まずは絶叫コースターから
五、まずは絶叫コースターから
遊園地へと着いた四人は、早速乗り物の方へと向かった。博仁が先頭を切って三人を誘導する。
「まずは絶叫コースターでしょ」
これには、絶叫系が苦手な航が反対した。
「あんなもの、どこが楽しんだか。それよりも3Dライドの方が面白いよ」
由紀は、博仁の案に賛同する。
「私も絶叫コースターがいいなあ」
これには由紀の思惑があった。お化け屋敷の前に、博仁に少しでも可愛らしいところを見せるため、絶叫コースターでキャーキャー叫ぶ、というものだ。
実は絶叫系の乗り物が得意な由紀は、コースターに乗っても特段に騒ぐこともなく乗れるのだが、そこは演技の見せ所。今日の目的が、博仁に対して女の子らしさ・可愛らしさをアピールし、距離を縮めることだから、まずは絶叫コースターに乗って、第一歩目のアピールをしたい、そう考えていた。
形勢が不利になった航は、真奈美に救いの手を求めた。
「永井はどっちがいい?絶叫コースターと3Dライド」
この頃になると、航は真奈美のことを『さん』付けではなく、『永井』と呼び捨てで呼ぶようになっていた。これは、博仁が由紀のことを『櫻木』と呼び捨てで呼ぶので、その影響なのかもしれない。ただどちらにせよ、呼び捨てで呼べるほど二人の距離は縮まっていたのだった。
真奈美が空を見上げながら答える。
「そうだなあ…。私は両方乗りたいなあ」
博仁がしたり顔で言った。
「じゃあ、決まりな。最初に絶叫コースターに乗って、その後に3Dライドな」
航が渋々頷く。由紀と真奈美は嬉しそうだ。そして四人は、絶叫コースターへと向かって行った。
コースターの席順は、前に博仁と由紀、その後ろに航と真奈美となった。真奈美が航に声を掛ける。
「楽しみだね、渡辺君」
「うん…」
航は緊張で、顔が青白くなりながら答えた。その前の席では、博仁と由紀が楽しそうに話をしている。
博仁が由紀に声を掛ける。
「櫻木はこういうの好きなのか?」
由紀が答える。
「好きよ。のんびりしているのもいいけど、こういう絶叫するのも好き」
そうこうしているうちに、コースターの発車時刻となった。ゆっくりとコースターが急坂を登っていく。
由紀が博仁に言った。
「ドキドキするね」
そして、コースターが頂上に到達するや否や、すさまじいスピードで真っ逆さまに駆け降りていく。由紀と真奈美が悲鳴を上げる。
「キャー!!」
博仁も二人に負けじと叫ぶ。
「オー!」
一人航だけが、目を瞑りこの楽しい拷問に耐えていた。こうして四人の楽しい遊園地デートが始まった。