第二十二話 御曹司、亡魔領を目指す
「あたし、デルヴェ亡魔領に行ってみたい」
「ん、良いよ」
お抱えデザイナーの当然の申し出に、御曹司はあっさりと頷く。拍子抜けしたのはアイリスのほうだ。
「い、良いの?」
「良いよ。別に止める必要はないからね。君のレベルで挑むにはちょっと難しいフィールドかもしれないけど」
それだけ言うと、イチローはキルシュヴァッサーの入れたお茶を口に運ぶ。君がそうしたいなら、そうすれば良いんじゃない、という実に御曹司らしい態度に、アイリスは不安を覚えてしまう。もちろん、その不安の正体にはすぐに気づいた。
「え、えっと……あたし一人じゃなくて御曹司とかにも来てほしいんだけど……」
「ああ、そういうことか」
「普通そうでしょ!?」
「ナンセンス。君が〝したい〟と言えば君はそうするべきだけど、それを僕に強要する権利はアイリスにはない。もちろん、世界中の人間誰一人だってそんな権利は持たないけどね。僕を従えることができるのは僕だけだ」
いつものように、ひとことで済むような自分理論を滔々と語るイチローには辟易とする。はいはい、と聞き流しつつも、結局ついてきてはくれないのか、という落胆がアイリスの肩を落とした。デルヴェ亡魔領は遠く、途中、やはり多くのモンスターが闊歩する大砂海が横たわっている。行くだけで良いとは言え、さすがに彼女の実力では辛い。
そんなアイリスの胸中など当然知る由もなく、イチローは言葉を続けた。
「ただまぁ、それはそれとして僕もグランドクエストに興味が無かったわけでもないからね。一緒に行こう」
二度目の拍子抜けに思わずずっこけそうになる。
「あんた最初からそう言えば良いじゃない!」
「結論に至るまでの思考過程は重要だよ。そこに人間の性格が出るからね」
「そーね! あんたを見てると本当にそう思うわ」
ここでキルシュヴァッサーが笑いながら介入をしてくるまでがお決まりのパターンだ。
「まぁ、良いタイミングではありますな。今はオーダーメイドの依頼も受けておりませんし」
グランドクエストほどの規模になると、多くのプレイヤーは実力的に多少無理をしてでも最前線の開催地を目指す。その中には、攻略に躍起になるガチ勢だけではなく、ゲーム世界そのものを楽しもうとする趣味勢も混じるわけで、アイリスブランドに防具作成の依頼をしてくるようなゲーム内富裕層も含まれた。
要するにグランドクエストの間、ほとんどヒマが確定したようなものであるのだ。先日の映画公開日より、このグラスゴバラも多くの『キリヒト』で賑わってはいるが、彼らがこのアイリスブランドの扉を叩くことはない。
イチローは、机の上にソーサーとカップを置く。
「過程が大事だと言った手前もあるからね。聞いておこう。アイリスはどうしてデルヴェに?」
「大したことじゃないわよ。昔ギルド組んでた友達がグランドクエスト参加してるっていうから、顔が見たくなっただけ」
「なるほど。私もかつて開放クエストに参加する際は野良ギルドを組んでおりましたよ。彼らも今頃は最前線で頑張っているのでしょうな」
キルシュヴァッサーもなにやら懐かしげに目を細めた。このゲームがサービスを開始してから1年も経たないが、そこは人に歴史ありといったところだろうか。イチローも得心がいった様子で(いつもそんな顔ではあるが)メニューウィンドウからコンフィグを開いている。
「僕と卿はいつでも行けるよ。ポーションとかは用意しておこう」
「あんたまたそうやって無駄遣いする……」
「ナンセンス。レベルの低い君を守りながら戦うわけだから準備をして無駄ということはないよ。まぁ、僕にとっては無駄かもしれないけどね」
「ははは。どのみちカバーリング役はこのキルシュヴァッサーめが承りますからな」
ギルドメンバー共有のアイテムインベントリに、ポーションやら疲労回復剤やらがめまぐるしい勢いで増えていく。こういったところはまるで変わっていない。
余談になるが、インベントリにはすでに以前イチローが購入した盗賊体験パックの中身、すなわち《サーチトラップ》などのアーツジュエルもこんもりと溜め込まれていた。先日ギルドレベルを上げた際に、共有インベントリを拡張するギルドスキル《大型倉庫》を取得せざるを得なかったのだが、この様子を見るに焼け石に水という奴のようだ。
「そういえば、アイリスはかつてのパーティではどのようなポジションを?」
「なんか中途半端な感じだったわ。サポート魔法職って感じ。錬金術師と魔術師だからそんなもんよね。聖職者の子は別にいたんだけどさ、回復が間に合わないときはポーション投げたりしてた」
「《ポーションマイスター》持ちですか。心強いですなぁ」
「そうだね。もう少し多めに買っておこうか」
「使いきれないわよ……」
お抱えの調合師を持つギルドであっても、ここまでのポーションセレブにはなれないだろう。アイリスは《錬成》のスキルレベルが大して高くないのでそこまで高性能の回復アイテムは調合できないし、ポーションの作成にも疲労度蓄積や素材の消費があるので、タダで手に入ることに異論はないのだが。
いやいや、タダではないし。1パック525円とは言え、現実のオカネが動いているのだし。インベントリに収納されるポーションの数から経費を逆算すると発狂してしまうだろうから、やらない。無意識に暗算してしまうほど数学が得意でないことが有利に働くなどというのも、人生においては稀有な経験と言える。
「じゃああとはあたしの準備か……。とは言っても、特にやることないのよね」
「防具は新調してしまいましたしな」
アイリスの防具も当初は味気ない初期装備、すなわちアルケミストローブだったのだが、この一週間近くでアイリスブランドの経営がやや軌道に乗ると、彼女もオリジナルデザインの防具を製作する運びとなった。服飾ブランドギルドのデザイナーが『紺屋の白袴』では格好がつかないというのは御曹司の意見だが、もっともな話ではある。
とは言え、現実世界ではイケイケ(死語)専修学校生としてアパレルデザインに魂を注ぐ杜若あいりも、ここではじゃっかん日和る。さすがに全身をフルプレートメイルで固めた戦士や、すっぽりと包み込むようなマジカルローブにつつまれた魔術師が主流である世界において、『夏の最新レディースファッション!爽やかな花柄パンツとモモンガドルマンカーデで彼のハートもいただき!』なんてコピーのつきそうなファッションデザインをやる気にはなれないのだ。周囲の反応だってモモンガドルマン? なにそれオーバーロード? てなもんである。
まぁ、元々の衣装がアルケミストローブであるのに加えて、社長兼広告塔のイチローがあんな服を着ているのだから、結局遠からぬデザインになってはしまったのだが。上着などはポケットデザインのカットソージャケットになってしまって、やはりこれが往来で目立つ。現実世界では『ちょっとシックで大人の女性を演出!』なんて声高に叫べそうではあるのだが、御曹司と並んだりすると悪目立ちしそうで恥ずかしい。
「キルシュさんの防具もデザインしてあげるのに」
だから、この言葉も親切心ではなく、『同じ苦痛を味あわせてやる』という怨霊じみた感情に由来する。
「ははは。私はこの全身甲冑を気に入っておりますので」
しかし、この老練の騎士は、そんな彼女の言葉を見透かしたかのように笑うのであった。
ともあれ、まだまだ強化の余地があるとは言え、それなりに高級素材と高級設計図を用いた新防具である。アイリスのレベルからすれば望むべくも無い高性能でもある。デルヴェ亡魔領へ向かうのに、改めて装備を新調する必要もないのだ。
「出かけている間、店のほうはどうしましょうな。オーダーメイドの依頼は当然ストップするとして」
「あぁ、そうだね。ロビーのほうにはアイリスが作った防具があるんだっけ」
数は少ないが、ロビー販売している防具もある。依頼を受けて作ったものではないが、いずれもオリジナルデザインの一点モノであるため、やはりときおり訪れた好事家がファッション装備として購入していく。
アイリスとしては徐々に慣れてきたものの、それでもあのような仰々しい場所で、さも高級ファッションであるかのように展示されている自らのデザインを見るのは、なにやら気恥ずかしい思いだ。アクセサリーの売り上げに一喜一憂していた頃に比べ、なんとも贅沢な悩みではある。
イチローは笑顔でこんなことを言う。
「じゃあ全部持っていってデルヴェで現地販売しようか」
「絶対にやめて!!」
とまぁ、こんな流れで、結局は売り子アバターを配置して出かけることになった。
アスガルド大陸の地理を言葉で簡潔に説明するのは難しい。
ひとまず、現在イチロー達が拠点とするグラスゴバラ職人街は、中央よりやや東方に位置する街だ。大陸の東端には始まりの街があり、冒険者たるプレイヤー達は開拓のために西を目指す。初心者を卒業する頃には、プレイヤーはヴォルガンド火山帯を越えてグラスゴバラに到達し、腕利きの生産職プレイヤーが用意した装備を整えて更に西へと向かう。
幾らかの小さな村、街を抜けたところに広がるのが、大砂海だ。
あまりにも広すぎるフィールドのため、NPCが運営する〝砂上船〟サービスを用いて移動するのが原則である。亡魔領へ赴くにはここを西へ直進しなければならない。
砂海から北へ行けば〝死の山脈〟、南へ行けば〝中央魔海〟と呼ばれる広大な湖があり、どちらもデルヴェ亡魔領に劣らぬ高レベルMOBが跋扈する。かなり早い段階から、次に開放クエストが行われるのは亡魔領であると言われてきたため、攻略や検証が進んでいるのもデルヴェではあったが、公式にグランドクエストの存在が告げられてからは訪れるプレイヤーの数も増えた。
「まぁそのくらいはあたしも知ってるんだけどさ」
砂上船のデッキで、御曹司の広げたブラウザを覗き込みながらの台詞だった。
当然だが、ナロファンの世界にも『気象』の概念はあり、現在の大砂海は『大しけ』。吹き荒れる風が砂を巻き上げ、飛礫のように彼らを叩く。一定の【防御】値と《痛覚遮断》さえあれば気にもならない。先日から続くこの気象は、デルヴェ亡魔領でおきている異変が原因だと、NPCは口を揃えて発言していた。
「やっぱ広いの? 亡魔領も」
「うん。かつてアスガルドが栄えたとき、中心部として栄えた都市だったんだろう。と、みんな言っているね。その割には周囲に川も海もなくて、地理設定甘いなって思うけど、まぁゲームだからね」
「あんたって本当に重箱の隅を突っつくというか……興醒めなことを平気で言うというか……」
「ナンセンス。正直なだけだよ」
「正直って、必ずしも美徳じゃないのよね……」
その広大な亡魔領にて新たな地下ダンジョンの存在が明らかになり、冒険者協会は調査のための人員を集めている。グランドクエストの概要はそんなところだ。いわゆるフィールドの〝深奥部〟にあたる場所であり、転移アイテム〝ワープフェザー〟が使用できない危険な探索行である。
今までの開放クエストの傾向から言って、ダンジョン探索にてフラグを立てることでボスMOBが出現し、それを退けることでクエスト終了となるのだろう。と、言うのが大方のプレイヤーの意見であった。開放後は亡魔領が消滅し、新たな都市マップが上書きされるという噂もあり、クエストの進行そっちのけで亡魔領限定のMOBからドロップアイテムをせしめているプレイヤーもいる。
「名前の通り、アンデッド系のモンスターが多いのも特徴です。ポーションを投げつければ固定ダメージが入りますので、共有インベントリの中身は存分にご活用なさると良いですな」
そう言うキルシュヴァッサーは、彼らの後ろで〝馬〟の手入れをしていた。
馬を始めとした騎乗動物はギルドとして購入が可能なアイテムだ。アイリスブランドとしても、素材収集の際の足や荷物運びにと購入したのだが、実際は騎士として騎乗強化スキルを複数持つ彼個人の所有物と化している。黒い毛並みのサラブレッドはキルシュヴァッサーによって『オウカオー』と名づけられ、なかなか可愛がられていた。
「そんなこと言って、インベントリがいっぱいだとドロップ持って帰れないから消費させたいんでしょ?」
「そうでもありますが」
砂の飛礫にまみれても顔色ひとつ変えないオウカオーの毛並みを撫で付けながら、キルシュヴァッサーは言う。単なるアイテムであるオウカオーに感情はなく、吹き付ける砂粒にはNPC同様平然としていた。
やがて、砂によって霞む視界の向こう側に、目印となる巨大生物の骸が見え始めた。砂上船は肋骨の合間を縫って進んでいき、一行は徐々にデルヴェ亡魔領へと近づいていく。
「御曹司、亡魔領ついても大人しくしててよね。できないでしょーけど」
「ナンセンスだなぁ。できないと思うなら口にしなければ良いのに。できなくはないけど、しないだけだよ」
「そーゆーのを世間的にはできないっつーんでしょうが! あたしの希望を口にしただけよ! あたしに恥をかかせる頻度を減らそうとか、そういう殊勝な態度をあんたに少しでも期待したいなっつってんの!」
「僕の行いで君が恥を感じる必要なんてないのに。少なくとも僕は感じないよ」
『よう、デルヴェ亡魔領に着いたぜ』
「「ありがとう」」
空気を読まずに割り込んでくるNPCに、二人で仲良く礼を言い、砂上船を降りる。キルシュヴァッサーもオウカオーの手綱を掴んだまま、ゆっくりとタラップを歩いてきた。目の前には大きなゲートがあり、シティマップとフィールドマップを区切っている。ここをくぐれば、亡魔領攻略の前線基地である小さな入植地だ。
「あんたが変なことして目立つと、こっちが恥ずかしいのよ。あんたがエドワードぶちのめした後とかだってそう。とんだ晒し者だったわ」
「うん、なるほど。それに対してはなんとも言えないな。僕はやりたいようにやるだけだからね。それが客観的に変なことなのかそうでないかは、割とどうでもいいことだと思ってるし」
「あぁー、もう……。既に嫌な予感しかしないわ。根拠なんかないんだけど……」
彼らがゲートをくぐると、それまでとは一変して砂嵐のエフェクトが穏やかになる。もちろん、街の中に吹き付ける砂飛礫の演出はあるし、多くのNPCは防塵のためにマントで全身を覆っていたのだが、視界が遮られて利かなくなるというほどのものではない
「うわぁ……」
アイリスの声から漏れた声には、感嘆の色が滲む。
その狭苦しい街にひしめいているのは、彼女のような低レベルプレイヤーからすれば見たこともないような、トッププレイヤー達の姿である。いや、当然イチローやキルシュヴァッサーもそうした〝トッププレイヤー〟の一員として見なすことはできるのだが、そうしたことではない。
なんといってもナロファンの最前線を支える攻略プレイヤー、探索プレイヤーだ。彼らは一様に屈強であり、たとえ細身であったとしても、身に纏う装備の豪奢さや、一切の澱みない挙動から読み取れる雰囲気は、素人目にも単純な〝凄み〟として伝わってくる。
かつての仲間達の姿を探し、アイリスも視線をこらしたが、システムのディティール・フォーカスは彼女に見知った顔を映し出すことはなかった。
「おや、キリヒトだ」
「キリヒトですな」
イチローとキルシュヴァッサーがぽつりと言うのを聞いて、アイリスも反射的に顔を向ける。
「なに言ってんの。別にキリヒトなんか珍しくも……、キリヒトね……」
そう、キリヒトだった。
一人や二人ではない。彼らの視線の先には、それぞれ微妙にパーツが違うものの、皆やや童顔気味で、髪は黒く、衣装も黒く、背はやや低く、そして一様に直剣を携えた『キリヒト』の集団がいる。キリヒト達はみな、このレベル帯にしては性能不足とも言えるタイアップ防具の襟元に、オリジナルデザインの紋章をテクスチャしていた。
「何よあれ。なんか気持ち悪いんだけど」
「〝ザ・キリヒツ〟という戦闘ギルドですな。DFOの熱狂的なファンが始めたギルドでして。入会資格は〝キリヒトであること〟だそうです。まさか、曲がりなりにもグランドクエストに参加できるほどの勢力にのし上がっているとは」
こちらの話し声が聞こえたのだろうか。ザ・キリヒツのリーダーと思しき(アバターネームが〝キリヒト(リーダー)〟だった)男が、こちらにつかつかと歩いてくる。
「これでも苦労はあったんだぜ。みんな戦士だからバランス悪いしな」
「でしょうね……」
「あんた達も有名人みたいだが、よくグランドクエストに顔出したもんだ。アイリスブランドだろ? まとめサイト見たぜ」
「その話は可及的速やかに忘れて!」
顔から火が出る勢いで叫ぶアイリスとは対照的に、当然御曹司の顔は涼しげだ。
「夏の小旅行みたいなものだよ。せっかくの一大イベントだし」
「ふーん。クエストの受注は済んだのか?」
「いや、まだかな。あそこの仮設支部でやるんだろう?」
イチローの視線の先には、砂にまぎれてしまいそうな味気ない色合いの平坦な建物がある。もともと亡魔領の入り口にあった遺跡のひとつで、関所か兵士の詰め所であったと推測されていた。それを、現在は冒険者協会の仮設支部として使用している。
という設定だ。当然プレイヤーが訪れた当初からそこは仮設支部だった。
「ああ、グランドクエストだからなー。中にゲームマスターがいるんだ。そいつに話しかけて登録すりゃオッケーだよ。個人としてでもギルドとしてでも、どっちでもできるけど」
キリヒト(リーダー)は親切な男のようである。実際はキルシュヴァッサーがそれなりに経験豊富ではあるのだが、イチロー自身にグランドクエストへの参加経験がないことを察して、あれこれ詳しく教えてくれた。
ゲームマスターと聞いて、イチローは先日シスル・コーポレーションの本社を訪れたことを思い出す。レストルームに配置された三台のミライヴギア・コクーン。このグランドクエストの規模を考えると、現在はその三台がフル稼働してイベントの進行を担っているのだろう。当然、ここ以外でGMコールが為されれば、飛んでいくものだと思われる。
「ありがとう、キリヒト。君たちは没個性的ではあるけれど、よくできた人間みたいだ」
「そーね、あんたとは真逆ね」
ぼそりと口にするアイリス。キリヒト(リーダー)は、このイチローの物言いに怒るでもなく、むしろ照れくさそうに頭を掻いた。
「そうなんだよ、確かに俺たち、DFOのファンとしてこんな格好してるけど、プレイヤーとしての個性はあんまないよな」
いきなり何を口にするのだろうと思った。だが、それは別に自虐というわけでもないらしい。
「俺たち〝ザ・キリヒツ〟がデルヴェにやってきたのは、実はグランドクエストの参加自体が目的ってわけじゃないんだ」
「へぇ。じゃあ、なんだい。開放後手に入らなくなるであろうアイテムを今の内に掻き集めておこう、っていうのは、あまりキリヒトらしい話じゃないね」
「もちろん違うさ。実は、このデルヴェ亡魔領の最前線で戦うソロプレイヤーがいるんだ。そいつに、会ってみたくてね」
ちょっと驚いたように眉を動かしたのは、キルシュヴァッサーだった。
「ソロプレイ……ですか。この、デルヴェ亡魔領で?」
「あぁ、凄いだろう? 彼は黒衣を纏い、直剣をメインウェポンとする戦士らしい」
「なるほど。確かにあなた方が会いたくなる理由もわかりますな。それはまるで……」
言葉は皆まで言うまい。イチローやアイリスも理解はしたようだった。特にイチローは、それまでの涼やかな顔に少し別の色の感情を混ぜ、吹きすさぶ風の音を聞くように静かに目を閉じている。
キルシュヴァッサーが区切った言葉を、キリヒト(リーダー)は続けた。
「そう、彼はこう呼ばれている。本当のキリヒト。最強のキリヒト」
すなわち、キング・キリヒト。




