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ロープレ!  作者: 熊出
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厄介者のワルツ2

 グリムは、野良パーティーに参加していた。場所は、以前も狩ったことがある墓場跡地だ。

 そこには大量のゾンビが次々にわいてくるのだ。

 以前来た時は大変だったな、とグリムは思う。シアンが敵を大量に釣ってきては擦り付けて来て、グリムのヒットポイントは何度も半分を切った。

 今回はそんなことはないようにしよう。そう思って、前進を進めるグリムだった。

 周囲にいる敵をグリムが集めては魔術師の魔術で処理して、堅実に敵を倒して行く。

 これがやりたかったのだ、とグリムは思う。

 けれどもどうしてだろう。何かが物足りない。心の中のピースが欠けてしまったような喪失感がある。

 この狩りには、スリルがなかった。

 スリルを求めて安全性を疎かにするなど本末転倒だ。グリムは、そう思いなおした。

「前衛さん、もっと走って良いんですよ?」

 聖職者が、おずおずとそう言い出したのは、狩り始めて五分ほどしてのことだった。

「結構、回復アイテム積んでないとか?」

 魔術師が、申し訳なさげにそう訊ねてくる。

「いや、回復アイテムならあります」

「じゃあ、もっと頑張って釣りましょうね」

 聖職者が、両手に握り拳を作ってそう言った。

 グリムは、その時、あることに気がついて愕然とした。

 経験値が、ほとんど増えていないのだ。シアンと狩っていた時のペースに比べて、半分にも満たないペースだった。

 焦りがグリムの心を満たす。それに突き動かされるように、グリムは駆け出していた。

 敵が沸いている場所が見当たらない。

 気がつくと、グリムは他のメンバーから遠く離れていた。周囲には七匹のモンスター。これで面目が立つ、とグリムは安心し、そのモンスターを誘導して走り始める。

 追って来た聖職者と魔術師の二人と合流すると、魔術師が魔術の詠唱を開始する。

 聖職者はヒールを連打する。しかし、敵を抱えているグリムのヒットポイントは勢い良く減っていく。

 おかしいな、とグリムは思う。

 シアンがいた時は、こんなにダメージが大きくなかった。そう言えば彼女は、状況に応じて本を紙束にして人を守るスキルを使ってくれていた。耐久力を伸ばすスキルなども、切らすことはなかった。

 けれども、今、グリムを守る支援スキルは何もない。ただ、ヒールが無闇に乱打されるだけだ。

 グリムは回復アイテムを飲み始める。その残量が、じわじわと削れて行く。

 ようやく、魔術が発動した。炎の風が、ゾンビ達を吹き飛ばした。

「その調子です、ガンガン行きましょう!」

 聖職者が言う。

「うん、良いペースだな」

 魔術師も言う。

(自分は、どれだけ楽をさせてもらってきたんだろう……)

 そんなことを思うグリムだった。

 ふざけているけれど、シアンの支援はいつも適切だった。そして、釣る量も、こちらが回復アイテムを使わなくても生き残れるギリギリの量を見極めていた。

 ある日の会話が、脳裏を蘇る。

「ヤツハさんだってまだ魔力高くないんですよ! 魔法が発動するまで時間がかかるんですよ!」

「そこをばっちし見極めてるのがシアンさんの凄いところでな? 君もきちんと観察しておくと財産になるぞー」

 サブマスターの言っていたことは本当だった。シアンは少なくとも、自分より上手かったのだ。初めて釣りという行為を経験して、そんなことを思ったグリムがいた。

 グリムは再び駆け始める。焦燥が心を見たす。自分の釣りのペース次第で、パーティー全体が得る経験値が左右されるのだ。もっと多くの敵を集めなくては。もっと素早く敵を見つけなくては。

 五分後、そこには、地面に倒れ伏している三人がいた。周囲には、十数体のゾンビがうろついている。

「前衛さん。回復アイテム、尽きたんですか?」

 聖職者が不満げに言う。

「いえ、一瞬で襲われて、ヒットポイント持ってかれちゃって……」

「最近良くある悪戯だよ。曲がり角の先なんかにモンスターを集めて放置して、プレイヤーが倒されるのを見て楽しんでる奴がいるのさ。MPKって奴さ」

 PKはプレイヤーキラーの略だ。MPKは、モンスターを使ったプレイヤーキラーということなのだろう。

 ピラミッドでの、シアンの失態を思い出す。

 あれも、MPKのせいだったんだな、とグリムは思い返す。

 地面に倒れて、天井を眺めて、グリムは思う。

 馬鹿みたいだな、と思った。シアンは、無茶苦茶だ。馬鹿みたいな量を釣ってくるし、人の話をろくに聞きはしない。

 けれども、グリムよりよっぽど上手い経験者だったのだ。そんなことに気がつくと、今まで前衛としてのプライドを持って彼女に噛み付いていた自分が、馬鹿らしく思えてきた。



「……ただいま」

 グリムが溜まり場に戻ると、丁度、シアンとシズクとヤツハが、会話に興じているところだった。

「おかえり」

「おう、良く帰ったな」

 ヤツハとシズクが、微笑んで言う。

 シアンは、少し気まずげな表情をしていた。

「シアンさんなしで、初めてこのキャラでタンカーって仕事をやりました」

「……どうだった?」

 シアンは、興味深げに聞く。

「散々でいた」

 グリムは苦笑する。

「敵は中々見つからないし、ヒーラーは防御スキルを使ってくれないし、最後にはMPKに引っかかって潰されました」

「敵を見つけるにもコツがいるからね」

 シアンは微笑む。

「他のパーティーの進んでないルートを進むのがコツだよ。後、支援の腕を見極めるのも実力のうちだ。下手な支援と当たった時は、釣る量を控えたほうが精神的ダメージが少ない」

「……なんでそんなに詳しいんで?」

「シアンさんのメインキャラ、騎士だからね。グリムくんと同じタンカーで。レベルも相当高い」

 シズクが、補足するように言う。

「なんだ、大先輩なんじゃないですか。そりゃ、敵の量を集める見極めとかが上手いわけだ」

 グリムは苦笑する。

「……なんか普段怒られてるだけに、褒められると不気味だな」

 シアンが苦笑顔でそう言う。

 沈黙が、場に流れた。

 シズクは飄々とした表情で、ヤツハはハラハラとした表情でグリムの言葉の続きを待つ。

「今まで、怒ってばっかりで、シアンさんの動き、ほとんど注目してませんでした」

「うん。私は君に見て覚えろって思ってたけどね。動きが本当、素早さタイプから脱しなかったねー。それじゃあ将来的に鉄板パーティーには入り込めないなって思ってた」

「今度から、シアンさんを参考にして、色々勉強にさせてもらって良いですか?」

 シアンは、すぐに微笑んだ。

「タンカー目指してる見所のある後輩だよ。技は好きに盗むと良い」

「二人で沢山集めて、殲滅しましょうね!」

「いや、二人で集められると、私の殲滅ペースがもたない……」

 ヤツハが、躊躇いがちに言う。

「大丈夫、いざとなったら私が二人目の壁になる!」

「シアンさん、聖職者もタンカータイプなんですね。流石です」

「盛り上がってるねえ」

 シズクが楽しげに言う。

「いや、なんか際どい盛り上がりような気もしますがね? 二人が壁になるって、それってヒーラーが一人いなくなるようなものですし……」

 ヤツハが、冷静に言う。

 これからは少し素直になろう。周りの人の動きや意見に注意を傾けよう。そう思ったグリムだった。

 そうしたらもう一度、野良パーティーに参加しようと思った。今度は、独り立ちできるか確認するために。



 それから、数ヶ月の時間が流れた。

 重々しい鎧に身を包み、光り輝く兜をかぶり、身を隠す巨大な盾を持ち、溜まり場で立ち上がる男がいた。

 グリムだ。

「師匠、それでは行きます」

 シアンは微笑んで、それに答える。彼女は座り込んで、手を振っている。

「おう。上級ダンジョン初参加だ。失敗するだろうけれど楽しんでおいで」

「師匠に鍛えられてるから平気ですよ。ノウハウはもう教えてもらいましたし。必要装備もいくつか貸して貰ったし」

「時間が経つのは早いもんだね。あのへっぽこだった君が、今や鉄板パーティーの常連さんだ」

「これからも、バンバンレベルを上げますよ」

「おう」

「今回は、師匠も、一緒に行きましょう? そろそろ、レベルが離れてきています」

「私のステータスは鉄板パーティー向けじゃないからなー」

 ぼやくようにシアンは言う。

「師匠の腕なら、十分カバーできます。というか、師匠の支援が一番心強いです」

「……嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

「行きましょう」

 グリムが手を差し出す。

 シアンは一瞬躊躇ったが、その手を取って立ち上がった。

「ひゅーひゅー、スキンシップだー」

 シズクが、からかうように言う。

「誰がこんな人と!」

 グリムが言う。

「ちょっと待て、お前一瞬前まで人を師匠って呼んでた癖に」

 シアンが不満げな表情になる。

「腕は尊敬しているけれど人間性は尊敬してないんです」

「ほー、上等じゃないか。あれだけ付き合ってやったんだが遊びだったんだな? 傷つくわー」

「そういう言い方が嫌なんですよ!」

「仲良しだねえ」

 ヤツハが微笑んで、そうしめた。

 なんだかんだで、シアンにとってグリムは気になる後輩で、なんだかんだで、グリムにとってシアンは腕を尊敬している先輩なのだ。

 この二人が違った方向に進展したら面白いのだけどな、とヤツハは思うが、どうにもその気配はない。



 クリスマスが近付いてきた。

「クリスマス、暇かー?」

「暇ですねー」

 周囲には雪が降っている。と言っても、ゲームの世界の話だ。二人は寒さなど感じていない。

「情けない奴。クリスマスに予定がないなんて」

「クリスマスイブに予定があるんですよ」

「ほー。マジで」

「バイトの関係でホールケーキを買わされた奴がいましてね? その処理を手伝ってやろうかと」

「涙ぐましいクリスマスイブだ……」

 シアンが笑う。

 グリムは、ただ苦笑する。

「知ってるかい? クリスマスにはダンス大会なるものがあるらしい」

「あー、師匠はそういうの、興味ないと思ってました。メインキャラのお友達とでも参加するので?」

「いや。どうせなら君を鍛えて参加しようと思った」

「……俺の同意は何処へ?」

 というか、結局彼女自身もクリスマスは暇なのだなとグリムは思う。

「知っているかい。シンタとヤツハのカップルは、ダンスをきっかけに打ち解けたらしい」

「つまり……?」

 シアンも一応は性別上は女だ。そう言った話に興味があるのだろうか、とグリムは意外な思いになる。

「つまり、彼らは強力なライバルということだよ」

「あ、なるほど、そういう話ですねー」

「他にどんな話があるって言うんだ?」

 シアンは不思議そうな表情になる。

「いえ、師匠はやっぱり師匠なんだなと再確認しただけです」

(この人は極度のゲーム馬鹿だ)

 それを、今では結構気に入っているグリムがいた。

「じゃあ、踊ろうか」

 シアンが、手を差し出す。

「踊り方なんて知りませんよ」

 グリムは苦笑して、その手を取ろうとする。

 手と手が触れる一瞬、シアンの指が僅かに震えたのが見えた。それを、グリムは捕まえる。

 シアンは、強気に微笑んで見せた。

「だから、鍛えてやるのさ。なんでも師匠に任せておけば良い。みっともない醜態だけは晒さないように善処するぞ」

「了解しました、師匠」

 雪のふる中で、二人は踊りだす。シアンの指示に従って、グリムは動きを変えていく。

「足、踏んだろ」

「そっちこそ、テンポが悪い気がします」

「足を踏んでるからテンポがずれるんだよ」

 狩りのことではしっくりきても、新しいことになるとやっぱり食い違ってしまう二人なのだった。




余談

「シンタくん、レベル、追いついたよー!」

「廃人集団ぱねえな!」

 ヤツハの報告に、目を丸くするしかないシンタだった。

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