表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

君と僕の世界

作者: 鉛空 叶

 僕の世界は真っ白で、僕の周りにはなんにもなかった。

 真っ白な地面は、踏み締めるとさらさらと崩れていく。

 真っ白な空には、なんにもない。僕の近くにある世界は真っ白だった。


 どうやら世界は滅んだみたいだ。

 なにもなくなってしまった。なにもかも、なくなってしまった。

 僕はなにがあったのか知らない。目が覚めたらこうだった。こんなとこで僕はどうすればいいんだろう。


 なんの音もしないし、

 なんの匂いもしない。


 まるで死んでしまったみたいに。

 僕は歩き出した。なんにもないなら、探そうって思ったから。

 さくさくと真っ白な地面を踏みしめて、深呼吸。透明な空気。どこまでも透き通ってる。

 僕はどうしてここにいるんだろう。そんなことわからない。僕は誰なんだかもわからない。うん、真っ白なのは僕も一緒だ。僕も、世界も、みんな真っ白だ。


 歩いた。


 歩いたけど、僕にはなにも見つけられなかった。きっと町だったとこを越えて、もしかしたら海だったものを見ながら、真っ白な世界を僕は進んだ。

 どこまで行ってもなにもない。

 これが世界。

 僕の世界だ。

 色のない世界はくすんで見える。

 けど、同時にきれいだと思う。

 さくさく。

 さくさくさくさく。

 真っ白な地面を踏む音はどこまでも続く。

 丘だったものの上で僕はとうとう座り込んだ。疲れて、疲れ果てて、もう眠りたかった。

 寝ちゃおう。

 きっとなにもかも、夢だから。

 これが世界ならあんまりにも残酷だって思った。

 目をつぶって、世界は暗くなって。

 けど、音が聞こえたんだ。


 きれいな音。


 僕が初めて聞いた、僕以外のなにかが発する音。

 

 ぱちんと目を開く。

 疲れた体を引き起こす。


 音。


 声?


 声だ!


 誰かの声がする。

 きれいな声。歌ってる。歌が聞こえるんだ。

 僕は走った。

 どこをどう走ったのかなんて覚えてない。

 なんども転びそうになったし、なんども転けた。

 けど走った。走り抜けた。真っ白な色んなものを飛び越えながら走った。

 真っ白な瓦礫に飛び込んで、真っ白なビルを目指した。

 声はそこから聞こえた。

 どんどん大きくなる。きれいな歌声。繰り返されるフレーズ。聞き覚えのあるヒットソング。

 そして僕は彼女を見た。

 瓦礫の上で座り込んで、たった独りで歌ってる。

 長い黒い髪や黄色の肌。流行りの服を着て、楽しそうに歌ってる。

 その瞬間、僕の世界は色を見つけた。


 音が止む。

 彼女は大きな瞳で僕を見る。

 ぱちぱちと瞬かせて。

 にぱっと笑った。


「あははっ、人だ人だ! ね、ね、君、名前、教えてよ!」


 笑って、彼女は手を僕に差し出した。


「僕はね――――」


 言って、僕はなんと答えようと考えながら、彼女の手をとった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ