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VRMMOをカネの力で無双する  作者: 鰤/牙
『アイリスブランド』編
10/118

第九話 御曹司、職人街をぶらつく

 〝グラスゴバラ職人街〟には、思っていたよりも早く到着した。イチローは、歩きながらウィンドウを開き、専用ブラウザで〝ナロファン用語wiki〟を閲覧する。この街はサービス開始から2ヵ月後、大々的に行われたグランドクエストで開放された街だ。この一帯を支配していた火山竜ヴォルガンドを打ち倒し、ドワーフを始めとした多くの技術者の入植地を確保した。参加した全てのユーザーにはレアアイテム『ヴォルガニック合金』が配布され、NPC職人や鍛冶師ブラックスミスプレイヤーの手によって、強力な武器・防具が開発された、という経緯を持つ。

 しかし、訪れてみたはいいものの。

 ここで自分の望む防具が作ってもらえるかというと、なにやら難しい問題な気がしてくる。多くの生産職プレイヤーが暮らしていると思われる建物からは、甲高い錬鉄の音が鳴り響き、軒先に並べられた装備アイテムも、鎧やら兜やらの類が大半を占める。もちろん、金属製のものばかりではなく、強力なモンスターの皮や鱗を加工したと思しきものも散見されるが。


 レザーアーマーよりは自分好みとは言え、今の課金装備自体、鎧という体裁を取っている以上違和感を感じてしまう。何より、どうもオリジナリティに欠けて見えるのだ。用意されたグラフィックに少しばかり手をくわえたものが大半であって、どれもこれも同じものに見えてしまう。


 少しばかり暗澹とした気持ちにながら、路地を歩く。もちろんイチローとしては、それぞれの店から嬉々とした笑顔を浮かべて出てくるプレイヤーを嘲笑するつもりなんてないのだが。あまり自覚はないが、要するに彼は自分が特別で無いと納得できないタチなのである。子供といえばそれまでだが、その子供な部分が是正できる者が現れないまま大人になってしまったのも事実だ。


「よう、兄ちゃん。課金プレイヤーか?」


 背後から野太い声が響いたので、振り返ってみる。でっぷりとした腹を抱え汚らしい口髭を蓄えた、背の低い男。あまりにもドワーフ然としたその姿に、まずはNPCかと疑ったが、NPCは『課金プレイヤーか?』などと聞いてきたりしない。何より、頭上にはプレイヤーを示すアイコンとアバターネームが浮かんでいる。

 その名前が『↓こいつ最高にアホ』というのにも面を食らったが、何より驚くのはその容貌だ。

 自分の姿を偽れるVRMMOである。ネカマが減ったとは言え、現実世界よりも整った容姿、顔立ちにしたいと思うのが、一般的な人間の感情である。『↓こいつ最高にアホ』氏の外見は、そういった方向性とは真逆を行っているように思えた。


 なかなか、個性的な人間だ。ドワーフだが。


「お、なかなかイケメンだな。まぁ、現実世界でもそうとは限らねぇが」

「ナンセンス。現実世界の僕もこんなものだよ」

「そうかいそうかい」


 アホ氏はガハハと笑って、腹を揺らした。


「課金プレイヤーがここに来るってぇと、目的はなんだい。ポーションからミサイルまで、何でも揃うのがこのグラスゴバラの良いとこでな」

「ポーションは間に合ってるし切らす予定もないよ。実は防具を新調したくてね」

「ほほう」


 アホ氏は、そのギョロリとした目を細めて、イチローの鎧を眺める。

 イチローを一目で課金プレイヤーと見抜いたからには、アホ氏もこの防具が課金装備の類であることは知っているはずだ。そうありふれた類のものでもないだろうが、そこまで稀少な装備でもない防具である。レアリティで言えば、おそらく彼自身がドラゴネットであるということのほうが高い。


「いや失敬、俺は《鑑定眼:防具》を持っていてね」

「ふうん。大体の性能や耐久度がわかるってスキルかな。生産職をやるには便利そうだね。客引きのきっかけにもなりそうだ」

「ガハハハハ。いやぁ、ご明察だよ。見たとこ、新調するほど耐久度は落ちてねぇみてぇだが?」

「ナンセンス。僕は僕だけの防具が欲しいんだよね」


 なんとも増長した我が侭な物言いではないか。彼が身につけている防具だって、欲しくても手を出すか迷う学生ユーザー諸氏は多いだろうに。これが3桁にのぼる買い替えを行ったと知れば、卒倒する者だっているのではないか。

 だが、そんな事情も知らぬであろうアホ氏は、こんな言葉を口にする。


「まぁ兄ちゃんは気づいてるだろうからぶっちゃけるが、当然こいつは客引きさァ。俺がリーダーやってるギルドは、〝アキハバラ鍛造組〟っていう、生産ギルドでね」

「ふぅん、〝アキハバラ鍛造組〟ね……」


 ウィンドウからブラウザを立ち上げ、用語wikiで調べてみると、あっさり検索に該当した。

 有志の立ち上げた用語wikiに名前があるくらいだから、それなりに地力のある組合なのだと思ったが、〝アキハバラ鍛造組〟は、グラスゴバラを拠点に活動するナロファン最大の生産職ギルドだ。グランドクエスト終了後、そのまま職人街に拠点を造り、NPCからの素材流通、周辺に出現するモンスター素材の検証を行った、筋金入りの生産職集団である。

 彼らに睨まれた生産職プレイヤーは、グラスゴバラでは商売できないとまで言われていた。ここまでいくと嘘っぽいが、力のある生産者集団が流通を掌握することは、ままある話だ。完全な眉唾でもないのだろう。


「そんなギルドのリーダーが、ふらふら出歩いていて良いの?」

「いやいや、最大の生産職ギルドっつっても、日がな一日ハンマーぶったたいてるわけでもねぇんだよ。噂を聞いて装備を買いに来てくれる客はいるんだけど、兄ちゃんみたくオーダーメイド希望って奴はそう毎日こねぇしな」


 武器や防具に存在する耐久値は、生産職のプレイヤーであれば誰でも回復させることができる。ただし、プレイヤーが作ったものに関してはその限りでなく、プレイヤーが鍛えた装備アイテムは、そのプレイヤーのスキルレベルを上回る《製鉄》スキルを持っていなければ、耐久値を回復させることができない。

 生産職プレイヤーのトップ集団である〝アキハバラ鍛造組〟が作った武器や防具であれば、それを鍛えなおせるプレイヤーもなかなかいない。彼らの顧客は、そうした耐久値の回復や、レベルに合わせた性能の鍛えなおしを求めるリピーターが大半を占めるのだそうだ。


「うーん、経済だなぁ……」

「俺は秋葉原で小さな電気屋やってんだよ。ぶっちゃけ規模は鍛造組のがでけぇし、通販でパソコンのパーツ売ったりしてるせけぇ店なんだけどな」


 そのノウハウをギルド運営にも生かしているというのは、本当か嘘かわからない話だ。

 とりあえず立ち話もなんであると、アホ氏はイチローをギルド所有の工房に案内してくれることとなった。イチローも、わずかな期待感を持って、この風変わりなドワーフの後ろを歩くことにする。その名前や風体から伝わる、独特の美意識ならば、あるいは、と思ったのだ。オリジナリティは、イチローがもっとも愛する要素である。


 アキハバラ鍛造組のギルドハウスは、グラスゴバラでも有数の巨大建造物のひとつを完全に独占しており、〝グラスゴバラUDX工房〟という、どこまでが本気なのかよくわからない看板がかけられている。中には、完成済み装備アイテムの販売コーナーがあり、見たこともないような武器や防具を装備したユーザーや、最近イチローも顔を出すようになった攻略最前線〝デルヴェ亡魔領〟などで見かける装備を身につけたユーザーの姿もあった。

 いずれのプレイヤーも、素の地力はもちろんだが、金銭的余裕ガルトをしっかり蓄えていることが、その立ち振る舞いから伺える。その点で言うと、課金防具に初期武器メイジサーベルというイチローの姿は、かなりの『貧乏人』に見えたのではないだろうか。もちろん、外部の評価などナンセンスと一蹴するイチローのスタンスからは、何の歯牙にもかからない問題である。


「兄ちゃん、ドラゴネットの課金ユーザーっていうからあっさり連れてきちまったが、もちろんこっちの方はあるんだよな?」


 人差し指と親指で輪っかを作りながら、アホ氏が振り向いてくる。


「ナンセンス。下品なハンドサインだね。足りるかはわからないけど、800万くらいだな」

「最前線クラスでもそんなにいかねぇぞ。そんなに稼ぐまでその防具で戦ってきたんか。大したもんだぜ」

「防御力は《竜鱗》があるから、そんなに大して必要じゃないんだ。この防具はスキルスロットが多いから、性能面で不満はないよ」

「じゃあ、兄ちゃんの期待に沿うようなスロット数の防具を作ってやらねぇとな」


 ドワーフのヒゲ面に、にんまりとした笑みが浮かぶ。現実世界ではPCパーツショップを経営していると言っていたか。オリジナルパソコンだって、オーダーメイド防具と同じで一点モノだ。ユーザーの要求に応じて、パーツや素材を探すのが好きなタイプなのだろう。職人肌であると言えた。

 実は、『↓こいつ最高にアホ』氏にとっても、イチローは得がたい顧客であった。金払いが良さそうなことは言うまでもない。加えて、オリジナリティのある防具を欲しがり、防御力よりもスキルスロットの数を求めるなど、最近の一線級プレイヤーではなかなか見かけない、やや尖った要求が、アホ氏の職人魂を刺激したのである。


「親方、お帰りなさい」

「親方はよせよ。ああ、兄ちゃん。こいつはエド。俺の一番弟子だ」


 工房に足を踏み入れたとき、最初に紹介されたのは、背の高く肉付きのしっかりした男だった。この暑そうな工房においても、全身甲冑フルプレートアーマーという気合の入り用。《痛覚遮断》を取得しているのならば、まぁ、熱による不快感はあまり関係ないのだろうが。ゲームである以上、その熱で鎧が変形することもない。

 その男は、イチローが今まで見たことのない種族であった。プレイヤーにとっての人気種族は、人間かエルフ、獣人あたりで、次いでホビット。ドワーフはかざりっけの無さからか、最前線でもあまり見かけなかった。頭上に『エドワード』と表示された青年は、そのいずれにも該当しない。


「エドはマシンナーでな。兄ちゃんと同じ、プレミアムパックのユーザーってわけだ」

「……よろしく」

「あぁ、よろしく頼むよ。紹介してくれたということは、彼が僕の防具を作るのかい?」

「兄ちゃんの要求するラインは高そうだからなぁ。俺がやってもいいんだけど、エドに修行させてくれるってんならお願いしたいね」


 マシンナーは、アスガルド大陸で発見された機械仕掛けの人間という設定の種族である。プレミアム種族の中でも、物理特化のドラゴネット、魔法特化のハイエルフに対し、どちらとも言えない非常にトリッキーな種族スキルを持つらしい。それがまさか、こんなところで鍛冶師ブラックスミスをやっているとは思わなかったが。


「じゃあ、エド」


 いきなり愛称呼びされたことに、エドの態度が硬直する。表情に変化がないのは、マシンナーという種族特性ゆえか。実は、そうとう嫌がっている可能性はある。


「君の作った防具をちょっと見せて欲しい。作る工程でも構わないけどね」

「はい、わかりました」


 エドの抑揚の無い声に案内されて、イチローは工房を進んでいく。アホ氏も後ろからついてきた。

 イチローは、自身の趣味でスキル欄から《痛覚遮断》を外している。これは別にマゾヒストというわけでもなんでもなく、単に野々あざみ達がプログラミングした世界観を、極力隅々まで体験したいという、彼にしては珍しい殊勝な心がけによるものだ。そもそも《竜鱗》によるダメージ軽減、《体術》による回避能力の強化もあって、激痛を身に受けることなどほとんどないのだ。

 少し話題がそれた。《痛覚遮断》を外したイチローの感覚神経には、この鍛冶場に設定された気温ステータスが、直に張り付いてくる。そこかしこでは、ギルドに所属する鍛冶師プレイヤーが、各々の思うままにハンマーを振るっていた。


 ハンマーで鉄を叩く動作など、鍛冶師専用アーツ《アイアンフォージ》によって引き起こされるモーションでしかない。その付加効果と《製鉄》《錬成》などのスキル効果の複合によって、素材アイテムが合成されるのだ。当然、スキルレベルやアーツレベルなどによって成功率は変化し、数値的なボーナスも付与される。

 つまり、彼らプレイヤーは、技術的な知識など一切なく、ただ闇雲にハンマーを振り回しているだけなのだが、それでもこうした光景は、『素人』を圧倒する何かを孕んでいる。


「いま、俺が作っている防具がこれです」


 そう言ってエドが示した金床の上には、複数の素材アイテムが無造作に転がっている。


「スキルの《防具生成》があるので、これを適当に叩くだけでも防具はできますが……これを使います」


 そう言って、エドはアイテムウィンドウを呼び出し、その中のひとつをドラッグ&ドロップで素材アイテムの上にくべた。

 『設計図レシピ』と呼ばれるアイテムは、ある程度要求された性能の武器・防具を作る上では必要不可欠なものである。グラスゴバラのNPC商人から購入でき、錬金術師アルケミストや鍛冶師が購入する際は大幅に値引きされる。ただ、基本的にオーダーメイドの場合は、客のほうが設計図を購入するべしという暗黙のルールがあった。おかげで、こうした工房の店先に並ぶ、職人の気まぐれで作ったアイテムのほうが、オーダーメイドよりも総合的な出費が少なく済む。

 この辺も、作業の流れを見ながら、用語wikiで確認したものだ。


 ドロップと同時にポップアップウィンドウが出現し、デザインを指示できるようになる。この場合、素材アイテムと設計図によって複数のパーツや柄、カラーが選択でき、それらの組み合わせによって自由な防具デザインを決定できる。その後、エドは自前のハンマーを構え、勢いよく素材に向かって振り下ろした。


 かん、かん、かん、かん。


 小気味のいい金属音が、鍛冶場に響く。


「できました」


 完成した防具は、〝ランカスター霊森海〟に生息する植物系モンスターの素材を流用した防具である。一部に金属素材を使用しているとは言え、その大元の素材を想起させないほどにカラフルであり、先鋭的なデザインをしている。イチローは、軽くタッチして性能を確認してみた。

 ドライアドメイル。防御修正+72、スキルスロット+8、耐久値102/102。値段は7200ガルト。あっさり確認できたのは、どうやらこれがすでに売り物オブジェクトとして認識されているかららしい。さすがに、イチローがいま着ている課金装備とは性能が違う。


 背後でアホ氏も満足そうにうなずいていたが、イチローの表情は晴れなかった。


「おや、兄ちゃん。うかねぇ顔だな。気に食わなかったかい」

「………」


 今のもそれなりに会心作であったろうに。エドのまとう空気が再び硬直する。


「あー、いや。少し思っていたのと違っただけさ。ただ、やっぱり妙な妥協はナンセンスだと思うしね。少し考えさせてくれないか」

「おいおいワガママな兄ちゃんだなぁ。こんな良い防具をあっさり作れる鍛冶師ブラックスミスなんてあんまりいねぇぞ」

「ナンセンス。その防具は確かに客観的に見て高い性能を持つが、『良い防具』かどうかは、僕が決める」


 イチローは手をひらひらと振った。


「とは言え、グラスゴバラをぐるっと回って、それでも納得できるものが見つからなかったら……まぁ、親方に頼むとしようかな」

「えぐいことをサラッと言うね。まぁ、待ってるよ」


 挨拶もそこそこに、イチローはグラスゴバラUDX工房を後にする。鍛冶場を出る途中、雰囲気の変化に気づいた何人かの職人プレイヤーが手を止めていた。一瞬だけ、あのエドという青年には申し訳ないことをしたか、という意識が頭をよぎり、即座にそれを打ち消す。ナンセンス。僕は、自分に妥協して相手のプライドを立てるほど器用に出来ちゃいない。彼の作った防具が、イチローの要求ラインを満たせなかったのは事実なのだ。

 だが、親方ならそれを達成できるかというと、また微妙なところだな。

 結局、防具のオリジナルデザインというものは、用意された複数のグラフィックを組み合わせて作るものでしかないらしい。で、あるとすれば、イチローの求める、完全な一点モノというのは、出来ないのではないだろうか。


 イチローは、何か手段はないのかと、専用ブラウザを開いて検索を開始する。

 このブラウザと同じように、ゲーム中に使用できるミライヴギア専用のソフトウェアは複数ある。その中のひとつが、イチローがキャラクターエディット時に使用した3Dモデリングソフトだ。キャラクターエディットにこのソフトが使用可能であるということは、防具にも適用可能であってもおかしくはないと思うのだが。

 いや、しかし、グラフィック環境に最適化するために、手数料がかかったな。イチローにとってははした金以下でしかない金額だったが、一般市民にとってはそうでない可能性がある。


 となると、やはり、完全なオリジナルデザインを求めるのは、絶望的だろうか。


 逆戻りか。アホ氏に出会う前のような暗澹たる足取りで、イチローは職人街をぶらつく。表通りから裏路地に入り、小さな露店の軒先に並べられた、怪しげなポーションやら何やらを眺めていると、不意に彼の目に付くものがあった。


 アクセサリーだ。


 しかもあまり見ないデザインである。ここグラスゴバラにおいても、オリジナルのアクセサリーは見かけない。加工に必要な《細工》スキルが、不遇スキルであるというのがもっぱらの理由で、苦心してアクセサリーを作ってみたところで、けっきょく全体から見ればオマケ程度の才能にしかならないからだ。


「あー、君、このアクセサリーなんだけど」

『いらっしゃいませ、アイリス商店へようこそ!』


 声をかけた相手は、笑顔で応対してくれたが、直後にプレイヤーでないことに気づく。かと言ってNPCでもない。プレイヤーキャラクターがログアウト中、販売したいアイテムを代わりに売買してくれる売り子アバターという奴だ。値下げ交渉などができない分融通は効かないが、生産職の中でも、仕事や学業などで張り付いていられないプレイヤーが、時間の有効活用として売り子アバターに露店を任せるケースは多いらしい。

 と、なると、ここで彼女に声をかけても求めた解答は得られないかな。


「店長さんはいつ帰って来るかわかるかい?」

『アイリスは、毎日19時ごろにログイン予定です』

「ふーん。じゃあ待たせてもらおう。あぁ、軒先に出ているアイテム、全部くれないかい」


 イチローがそんなことを言い出したのは、ふと思い立ったことがあるからだ。まさか、このゲームで最初に通貨ガルトを使うのが、こんなところとは。出費自体は大して痛くない。軒先からインベントリ内に移動したアイテムオブジェクトを実体化させ、手にとって見る。

 実にイチロー好みする、青い蝶の翅をモチーフにしたブローチだ。今にも飛び立ちそうな躍動感はないものの、まるで宝石のような美しさがある。

 少しばかり、ポリゴンが荒いか。だが、ディティール・フォーカスが発動しないということは、これがプログラムの用意したグラフィックでないことを証明している。

 完全なるハンドメイド。一点モノのデザイン。

 イチローは、滅多に見せることのない笑みを、その顔に浮かべた。このアクセサリーの性能、たかだか2か3程度しかない修正値など、まったく気にならない。イチローは見つけたのだ。自分の求める生産スキルを持つプレイヤーを。


 メニューウィンドウの時計を見ると、6時48分。

 イチローは、この露店の主である、アイリスなる人物が姿を見せるのを、今か今かと待ちわびることにした。

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