君と僕の世界
僕の世界は真っ白で、僕の周りにはなんにもなかった。
真っ白な地面は、踏み締めるとさらさらと崩れていく。
真っ白な空には、なんにもない。僕の近くにある世界は真っ白だった。
どうやら世界は滅んだみたいだ。
なにもなくなってしまった。なにもかも、なくなってしまった。
僕はなにがあったのか知らない。目が覚めたらこうだった。こんなとこで僕はどうすればいいんだろう。
なんの音もしないし、
なんの匂いもしない。
まるで死んでしまったみたいに。
僕は歩き出した。なんにもないなら、探そうって思ったから。
さくさくと真っ白な地面を踏みしめて、深呼吸。透明な空気。どこまでも透き通ってる。
僕はどうしてここにいるんだろう。そんなことわからない。僕は誰なんだかもわからない。うん、真っ白なのは僕も一緒だ。僕も、世界も、みんな真っ白だ。
歩いた。
歩いたけど、僕にはなにも見つけられなかった。きっと町だったとこを越えて、もしかしたら海だったものを見ながら、真っ白な世界を僕は進んだ。
どこまで行ってもなにもない。
これが世界。
僕の世界だ。
色のない世界はくすんで見える。
けど、同時にきれいだと思う。
さくさく。
さくさくさくさく。
真っ白な地面を踏む音はどこまでも続く。
丘だったものの上で僕はとうとう座り込んだ。疲れて、疲れ果てて、もう眠りたかった。
寝ちゃおう。
きっとなにもかも、夢だから。
これが世界ならあんまりにも残酷だって思った。
目をつぶって、世界は暗くなって。
けど、音が聞こえたんだ。
きれいな音。
僕が初めて聞いた、僕以外のなにかが発する音。
ぱちんと目を開く。
疲れた体を引き起こす。
音。
声?
声だ!
誰かの声がする。
きれいな声。歌ってる。歌が聞こえるんだ。
僕は走った。
どこをどう走ったのかなんて覚えてない。
なんども転びそうになったし、なんども転けた。
けど走った。走り抜けた。真っ白な色んなものを飛び越えながら走った。
真っ白な瓦礫に飛び込んで、真っ白なビルを目指した。
声はそこから聞こえた。
どんどん大きくなる。きれいな歌声。繰り返されるフレーズ。聞き覚えのあるヒットソング。
そして僕は彼女を見た。
瓦礫の上で座り込んで、たった独りで歌ってる。
長い黒い髪や黄色の肌。流行りの服を着て、楽しそうに歌ってる。
その瞬間、僕の世界は色を見つけた。
音が止む。
彼女は大きな瞳で僕を見る。
ぱちぱちと瞬かせて。
にぱっと笑った。
「あははっ、人だ人だ! ね、ね、君、名前、教えてよ!」
笑って、彼女は手を僕に差し出した。
「僕はね――――」
言って、僕はなんと答えようと考えながら、彼女の手をとった。