちが、心の中で膨れ上がっていく。
ヤツハは、そんな自分を必死に隠して、淡々とした口調で彼女に語りかけていた。
「私は、やめ方について歌世さんに一言告げたかった。きちんと事情を教えて欲しかった。それも聞き入れられないというなら、仕方ありません」
「ヤツハ」
「なんですか」
淡々とした口調で、ヤツハは答える。
「大好きだよ」
その囁きに、ヤツハは胸が潰れそうになった。
「人を置いてやめていく癖に、勝手な言い分です」
「まあ、そうさな」
「ゴルトスさんにも、シュバルツにも、しっかり解散するってことを告げてください。ギルドマスターとして、やるべきことをやってください。本当のことを教えてもらえないならば、私の言いたいことは、それだけです」
「ああ、すまなかった。いつもそうだな。私が馬鹿なことをやろうとして、あんたがブレーキをかけてくれる。私達は、そういう関係だった」
「ええ。大人ですからね。みっともなく追いすがったりはしませんよ。ただ、別れるならきっちりと別れたかっただけです。本当なら、スピリタスに迷惑をかけるような馬鹿な真似もやめてほしい」
強がりを言っている自覚があった。本当ならば、服の裾を掴んででも彼女を引き止めたかった。けれども、ヤツハにはそれができなかった。
生半可についた自制心が、行動の邪魔をするのだ。
「そこは、譲れないラインだと思ってくれ」
歌世は、苦笑顔でそう言った。
「佳代子って言うんだ」
彼女の告白は、唐突だった。
「かよこさん、ですか?」
ヤツハが、戸惑ったような表情になる。
「ああ。佳い代の子と書いて佳代子だ」
彼女は照れ臭げに、そっぽを向いて、そう語っていた。まるで、過去の日の砂漠の町で行なったやり取りのように。
「たまに、メールで話そう。ゲームの中だけの付き合いじゃないさ。あんたと私は、立派な友達だと私は思うけどね」
ヤツハは黙り込んだ。その間に、目尻に浮かんだ涙を、拭う。
「……結局、貴女の本音も聞けなかったし、貴女を止めることもできなかった」
「私も案外、こうと決めたら頑固だからね。だから今時、素早さ特化のキャラなんぞを使っている」
「けど、貴女に友達と思われていると知れただけで、私は満足なのかもしれません」
そう言って、ヤツハは穏やかに微笑んで立ち上がった。
「連絡が取れて、ちょっと安心しました。シンタくんも話があるかもしれないから、外に出ています」
そう言って、ヤツハは扉の外へと出た。
明るく、どこまでも澄んだ青空が視界に広がった。
大事な友達と思っている。その一言で、ヤツハの心は安堵感に包まれた。
我ながら単純だ、とヤツハは思う。
上手く誤魔化されたという自覚があった。
++++
薄暗い室内で、僕と歌世は向かい合った。
「結局、どうしてこんなことをしたかは教えてもらえないんですよね」
「ああ、トップシークレットって奴だ」
そう言って、歌世は悪戯っぽく微笑む。
彼女らしいな、と思って、僕も思わず微笑んでいた。
歌世は、淡々と言葉を続ける。
「飽きが限界にきているのもあった。遠距離恋愛みたいなものだよ。気がつくと、相手がいない日常が当たり前になっている。このゲームのない日常を、ありありと想像できるようになってしまっている。やめるには、良い頃合なんだ。ゴルトスとシュバルツには悪いがね」
「二人も、もう引退しているようなものですよ」
僕は苦笑混じりに言う。
「そっか。結局、私がいてあいつらもギリギリの所で踏み止まってたわけか……」
歌世は天井を仰いで、しばし考え込んだ。
「シンタ、ゲームは楽しいかい?」
「ええ、楽しいです。未知のダンジョンや未知の敵が世界中に溢れていると思うと、わくわくします」
「その気持ちを大事にすることだ。いつか、狩りは作業となり、レアアイテムを手に入れても感動がなくなる。だからこそ、今の気持ちを大事にしておかなければならないんだ」
「ゲームは楽しく、ということですか?」
「そ、ゲームは楽しく。忘れんなよ。後は友達を作ることだ。友達がいれば、結構長持ちする。ヤツハとあんたで、仲良くやっていくんだね」
そう言って、歌世は優しく微笑んだ。
それが、僕と歌世がゲーム内で最後に交わした言葉だった。
その後、スピリタスは歌世の挑戦を受けることを表明した。月に一度の月例大会が、その対決の場となることになった。
月例大会ならば、乱入者が出て混乱が起こることもないと考えられたのだろう。
このトーナメント式の大会で、最後まで生き残った人間の勝利。単純な図式だった。
そして、大会の当日がやって来た。
その日、首都の闘技場の参加受付の前には大勢の人が集まった。
この大会は、登録した順番のままにトーナメント戦が組まれる。だから、スピリタス側は極力潰しあいにならないように配慮しているようだった。
参加者は多かった。腕試しにと、参加する人間も多数いるようだった。
「これ、参加代金からスピリタスに税収行くんだよね。挑戦者も詰めが甘いな」
そう語るのは、シズクだ。
僕、ヤツハ、リンネ、シズク、シュバルツは、観戦にと闘技場の観客席に足を運んでいた。
椅子の大半は最早埋まっている。僕らはなんとか五人分の椅子を見つけると、そこに並んで座った。
一回戦が、始まろうとしていた。
中央にあるリングに向かって、右手の通路から猫耳の少女が現われる。歌世だ。左手の通路から、赤い鎧に身を包み、片手剣と盾を持った騎士が現われた。
「あれはスピリタスの騎士ですよ」
ヤツハが訳知り顔で言う。
「そうなの?」
シズクが怪訝そうに言う。どうしてそんな情報を知ったのか気になるのだろう。
「ええ、歌世さんが呼び出したメンバーは、全員顔の画像がネット上の掲示板にアップされてるんです。大会でわかりやすいように、と」
「へえ、準備が良すぎるな……何か、きな臭い」
シズクが、目を細めて言う。
「スピリタス内部に、わざわざメンバーの顔を晒す動機はない。となると、誰がそれをアップロードしたかだな」
そう語るのは、シュバルツだ。
「挑戦者の仕業に決まってるだろ。挑戦者はスピリタスになんらかの恨みがあるって話題だぜ。スピリタス側が無視できないような恨みがな」
近くの席の男が話しかけてくる。
「歌世さんはそんなことしませんよ」
ヤツハが不快げにそう言い返す。シュバルツはその横で、考え込むような表情で口を開いた。
「やっぱり、歌世さんのバックに誰かがついている。そう見るべきだな」
その歌世に浴びせかけられているのは、罵声だった。
「猫耳に布の服って舐めてんのかお前ー」
「さっさとやられろー、挑戦者を出せー」
「相手が指定されて出てきた奴なのに、肝心の挑戦者と当たらないなら意味がねえな」
歌世は気にした様子もなく、両手をぐっと天に伸ばして伸びをしている。その両手には、逆手に持たれた短剣がある。
見晴らしの良い特別席に、王の格好をしたノンプレイヤーキャラが現われる。彼は手を高々と上げて、試合の開始を宣言した。
ファンファーレが鳴る。
騎士が、盾を前面に出して構えを取る。その時には、歌世は既に動いていた。
短剣が投じられる。日光を受けて煌きながら、顔面に向かって近付いてくるそれを、騎士は盾で弾く。そして、彼が相手の姿を視認しようとした時には、歌世は既にその視界から消えている。
そして、騎士は倒れた。彼は、自分の死因にすら気がつかなかっただろう。歌世はたった床を二回蹴っただけで、騎士の背後に回り込んで首を突き刺したのだ。その速度は、的に向かって放たれた矢のようだった。
「はっえぇぇ」
「なんだ!? あの速度で動くキャラを制御しきれるのか?」
「俺はわかってたね。速度を落とすことを避けるがための軽装。明らかに素早さに特化したキャラだと」
「お前、最初からそれを言えたか? 馬鹿が出た、みたいに言ってなかったか?」
ざわめきが周囲に広がる。それはそうだ。素早さ特化キャラは操作が難しく、耐久力に乏しい。前衛は耐久力を伸ばし、素早さは移動力に必要な分だけ伸ばすのがベターというのが現在の風潮だったからだ。
歌世は、叫んだ。
「私が、挑戦者だ! スピリタスの参加者は、全員私の前に倒れ伏して貰う!」
一瞬、静寂が闘技場を満たした。次の瞬間、様々な声の波が闘技場を満たし、揺らしていた。
「いいぞ、やれー!」
という声もあれば、その逆に否定する声もある。
「素早さ特化でリヴィアとやりあう気かー、馬鹿じゃねーのかー」
多くの声は、最早重なり合って判別する事は不可能だ。まるで闘技場そのものが爆音を生み出す楽器となってしまったかのようだった。
歌世は微笑んで、一礼をすると、闘技場を出て行った。
彼女の最後の戦いの、幕が開いていた。
現在のストックはここまでとなります。
次回、短編を挟むか、このまま黒井と彼女の契約4になるかは未定です。




