思い出すと…
九、思い出すと…
その日の夜、由紀のケータイに真奈美から電話があった。今回の作戦がうまくいったのか、発案者である真奈美はかなり気になるらしい。
真奈美が由紀に尋ねる。
「で、どうだったの?お化け屋敷」
由紀が恥ずかしがりながら答える。
「うん。最初のほうは向井君の腕にしがみつくだけだったけど、最後の最後にドッキリポイントがあったでしょ?あそこで自然と向井君の腕に飛び込んでいた」
「やったじゃん!じゃあ、作戦は大成功ね」
真奈美が電話の向こうで喜んでいるのが良くわかる。由紀が続けた。
「向井君、私のこと意外と怖がりで女の子らしいと思ってくれたみたい。帰り道も手をつないで帰ったし」
「手をつないで帰ったの?いいなあ、ラブラブで」
由紀が反論する。
「ラブラブなんかじゃないよ。ただ自然とね…。真奈美は渡辺君と手はつながなかったの?」
真奈美が残念そうに答える。
「渡辺君、由紀以上にオクテなんだよね。いい雰囲気にはなるんだけど、まだ手をつないではくれないかな」
逆に由紀が真奈美に尋ねた。
「お化け屋敷ではどうだったの?」
真奈美が笑いながら答えた。
「二人でキャーキャー言いながらだったよ。渡辺君、ああいうの本当に苦手みたい」
由紀が言った。
「それはそれでお似合いじゃない、二人とも」
「まあね。まあ、とにかく今回の作戦が上手くいって良かったわ」
由紀が礼を言う。
「ありがとうね、企画してくれて。これで距離が一歩縮まった感じだわ」
「また行こうね、お化け屋敷」
「うん、また行こうね」
そして電話は切れた。一人になった由紀はベッドに横になり、天井を見上げながら、今日一日のことを思い出していた。
帰り道、博仁の方から手を差し伸べてくれたのは意外だった。博仁はシャイなところがあるので、そういうことはしない、と思っていたからだ。ギュッと握ったあの手の感触。そしてお化け屋敷でのあの胸の感触。由紀はこの二つの感触を再び思い出し、そして一人で赤面するのであった。