表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VIBES LOGIC - 生命の螺旋Ⅲ Life loop めぐりの螺旋  作者: 御園しれどし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

第二章:Make it & Let it go - 創造と手放し

 1. 荒野のリズム


 聖華市の外郭、かつて高度な物流ターミナルだった場所は、今や「リ・コンストラクト」の実験場と化していた。彼らは「無駄の排除」をスローガンに、'空を覆う無機質な羽音を立てるドローン群による完全自動配給システムを再構築し、人々から試行錯誤して「選ぶ」という人間らしい行為さえも奪い返そうとしていた。


「……相変わらず、趣味の悪いリズムだな」


 荷物搬入路の影で、一台の使い古されたサンプラーを叩く男がいた。


 シンだ。数年の放浪を経て、その肌は陽に焼け、眼光はさらに鋭さを増している。彼の鳴らすビートは、かつての攻撃的な重低音から、環境のノイズを取り込み、調和させるような複雑な厚みを備えていた。


「誰だ!」


 リ・コンストラクトの武装警備員が銃を向ける。だが、シンは動じない。


「なにかを創り出すとき、その過程で削れた魂の跡こそがHistoryヒストリィだ。……あんたらの機械には、積み重ねてきた『痛み』が足りねぇんだよ」


 シンがパッドを叩くと、警備員たちの通信デバイスがハウリングを起こし、彼らは耳を押さえてうずくまった。その隙に、シンは闇へと躍り出た。



 2. 三人のセッション


 山間のカイの作業場に、シンが姿を現したのは、アカリとの再会から数日後のことだった。


「よう、解析屋。まだそんな古臭いゼンマイと格闘してんのか」


「シンか……。お前のビートが、山の鳥たちを驚かせているぞ」


 カイの声には、かつての刺々しさはない。'シンの刻む複雑なリズムと、カイの穏やかな息遣い……。二人は言葉を交わさずとも、互いの「音」を聴くだけで、その歳月がもたらした成熟と変化を理解し合っていた。


 アカリが持ってきたレンズを、シンも覗き込む。


「……なるほどな。人とモノ、人とこの世の境界が溶け合って見える。レンが言ってた『New Dimension』ってのは、この景色のことだったのかもな」


 アカリが地図を広げる。


「リ・コンストラクトの目的は、この『レンズ』で見える真実の姿を、再びデジタルなレイヤーで塗り潰すこと。彼らは不便さを『腐敗』と呼び、人々の『手の仕事』を奪うことで、管理社会を再起動させようとしているわ」


 3. 手放す勇気


 その夜、三人は囲炉裏を囲み、それぞれの「いま、ここ」を語り合った。


「生きることは、'いずれ土に還るいのちを産み落とすこと。……俺は旅の途中で、それを見た。創造と同じくらい、去りゆくものを見守る勇気が必要なんだ」


シンが焚き火の音をサンプリングしながら呟く。


「創ることだけじゃない。なにかを手放すとき(Let it go)、去りゆくものの軌跡を愛することも、めぐりの一部なんだ」


「手放す自分、か」


カイは、自分の指先を見つめた。かつての自分は、音を「解析」し、「正解」を出すことに執着していた。だが今は、不完全な蓄音機のノイズにさえ、愛おしさを感じている。


「答えは、Right now(いま、この時)。逃しちゃいけない、魂の書き取り……」


 アカリのレンズが、突如として激しく発光した。


 街の地下深く、かつて封印されたエネルギー循環システムが、リ・コンストラクトの手によって強引に引き出されようとしている。


「ノイズを消して、静かに整える……。行くぞ、シン。アカリ。俺たちの『暮らしの解像度』を、街全体にリ・アレンジしてやる」


 カイは、数えきれないほどの傷跡を修復した蓄音機を、壊れやすい生命のように大切に抱え、山を下りる決意をした。それは世界を支配するためではなく、壊れかけた街の調律を整えるための、祈りに似た手仕事の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ