行動あるのみ
三、行動あるのみ
その日の夜、由紀は自室で横になり、ぼんやりと天井を眺めていた。何事にも積極的な由紀が、恋だけはオクテになる。もっと攻めて攻めぬきたいが、どうしても一歩が出ない。そして、いつも博仁の背中を追っているだけになってしまう。友達としては普通に話が出来るのに、好きだと告白も出来ない。どうしたんだろう、私…。
由紀は何故こんなにもオクテになってしまうのか、自分でもわからなかった。博仁の前で特に緊張をしている訳でも、恥ずかしくなってしまう訳でもない。話は出来ている方だと思う。それなのに…。これが恋というものなのかもしれないな。由紀は改めて、博仁に恋していることを痛感したのであった。
すると、枕元に置いてあった由紀のケータイが鳴った。真奈美からだ。由紀がケータイを取り上げ、電話に出る。
「もしもし」
電話口から真奈美の声が聞こえた。
「もしもし、私だけど」
由紀が聞き返す。
「どうしたの?こんな時間に」
「どうしたの?じゃないわよ。作戦よ、作戦」
由紀は実は内心、真奈美の考えてくれる作戦を心待ちにしていたのだった。真奈美の口から『作戦』という言葉を聞いた時、今すぐにでも飛びつきたい気持ちだったが、そんな気持ちは抑えて知らないふりをした。
「作戦って?」
真奈美が興奮を隠せずに言った。
「この前言っていた、向井君とより親密になるための作戦よ」
由紀は出来るだけ平然を装って真奈美に聞いた。
「何かいい作戦でも思いついたの?」
真奈美が自信ありげに答える。
「飛び切りのやつを思いついたの」
「へえ、どんな作戦?」
電話口の向こうから、真奈美の興奮した声が聞こえた。
「お化け屋敷絶叫大作戦よ!」
由紀はその言葉を聞いて、少しがっかりしながら言った。
「お化け屋敷って…。それって男子が良く使う作戦でしょ。女の子を驚かせて抱きしめるって…」
真奈美が諭すように由紀に言った。
「だから、それを由紀から積極的に抱き着くのよ」
「抱き着くって…。私そんなキャラじゃないし…」
真奈美が由紀を説得する。
「そこは演技でも何でも抱き着くの。そうすれば少しは可愛く見えるでしょ?」
由紀が渋りながら言った。
「そんなこと言ったって…。見え見えの作戦じゃない?それって」
「変に遠回しな作戦より、わかりやすい作戦の方が相手も気付くでしょ?」
由紀はまだ納得せずに言った。
「そりゃそうだけど…。うまくいくかなあ」
真奈美が突っ撥ねる。
「それは由紀の演技次第ね」
由紀が自信なさげに答える。
「私自信ないなあ」
真奈美が由紀を奮い立たせる。
「そんなことでどうするの?アタックあるのみよ」
由紀が真奈美に問いかけた。
「どうやって誘うの?」
「私が渡辺君に話してみるわ」
「四人でダブルデート?」
「そういうこと」
由紀はお化け屋敷での自分の姿を想像した。上手く演じ切れる自信はないが、お化けは嫌いなので、自然な演技は出来るだろう。
由紀が言った。
「わかったわ。頑張ってやってみる」
「その意気よ。じゃあ、詳しい事決まったら連絡するわ。またね」
そう言うと、真奈美は電話を切った。
お化け屋敷か、久しぶりだな。由紀はそう思いながら、その日が待ち遠しくなってきていた。